日々の恐怖 4月17日 再会(3)
俺は悲しくなって奴の肩に手をかけた。
「 俺××だよ。
そっちこそ俺のこと忘れたのか?
それより、どうしてここにいるんだ?
向こうの大学に行ってたんじゃないのか?」
奴は何も答えず、自分の頭を手でなでている。
「 立ち話もなんだ、どっかファミレスでも入るか?」
「 いや、人がいる所じゃ緊張してしゃべれない。
誰もいない静かな場所がいい。」
奴はそれだけ言うと、自分の自転車にまたがった。
そして行く先も告げず、いきなり立ちこぎしながら走り出した。
辿り着いた場所は、倉庫が立ち並ぶ埠頭だった。
奴は自転車を降りると、自動販売機でお茶を買った。
それから防波堤に腰掛け、ポケットから薬袋を取り出すと、幾つかの錠剤を飲んだ。
その間、会話は無かった。
俺が隣に座り、二、三話し掛けるが、目を閉じてうつむいている。
成す術もなく真夜中の海を眺めていると、奴は急に切り出した。
「 俺はもうすぐ死ぬけど、これから話すことを信じて欲しいんだ。」
「 自殺する気か?」
驚いてそう言う俺の顔を、奴は初めて見つめた。
「 医者の馬鹿にはこう言った。」
奴は落ち着いて、至極まともに見えた。
「 俺は悪魔に魂を売った。
その返済が近づいてる。
返済を拒否してるから、俺は毎日責められてる。
どいつもこいつも同じ事を言う。
精神分裂病だとさ。」
奴は取り留めの無い話を始めた。
それをまとめるとこういうことだった。
ある日、頭の中で声がした。
『 俺の言うとおりにしろ。
そうすれば、おまえの希望を叶えてやる。』
奴は最初その声を無視した。
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