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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 5月26日 女の幽霊

2024-05-26 10:42:37 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 5月26日 女の幽霊




 私のおばが大型ショッピングモールで清掃のパートをしてた時の話です。
当時オープンから一年ほど経ってはいたものの建物も設備もまだまだ綺麗で、田舎の割に繁盛していた。
 しかし、そこに勤める従業員の間で不穏な噂が流れ出した。
それは、二階のトイレに女の幽霊が出るというものだった。
話としてはありがちだが、記述の通り建物も新しく、元々はただの田畑で曰く付きの土地でもない。
おばが初めてその噂を耳にした時は、学校の怪談とか都市伝説くらいの感覚だったらしい。
 しかし、その噂が出るのと時を同じくして、従業員の怪我や病気が増えていった。
とはいえ何百人もの人が働いていれば多少の偶然はあるだろう。
だか不思議な事に、怪我や病気になった従業員の大半は二階フロアで働く人ばかりだった。
 そこのショッピングモールは防犯も兼ねて、お客と従業員が同じトイレを利用することになっている。
つまり件のトイレを普段から利用していると思われる人ばかりに何らかの影響が出ていたのだ。
 それは清掃パートも同じで、二階トイレ担当になった人は体調不良で次々と辞めていくようになった。
そのうち清掃パートの間でも、あそこのトイレだけは嫌だという声が続出し、
仕方なく一部のパートと本部社員が当番で担当するようになった。
 それからしばらくしたある日、清掃の新人パートとしてAさんという中年女性が入社してきた。
仕事を一通り覚え、他のパートさんたちと打ち解け始めた頃、例のトイレの噂が話題に挙がった。
 みんなが、

「 気持ち悪いわよね。」
「 当番の人には申し訳ないけれど、私は本当に勘弁してほしいわ。」

などとぺちゃくちゃお喋りしていると、急にAさんが、

「 じゃあ、私が今日(幽霊を)持って帰ってあげるわよ。」

と言い出した。
その場が一瞬静寂に包まれ、すぐにみんなの大きな笑い声が響いた。
 パートの一人が、

「 やだぁ、どーやって持って帰んのよ~?」

と聞くと、Aさんは自転車の荷台に乗せて帰ると言う。
面白い事言う人ねえという雰囲気のまま休憩が終わり、各自持ち場に戻って行った。
おばはその時その場にはおらず、休憩から戻ってきたパート仲間に笑い話としてその話を聞いたそうだ。
 そしてその日の終業後、おばは偶然自転車置き場から帰宅しようとするAさんに会った。

「 聞いたわよぉ。
あのお化け持って帰るんですって?」

とおばが話しかけると、Aさんは真面目な顔で、

「 そうよ。」

と言い、自転車に跨がったまま荷台をくいっと指差した。
その真面目な顔に少し戸惑いを覚えたおば(冗談だと思っていた)は、

「 そ、そぅ…気を付けてね。」

と苦笑いで手を振った。
Aさんは笑顔に戻り、

「 じゃあ、また明日ね。」

と元気に自転車をこぎだした。
 翌日、朝礼でAさんが昨日の帰宅途中に大型トラックに跳ねられ亡くなった、
と知らされたおば含むパート仲間は一斉に仕事を辞めた。












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日々の恐怖 5月21日 じーちゃん

2024-05-21 09:55:30 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 5月21日 じーちゃん




 前にじーちゃんが亡くなった時の話です。
俺ん家とじーちゃん家は隣り町で、ジジババっ子の俺は小さい時は毎週末のように遊びに行って、
サザエさん見てみんなで飯食って帰るのが日曜の楽しみだったんだけど、
社会人になってからは仕事が忙しいのと住んでるトコも離れちゃって、
ここ4、5年は盆暮れ正月くらいしか顔を出さなくなってた。
それでもジジババは満面の笑みで迎えてくれたりして、もっと短い間隔で来れたらなぁとか思ってた。
 んである日の朝、会社行く支度してたら突然ばーちゃんから電話があって、
『朝起きたらじーちゃん突然冷たくなって全然動かない』って震えた声で言われて、
会社に連絡すんのも忘れて飛んでった。
 じーちゃん家についたら、俺の両親とばーちゃんと親戚の人が先に来てて、
じーちゃんの寝てる布団の周りに座って泣いてた。
最初はいつもと変わらないじーちゃんの顔で布団に寝てる姿を見て、ぜんぜん実感がわかなかったけど、
そばによってじーちゃんの額をさわったらヒヤッとして、

” あぁ、ほんとに死んじゃったんだ。”

と思ったら、ボロボロ涙が出てきてめっちゃ泣いた。
 それから滞りなく葬儀の準備が進んで、自宅から葬儀場に移動する前日の夜、じーちゃん家側のイトコ家族がやってきた。
俺と歳の近いイトコの兄ちゃんと奥さん、2歳になる娘さんの3人で。
 線香あげて飯食って、歳の近いイトコの兄ちゃんとはよく遊んだりしてたんで、
思い出話なんかして、また2人してちょっと泣いてってしてたら夜も遅くなったので、
イトコの兄ちゃんは子供寝かせなきゃだから一旦帰るってなった。
 俺は手伝いなんかもあるから、じーちゃん家に寝泊まりしてたんで、

「 また明日、斎場で。
明日は泣くなや。」

なんて言って、玄関先まで送ってったんだけど、そのとき2歳の娘さん(Aちゃん)が突然玄関出て2歩くらいの所で、いきなり、

「 じーじ!じーじ!」

と言い出した。
名残惜しいのかなと思って、俺が、

「 じーじ、さよならなんだよ。」

ってAちゃんに言ったら、またAちゃんが、

「 こりゃいいや!こりゃいいや!」

って、人差し指を立てながら、

「 じーじ!こりゃいいやー!」

って言いながら笑った。
俺はうんうんと言いながら、Aちゃんに、

「 じーじ、まだその辺にいるのかなぁ?」

なんて冗談を言ってみた。
ちなみに”こりゃいいや”ってのはじーちゃんの口癖で、子供とか見てて嬉しくなるととすぐ言うので、
やっぱ子供に印象に残りやすいんだなって思った。
俺はAちゃんのおかげで少しほっこりして、そのままイトコ家族は帰っていった。
 次の日はお通夜、俺と俺の父親と数人の親族は斎場で寝ずの番の役になった。
寝ずの番てのは俺の地元だけなのか、全国共通か分からんが、
朝まで棺桶の前のロウソクの火を絶やさないようにしないといけないので、
時折様子を見る役、ゴッツイロウソクなので朝まで余裕で火は消えないけど、風習として残っている。
寝ずの番と言っても交代で寝る。
 その寝ずの番の中にはイトコの兄ちゃんもいて、控室みたいな別室で、
最初は数人で酒を飲みながら談笑したり泣いたりしてたんだけど、
2~3時間くらいしたら親父含む親族は皆寝てしまった。
 起きてるのが俺とイトコの兄ちゃんだけになって、兄ちゃんが突然、

「 なぁ、昨日はちょっとビックリしたな。」

と言ってきた。

「 は・・?」

と思って、

「 何が?」

って聞き返したら、兄ちゃん、

「 そうか、気づいてなかったか。
いや、昨日Aが”こりゃいいや”って言ったろ。」
「 うん」。
「 ウチのAは物心がついてから後、じいちゃと会ってないんだよ。
それに”こりゃいいや”なんて普段日常で使わないだろ?
それに家でも一回も言ったことないんだよ。
だから、びっくりした。」

俺はやっぱり、

「 は・・?」

ってなって、そんで、やっぱりじーちゃんは昨日あの時玄関にいたんだ、
いま考えるとAちゃんが指差してたのもじーちゃんだったんだ、
と気づいて、こんな体験をしたことが無い俺はちょっと、

” ゾクッ!”

とした。
 でも、よくよく考えたら、Aちゃんをあやしてたじーちゃんはきっと笑顔だったんだろう。
そうゆうじーちゃんだったからなぁ、と思ったら、幸せに逝ってくれたんだなと思って、先ほどのゾッとした気持ちは吹き飛んで、またちょっと泣けた。











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日々の恐怖 5月18日 心が弱ったとき思い出す、ある人の”じーちゃんの話”

2024-05-18 10:38:35 | B,日々の恐怖





日々の恐怖 5月18日 心が弱ったとき思い出す、ある人の”じーちゃんの話”





 うちのじーちゃんは、とある伝説の持ち主である。
じーちゃんは何の病気か知らんが、俺がちっさいころに死んだ。
そのとき、ハートビートセンサーっていうのか?
心拍が止まった時に、

” ピーーーーーー!”

てなる奴あるじゃん?
アレが、

” ピーーーーーー!”

って鳴って、脈とって医者が、

「 ご臨終です。」

って言ったのよ。
その瞬間、じーちゃんが

” がばっ!!!!”

って上半身はね起きて、ニッカリ笑って、

「 根性の勝ちや!」

って言った。
一同、心臓が飛び出るくらいに驚いた。
看護婦さんが、点滴のつり下げる台に引っかかってこけてたのを覚えてる。
 おかげでじーちゃんの死に顔はニッカリ笑顔だった。
そのまま上半身だけ起こした姿で、もっかい死んだ。
 遺書にこうあった。


” 
昔、軍に居た頃に、先に死んだ同僚が泣き言を言った時に、

「 根性と気合で人は死をも乗り越える!」

って言って励ましてた事を今でも気にしていて、ならば自分が試してみれば良いと。
実践するから残った者はよく見ておいてくれ。
もしそれが出来れば、意思は何よりも強いと言う事だ。
私に出来て他の者に出来ぬ道理は無い。
私が出来たのなら、それに習って何者にも負けぬ意思で生きてくれ。
もし出来なければ、この遺書は燃やせ。
恥を残して死ぬのはやんぬるかな。
                      ”


 馬鹿なじーちゃんだ、アホすぎる。
おかげで葬式までその話題で持ち切り。
まぁ、俺はそれを見習って、この前ホノルルマラソンを完走できた。
ダイヤモンドは砕けない、を実践したボケジジイだったようで。
 俺も死ぬ時は心臓止まってから、

「 我が生涯に一片の悔いなし!」

って叫ぶか。

 担当医が自分から進んで葬式に来る位インパクトのある死にっぷりだったし。
その話題のせいで、泣いてる葬式じゃなかったのを今でも覚えてる。
つーか医学的にはありえんのかね?
心臓停止の状態のまま覚醒してしゃべるっていうのは。
ちょっとその辺はわからないんだけど。

「根性論は時代遅れ」

って言ってるクールな社会の連中に一言。

「根性で出来ない事は多いけど意外にできる事もある」

ま、炎天下で水を飲まないとか別だろうけど。












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日々の恐怖 5月11日 コースターの顔 

2024-05-11 15:01:18 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 5月11日 コースターの顔 





 あるとき、会社の飲み会である同僚の隣になったことがありました。
飲み会は盛り上がり、かなり時間が経ち、寝始める人や帰る人もいる中、お酒が強い私と同僚はほとんど飲み比べのようになっていました。
 しばらくして、ふと同僚がグラスを載せる紙の丸いコースターに、人の顔を描いていることに気がつきました。

” ずいぶん子どもっぽいことをするなァ・・・。”

と思った私は、

「 それ何してるの?」

と同僚に訊ねました。
すると同僚は、

「 ああ・・・・。」

と返事をして、

「 酔っていると思って聞いて。」

と言いました。

「 はなから、そのつもりだよ。」

と私が答えると、同僚はこんなことを話し始めました。

「 実はさ、俺むかしから、しょっちゅうのっぺらぼうを見るんだよ。」

 同僚の地元は温泉街で、家にあるお風呂に入るよりも近所の温泉に行くことの方が多いような土地だったそうです。
同僚は毎日夕方になると近所の同級生たちと温泉に行っていたのですが、温泉は朝の5時から開いており、たまに朝風呂に行くこともありました。
 そんな彼が小学生のとき、朝風呂に行くと一人のおじいさんが身体を洗っていました。
同僚が、

「 おはようございます。」

と背中に声をかけると、おじいさんは、

「 あ~い、おはよう。」

と答えました。
その声としゃべり方で同僚は、

” 近所のあのおじさんだ。”

と分かったそうで、自分もお風呂に入って身体を洗うことにしました。
 しばらくして、同僚が湯船に浸かろうとしたときでした。
おじいさんが、ふと、

「 きれいになったか?」

と聞いてきたそうです。
声につられておじいさんを見ると、おじいさんは眼も鼻も口もなかったそうです。
怖くなった同僚は慌ててお風呂を出て、一目散に家に逃げ帰ったとのことでした。
 この話を聞いて私が、

「 狐にでも化かされたんじゃないの?」

と言うと、同僚は、

「 それなら良かったんだけど・・・・・。」

と歯切れの悪い言い方をしました。
 気になって話を聞いてみると、実はそのおじいさんはその日の夕方警察に捕まったのだとか。
なんでも前の日の夜、奥さんと口論になって殺してしまったそうで、同僚と一緒にお風呂に入っている時には、すでに奥さんを殺した後だったとのことです。

「 ニュースにもなったからビックリしてさ。
それから俺なんか分かんないけど、丸い形を見ると怖くなるっていうか、どうしても顔を描いちゃうんだよね。」

そんなことを言いながらコースターに顔を描いている同僚に、

「 へえ~、不思議なこともあるね・・・。」

と言っていたのですが、途中であることが気になっていました。
それは同僚が最初に言った台詞です。

「 実はさ、俺むかしから、しょっちゅうのっぺらぼうを見るんだよ。」

殺人を犯した人が、同僚にはのっぺらぼうに見えるのだとしたら、彼は今まで、どれくらいののっぺらぼうを見てきたのでしょうか。












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日々の恐怖 5月2日 再会(5)

2024-05-02 08:31:28 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 5月2日 再会(5)




 激しく混乱しているのは明らかだった。
話をしている最中も奇妙な仕草を取った。
奴はバシバシ自分の頭を叩きながら、ごくごくお茶を飲んだりした。
 突然額の上の部分を押さえて、

「 また声が聞こえてきた。」

などとうめいた。
 俺に耳を当てて聞いてくれと言うのでその通りにしたが、何も聞こえなかった。
だがその間、奴は聞き取れないほどの早口で、時代がかった言葉を唱えたりした。
支離滅裂な話に数時間付き合わされたせいで、こちらもひどく消耗してしまった。

「 俺はお前のことを覚えていない。」

奴にそう言われて、かなり安堵したのは確かだ。
こちらの手におえる話ではない。
係わり合いになるのも嫌だと感じ始めていた。

「 お前もすぐに俺のことを見失うさ。」

一瞬奴の表情が変わった。
はっきりと悪意を感じた。

「 こいつは俺のもんだ。」

背すじがぞっとした。
俺は見知らぬ誰かに睨まれていた。
 奴は甲高い笑い声を上げながら自転車にまたがった。
俺は奴を引きとめ、奴の正体を確かめようとした。
その時だった。

「 おいっ!」

背後から声を掛けられた。
振り向くと、何も無かった。
そこには暗く深い海が広がっているだけだった。
 自転車の音が後ろで遠ざかっていく。
振り返るも、奴の姿は暗闇に消えた後だった。
 半年後、高校の友人から、ある話を聞いた。
体育教師が轢き逃げに遭い、亡くなったらしい。
その妻はA子。
まだ、犯人は見つかっていない。







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日々の恐怖 4月25日 再会(4)

2024-04-25 11:34:52 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月25日 再会(4)





 その声は、ある時は歌いながら、またある時は怒鳴りながら、しつこく奴に語りかけた。
奴はとうとう根負けして、その声に耳を貸した。

「 会話が成立したんだよ。
ここが分裂病と違うところだ。」

奴は声の主にその証拠を見せろと言ったらしい。

「 あの体育教師が事故って死んだだろ。」

奴を目の敵にしていた教師が死んだと言うのだが、そんな事実は無かった。

「 A子から告ってきたよ。」

学校でも美人で人気があった女の子が、奴に付き合ってくれと言ってきたそうだが、彼女は他の男とずっと付き合っていた。
 俺がその事を否定すると、奴は自信ありげに答えた。

「 新聞の切り抜きもあるし、A子からもらった手紙もあるんだ。」

おまえの妄想だと言うと、奴は笑いながらぼろぼろになった学生証を見せた。

「 最初のうちはうまくいってた。
受験勉強なんて睡眠学習だけだったしな。」

奴は声のアドバイスに従って、一日中寝ていたそうだ。

「 でも一人暮らしを始めてから、おかしな事がずっと続くようになった。
見たことも無い景色を見て、会った事も無い人間のことを覚えていたりした。」

偽りの記憶と本当の記憶の狭間で奴は混乱し、誰からも相手にされなくなったと言う。
さらに、偽りの記憶の方が鮮烈だったりして、奴の現実は圧倒されてしまったらしい。









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日々の恐怖 4月17日 再会(3)

2024-04-17 19:23:06 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月17日 再会(3)





俺は悲しくなって奴の肩に手をかけた。

「 俺××だよ。
そっちこそ俺のこと忘れたのか?
それより、どうしてここにいるんだ?
向こうの大学に行ってたんじゃないのか?」

奴は何も答えず、自分の頭を手でなでている。

「 立ち話もなんだ、どっかファミレスでも入るか?」
「 いや、人がいる所じゃ緊張してしゃべれない。
誰もいない静かな場所がいい。」

奴はそれだけ言うと、自分の自転車にまたがった。
そして行く先も告げず、いきなり立ちこぎしながら走り出した。
 辿り着いた場所は、倉庫が立ち並ぶ埠頭だった。
奴は自転車を降りると、自動販売機でお茶を買った。
それから防波堤に腰掛け、ポケットから薬袋を取り出すと、幾つかの錠剤を飲んだ。
その間、会話は無かった。
俺が隣に座り、二、三話し掛けるが、目を閉じてうつむいている。
 成す術もなく真夜中の海を眺めていると、奴は急に切り出した。

「 俺はもうすぐ死ぬけど、これから話すことを信じて欲しいんだ。」
「 自殺する気か?」

驚いてそう言う俺の顔を、奴は初めて見つめた。

「 医者の馬鹿にはこう言った。」

奴は落ち着いて、至極まともに見えた。

「 俺は悪魔に魂を売った。
その返済が近づいてる。
返済を拒否してるから、俺は毎日責められてる。
どいつもこいつも同じ事を言う。
精神分裂病だとさ。」

奴は取り留めの無い話を始めた。
それをまとめるとこういうことだった。
 ある日、頭の中で声がした。

『 俺の言うとおりにしろ。
そうすれば、おまえの希望を叶えてやる。』

奴は最初その声を無視した。











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日々の恐怖 4月11日 再会(2)

2024-04-11 17:34:51 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月11日 再会(2)





 それから二年の月日がたったある日、俺はバイト先の古本屋で奴に再会した。
うだつのあがらない退屈な日々を過ごしていた俺は、時々奴のことを思い出していたのだが、
その再会は思いも寄らぬ事だった。
奴は深夜閉店間際に現れた。
 一目でその異様さに気が付いたが、それが奴だと分からなかった。
つるつる頭に銀縁めがね、白髪まじりの無精ひげ。
がりがりに痩せこけていた。

「 すいません、もう閉店なんすけど。」

俺は立ち読みに耽る奴に声をかけた。
顔の肌はアトピーで荒れ、眉毛は無かった。
それでもかすかに面影があった。

「 もしかして○○?」

思わずそう訊ねると、奴はあらぬ方をきょろきょろ窺いながら、
後ずさりするみたいに店を出て行った。
ショックだった。
あれが本当にあいつなら、完全に気がふれていると思ったからだ。
 その夜、複雑な気分のままバイトを終え、原付の置いてある駐車場に向かった。
シートからヘルメットを取り出そうとすると、不意に背後から声を掛けられた。
奴は自動販売機の影に潜んでいたらしい。

「 俺のこと分かるのか?」

突然のことで驚いたが、俺はすぐに気を取り直して答えた。

「 ○○だろ?」
「 本当にそう思うか?」

ああ、やっぱりこいつ頭がおかしくなってる。

「 中学からの付き合いだ。
忘れるわけないだろ。」









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日々の恐怖 4月6日 再会(1)

2024-04-06 14:28:15 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月6日 再会(1)





 かなり前の話になる。
ある日、俺は中高時代に友人だった男と二年ぶりに再会した。
まず、そいつのことを紹介しないと話は始まらない。
少し長くなるが、興味のある人は聞いてくれ。
 そいつと俺が通っていた高校は、まあ平凡な進学校というのか、
市内で五番目くらいのレベル、というと想像できるだろうか。
そんな高校の落ちこぼれグループに、俺とそいつはいた。
中途半端なヤンキーですらない、今思うと恥ずかしいツッパリみたいなものか。
くだらない事でいきがる、バカそのものだった。
 で、そいつは三年になってからがらっと人が変わった。
何があったのか知らないが、受験勉強に専念し始めた。
学校にいる間は、休み時間もずっと勉強していた。
俺らとの付き合いを一切断ち、傍から見ると呆れるくらい一心不乱に勉強した。
 成績も夏休み前くらいから急上昇し、ついに二学期は試験以外登校しなくなった。
そして、冬休み前の試験では、ついに学年トップになった。
教師も見てみぬ振りをした。
クラスからも完全に浮いて、机の上にはいつも花瓶がのっている有様だった。
 俺は密かに奴に憧れていた。
ストイックを通り越して狂っているようにも見えたが、絶対に中途半端ではなかった。
そんなことができる人間に、俺は畏敬の念を持っていた。
 やがて受験シーズンが到来した。
俺は市内の無名私立大に何とか滑り込み、あいつは有名国立大に合格した。
学校でもウン十年ぶりの快挙だった。
卒業してすぐ、みんな浮かれ騒ぎで夜の繁華街に繰り出す中、あいつは飲み会に一度も参加することなく、
誰の賞賛も受ける気はないらしかった。








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日々の恐怖 3月29日 鍵

2024-03-29 09:42:50 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 3月29日 鍵




 ある男性とのおつき合いが始まった頃、彼がアメリカに2週間程出張するというので、当時、
仕事もなかった私は、彼の三匹の猫の世話で、彼の家で2週間留守番することにしました。
でも、彼の家では前の奥さんが亡くなっていて、(もっとも、亡くなって7年ほどになりますが)
亡くなっているとはいえ、私が先妻の立場だったら、嫌なんじゃないかと思っていました。
 そして、アメリカに行く彼を見送った帰り、彼の家に戻ってほっと一息ついたとき、
ふと飾ってある亡くなった奥さんの遺影に、

「 私がここにいてもいいのかしらん?」

と尋ねました。
 次の日、買い物に行こうと玄関に置いてある鍵をみると、家の鍵だけがなくなっています。
車の鍵と一緒にコイル状の金具できっちり付いていたはずなのに見つかりません。
家中探しましたが、その日は結局見つかりませんでした。
 その時ふと思ったのです。
鍵がないということは、外には出られないということになります。
ということは、私はこの家に居なくてはいけないという意味に取れます。
そして、再び遺影に尋ねました、

「 私はこの家に居ていいのですね。」

と。
 その後、暇に任せて家中の大掃除をしていたとき、ゴミみたいな物の中に紛れ込んでいた
彼女の日記が見つかりました。
盗み見みたいですが、その時は自分の疑問の答えのような気がして読みました。
彼女は結婚後すぐから死ぬまで、他の男性を熱烈に愛していたようで、後半の日記には、
彼女の夫であるはずの彼の名前すら誤字で記されていたのでした。
なんだか、彼女に、

” 私の分まで愛してあげてね。”

と引導を渡されたような気がしました。
 その後、彼と結婚しましたが、私が家に来てから丁度一年後、いつも着ているコートのポケットから、
チャリンと消えたはずの鍵が玄関に落ちました。










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日々の恐怖 3月20日 石の家(3) 

2024-03-20 10:31:37 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 3月20日 石の家(3) 





 会社に戻るといきなり社長に俺たちは怒られた。
コウさんが激怒して会社辞めるって飛び出した。

「 お前たち何したんだ!」

って怒られたけど、俺たちに分かるわけがない。
だから社長に、

「 あの石のある蔵を壊そうとしたらコウさんは怒り出して、いきなり帰ったんでわかりません。」

て言ったら、社長は俺たちを突き飛ばすようにダンプに積んだ石の所に行って、

「 早くこれを運ばんか!」

って怒鳴り始めた。
 本当に訳がわからなかったけれど、社長の言う通りに応接間にその石を社員総出で運んだ。
そして社長は、それを応接間のソファーの上に置かせた。
それから暫くして、社長はその石にお茶を出したり話しかけたりするようになった。
俺たちと社長の息子は気持ち悪いと思ってたけれど、何も言わなかった。
 1週間くらいしたら、社長が突然、

「 息子に跡を継がせる。」

って言いだした。
 息子にしても本当に突然だったみたいで、会社はしばらくバタバタした。
しばらくろくに仕事できねえだろうなと思って、俺はバイトをしばらく休むことにして、沖縄に2週間旅行しに行った。
 帰ってくると会社はすっかり新体制で動いてた。
息子に、

「 社長は・・・・?」

って聞いたら、石と一緒に遠くの実家に行っちゃって、連絡しても満足に帰ってこないって言っていた。

「 あの石、やばいもんなのかな?」

って息子に聞いたら、息子もそう思ったらしくて、あの民家の近所の人に聞いたみたいだ。
 それによると、過去2人あの蔵で死んでるということを聞かされたと言った。
一人はその家のご主人、もう一人は全く知らないその街のものですらないオッサン。
二人共、事件性はなかったみたいだけど、って話だった。
 それから数ヶ月して俺もそこをやめちゃったから、その後前社長がどうなったかは知らない。
ただあれから10年以上たったけど、会社はまだ続いてる。
というか息子がうまくやったのか、新しいビルを建てるくらい儲かってるみたいだ。

” やっぱりあの石ってなにかヤバイ、もしくは不思議なもんだったのか・・・・?”

なんて、ふと思ったりする。








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日々の恐怖 3月14日 石の家(2) 

2024-03-14 21:28:15 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 3月14日 石の家(2) 




 興味の出た俺は、その家に入って社長たちを探すことにした。
門から入ると、母屋と荒れてはいるが広い庭。
そしてその庭の片隅には蔵が三つ並んでいた。
ちょうどそこに社長の息子の姿があったから、俺は蔵の方に歩いて行った。
 社長と息子がいたのは、三つの蔵のうち真ん中の蔵。
社長はその中にいたんだけど、その蔵の中が変わっていた。
その真ん中の蔵だけ正方形で、その中央に土俵みたいに円の形で、白い石が埋め込まれてて、
そのまた円の中央に、1m真っ角くらいの黒い石の板と、直径1mくらいの白い石の板が向かい合うように立っていて、
社長はそれをずっと眺めていた。
 俺は、

” モノリスみて~だなァ~、気色ワリィ~。”

としか思わなかった。

 その日はその家を調査して帰ったが、数日後すぐにその家の解体を請けることが決まった。
解体初日の朝、会社に集まると珍しく社長が出てきて俺たちに言った。

「 蔵にある石の板は、絶対に傷つけずに持って帰って来い!」

と言う訳で、俺たちは現場であるその家に向かった。
 木造の家屋なんて壊すの簡単なんだよ。
広い道と土地さえあれば重機で一気にやっつけちゃうんだけど、朝の社長の一言があったから、
真ん中の蔵には手をつけず、他のとこからバンバンぶっ壊していった。
 それで、数日たって真ん中の蔵ぶっ壊すかとみんなで中に入ったら、いきなりリーダーのコウさん(超マッチョな中国人)が、
蔵の外へ飛び出して吐き始めたんで、俺たちが、

「 どうしたんすか?」

って聞くと、

「 あの蔵、ヤバイよ、気持ちわるいよ。」

って言い出した。
俺たちは平気だし、やらなきゃ終わらねえから仕事続けようとしたら、コウさんは、

「 ヤバイから帰る!」

って、勝手にダンプの一台に乗って帰ってしまった。
しょうがねえから俺たちだけで壊して、例の石は養生してダンプに積んで持ち帰った。










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日々の恐怖 3月7日 石の家(1)

2024-03-07 09:43:03 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 3月7日 石の家(1) 





 昔、解体屋でバイトをしていた。
家屋を解体してると、いろんな変わった家もあるし、中から変わったもんも出てくる。
特に、山の方の古民家や古民家はアツい。
押入れの中に骨がギュウギュウに入ってたり、漆喰っていうか塗り物の壁の中に、長い髪の毛が入ってたり、家の真ん中に入口のない部屋があって、そこに小さい鳥居が立ってたり。
 結局は、何でもかんでも壊してダンプに乗せて捨てちゃうんだけど。
余りにも気味の悪いもんや縁起モンは酒と塩かけて、まあ結局は捨てる。
 そんな中でもある日、某渓谷のとある古くからの豪邸を壊す仕事を持ちかけられた。
そして俺は社長と一緒に運転手として下見に行った。
家の中の残置物とかの確認は、見積もりする社長とその息子が見るから、俺は車外でタバコ吸ってジャンプ読んでた。
 すると田舎に珍しい高級車が停まってるせいか、多分近所の婆さんが、

「 何しに来たのっ・・・?」

って、俺に話しかけて来た。

「 俺たちは解体屋で、この家を壊す下見に来たんだよ。」

と答えると、婆さんが、

「 ああ、この石の家を壊すんだねえ。」

って言った。
 見た目、普通の木造のでかい古民家だし、

「 なんで石の家なん?
医師の家?
お医者さんが住んでたの?」

と聞いたら、婆さんは、

「 いや、石があるんだよ。」

って言った。
俺は、

「 なにそれ?
壊すと祟られたりしちゃうの?」

って冗談で聞いたら、婆さんは、

「 知らないよ、ただ単に不思議な石があるみたいだよ。」

って笑って答えてくれた。










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日々の恐怖 2月28日 建物を間違えちゃったのかな?

2024-02-28 11:33:30 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 2月28日 建物を間違えちゃったのかな?





 不動産会社にいたときの話です。
入居して1ヶ月もしない入居者から、

『 この部屋、以前何かありましたか?』

とTEL。

俺:「 イイエ、特に何もありませんが。」

数日後、また同じ入居者から

『 本当に何もありませんでしたか?』

とTEL。
一応、先輩社員から確認したが特に何もないので、

俺:「 調べましたが、特に何もありませんでした。」

と返答。
またまた数日後、入居者から、

『 一度きてください、絶対なにかあります。』

俺:「 では近くに行ったときか、時間ができたら伺います。」

でも、どうせ池沼のクレーマーだと放置。
またまた、数日後、

『 あんた来てくれるっていたじゃないか!』

ってお怒りモード。
少々お怒りなので詳しく話を聞くと、特に浴室、

『 暖かい風呂に入っていても寒気がする。』

とのこと。
 まぁ、怒らせても余計面倒くさくなるので、訪問日時を設定。
訪問前に再度色々調査したが、特に何も無し。

 で、約束の日時に訪問。

入居者:『 お忙しいのにわざわざスミマセン。』

何だ普通に良い奴じゃん・・・・。

俺:「 じゃぁチョットお邪魔しますね。」

 再度調査したが何も無いことを伝えて、クローゼットの中はもちろん色んな所を調べるが、特に変わった箇所も無し。(お札とかも無かった)
そして、入居者が、

「 特に浴室が・・・・。」

って言うので調査のため一歩踏み入れたら、換気扇は回していないし、窓が無いUBなのにヒンヤリした感じ。
UBで調べる所といえば天井の点検口のみ。
 で、点検口をずらして見てみると、俺も、

「 ウォッ!」

って声にならない声を出してしまった。

UBに点検口があるマンションに住んでいるアナタ!
一度調べてみては如何ですか?

 上階との隙間にある配管に数本のネクタイが、首を吊れる感じでキツク結ばれて垂れさがっていた。
バスタブの縁に立って、その輪に首を入れてバスタブの縁から足を外したら良い感じだった。
取り合えず、そのネクタイを全部外して、敷地内のゴミ捨て場に捨てた。
それ以来、入居者から電話が来なくなった。

追記:前入居者が他で自殺したとかは、未確認。
で、俺が対応したその入居者も、それから半年か1年以内ぐらいだったかな?
荷物を全て残していなくなった。(これ本当)
家賃未納で、俺がその部屋に実際に確認に行ったから。

” あっ!この部屋って、あの時のっ・・・!”

て、部屋の前に行ってから思い出した。
 ここは、数棟同じ様な建物が並んでいて(デザインや築年同じ)、違う棟だが数年前に焼身自殺がありました。(これ本当)
そして、部屋の号数が同じ。
建物を間違えちゃったのかな?











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日々の恐怖 2月22日 佐藤さん 

2024-02-22 14:06:33 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 2月22日 佐藤さん 






 親父から聞いた話です。
親父が大学3~4年の間、男3人で小さくて古い一軒家を借りて住んでいた。
 といっても、家賃をちゃんと払ってるのは親父と鈴木さんだけ。
もう一人の佐藤さんはあまりにも貧乏なので、居候させる代わりに家の掃除、
ゴミ出しなどをやってもらうことにしていた。
親父と鈴木さんは、佐藤さんの困窮ぶりを助けてやろうということだったようだ。
 間取りは3LDKで、LDK6畳・6畳・6畳に4畳半。
佐藤さんが4畳半。
この佐藤さんの4畳半に出た。
 親父も鈴木さんも何度も見たのが、恨めしそうに正座する白髪の老婆。
出るタイミングも朝昼晩関係なし。
多い時には一日に三回くらい見る。
 4畳半の襖が開いている時、何気なく目をやると、中に白髪の老婆が恐ろしい形相で正座している。
来客の中にも見た人が5人ほどいたらしい。
 ところが、その部屋で寝起きしている佐藤さんだけは、老婆の幽霊を見ない。
親父と鈴木さんが、

「 佐藤、変なもの見たことないか?」

というと、佐藤さんはきょとんとするばかり。
 引っ越して1ヶ月し、親父と鈴木さんが黙っているのも悪いと思って、老婆の幽霊を佐藤さんに話した。
すると、佐藤さんは、

「 う~ん・・・・・。」

と考えてから、みかん箱を部屋の中に置いて、上にワンカップを置いて、

「 先に住んでいるおばあさん、ごめんなさい。
でも、俺は貧乏だから、どこにも行き場がない。
だから、申し訳ないけど、大学を卒業するまでは、この部屋に住ませてもらえないでしょうか?
毎日お供え物をするのは無理だけど、田舎からお茶とお米だけは送ってくるので、それだけは供えます。
バイト代が入った時には、お花を一輪と、ワンカップをひとつ買ってきます。
どうか、よろしくお願いします。」

親父と鈴木さんは、

” なに、やってんだろうな、こいつ・・・・・。”

と思ったが、佐藤さんが真面目にやっていたので、一緒にそのみかん箱に頭を下げた。

 以来、老婆の霊は出なくなった・・・・、わけではなかった。
相変わらず、老婆の霊は出た。
しかし、佐藤さんがみかん箱に毎日お茶を置き、ご飯を炊いたら一膳のせを繰り返しているうち、
1ヶ月ほど経ったら老婆の霊は、痩せこけた恨めしい姿から、ふくよかな微笑みをたたえた表情になっていった。
ただし、やっぱり佐藤さんにだけは見えなかったらしい。
 やがて親父たち3人は就職試験を受け、それぞれが望む職に就き、引っ越す日が来た。
遠方に住む大家さんに話をすると、親父たちが引っ越したらその家は取り壊してしまう予定だから、
特に大掃除などはしなくていい、という。
それでもやっぱり2年間お世話になった部屋だからと、最終日それなりに掃除を済ませると、もう夜中になっていた。
 3人が最終電車に間に合うようにと玄関を出て、最後に揃って振り返ると、佐藤さんが、

「 あっ!」

と声を出した。

「 お前らが言っていたおばあさんって、あの人か?」

” やっと佐藤にも見えたか!”

と、親父と鈴木さんも見たが、おばあさんはどこにも見当たらない。

「 ほら、あそこ。
俺の部屋で手を振ってるよ。
ありがとう、おばあちゃん!」

そして、親父と鈴木さんが見えたのは、家の屋根からスゥーと上っていく人魂だった。
人魂は、佐藤さんには見えなかったのが不思議です。
今から30年前、東京都板橋区でのお話でした。













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