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「差別するな!」子どもたちの悲痛な叫び―九州無償化裁判、原告側が敗訴

2019-03-15 09:25:59 | (理)のブログ
朝鮮学校を無償化制度から除外したことは違法であるとして、九州朝鮮中高級学校の在校生、卒業生らが2013年12月19日に起こした国家賠償請求訴訟。昨日3月14日、福岡地裁小倉支部で判決が下された。

 結果は原告側敗訴。裁判所前で結果を待っていた同胞や日本市民たちは、落胆し、言葉なくうつむき、涙を流していました。あちこちで怒りの声が上がると、「声よ集まれ、歌となれ」の歌とともに裁判所への非難が広がっていきました。








 
 「私たちを差別するな!」「学ぶ権利を奪うな!」。

 留学同九州のメンバーが声を張り上げると、九州中高生徒たちがそれに呼応しシュプレヒコールをしました。「差別するな!」「奪うな!」と生徒たちが何度も何度も泣き叫ぶ姿に、周囲の大人たちは涙をこらえきれないようすでした。





 「私たちは最後まで闘う!」―。生徒たちはもうすでに次の闘いへの決意を叫んでいました。5年以上に渡って訴えてきたことを無視され再び深く傷つけられた当事者である子どもたちが、なお強くいなければならない現状、それを強いる日本社会のむごさを感じました。



 しばらくののち、裁判所の裏にある弁護士会館で記者会見が行われました。はじめに無償化弁護団の服部弘昭弁護団長が弁護団声明を発表。



 声明で弁護団は、国側が朝鮮学校を不指定処分にした二つの理由(▼ハ号削除、▼規定13条に適合すると認めるに至らなかったこと)は互いに矛盾すると主張したにもかかわらず、裁判所がその判断を避けたことを指摘しつつ、
―このように、審理の段階において明らかになっていた最も重要な論点について判断を回避したのみならず、朝鮮学校が朝鮮総連から「不当な支配」を受けているかという点について、原告らの検証申立てを却下し学校に赴いて事実を確認することもなく、また「不当な支配」が何を指すかも検討することなく、まして民族教育の歴史的経緯を振り返ることもなく、朝鮮学校が「不当な支配」を受けているとの合理的疑いが払拭できないなど、本件規定13条に適合すると認めるに至らないという文部科学大臣の判断に逸脱濫用がないとした。これは、国の主張をそのまま受け入れるものでしかなく、事実と証拠に基づいて判断を下すべき裁判官の職責を放棄したものに他ならない―
と辛辣に非難しました。これを見ると、裁判所による審議の過程は「していない」ことづくし。とても不誠実な判決であることが伝わってきました。



 続いて、判決の内容について安元隆治弁護士が発言しました。

 「朝鮮学校だけ無償化制度から除外するという差別的な国の政策に、司法が正面から判断を下すよう強く求めてきた。しかし今回の判決では、国による不指定処分の真の理由が政治外交目的だったという事件の本質について一言も触れていない」。

 安元弁護士も、国が不指定処分としている二つの理由の矛盾について言及しながら、「この不当な不指定処分について司法が正しい判断を下してくれると信じて闘ってきた。しかしあまりにも逃げ腰で、極めて残念な判決になっている。強い憤りを覚えている」とのべました。



 九州中高の全晋成校長は、福岡朝鮮学園の声明文を朗読しました。

 「行政府はもとより司法府までもが、不純な政治外交的動機により自らが定めた法の趣旨を歪曲してまで朝鮮高級学校の生徒たちを排除し傷つけながらも平然と居直る姿勢に、驚きと怒りを感じています」。声明文は、これからも多くの同胞と日本・韓国・世界の支援者とともに、良心と正義が実現するその日まで闘い抜くという決意で結ばれました。



 九州中高オモニ会の梁敬順会長は、涙をこらえるよう何度も口元を引き締めながら自身の心境を話しました。

 「悔しい思いでいっぱいです。子どもたちがどんな気持ちで今日を迎え、どういう思いで闘ってきたかを思うと本当に心が痛い。子どもたちをどんな顔で見つめ、どんな言葉で慰めたらいいのか…。でもこんな悔しい思いを二度とさせないためにも絶対に負けることはできません。他の4ヵ所で同じように闘っているオモニたち、支えてくれる多くの方たちの気持ちを忘れずに、勝訴のその日まで闘っていきたい」



 2013年度に九州中高を卒業し、現在は教員をしている余信徹さんも思いをのべました。

 「差別的な状況がこんなにもたやすく容認されたことがとても悔しいし憤りを感じています。在学中、卒業してからも今日まで自分たち、そしていま学んでいる子どもたちが当然のように自分の国の言葉や歴史を学んでいいんだということを伝えるためにも闘ってきたが、こういう形で一度ダメになってしまったことが非常に悔しい。しかし、いま学んでいる生徒たちもそうだし、これから学ぶことになる子どもたちに『自分たちが学びたいことを学んでいいんだ』ということを教えるためにも闘い続けていきます」



 その後、いくつか質疑応答が交わされたあと、「ほかに質問がなければ…」と、弁護団の事務局長を務める金敏寛弁護士が強調したい点について話しました。

 金弁護士は、“朝鮮学校を不指定処分にした二つの理由が同時に存在することは論理的に整合しない”という論点が東京高裁で出たものだと改めて説明。結果的に不当判決が出たものの、東京高裁はこの矛盾する関係をきちんと説明するよう国に指摘したとのべました。

 「九州の裁判ではそれを踏まえて、地裁の段階で裁判所に同じことを求めてきた。さらに言うとハ号削除こそが不指定処分の真の理由であり、規程13条自体は後付けの理由である、だから『ハ号削除は政治外交目的によるものだったか』という点をこそきちんと判断してほしいと丁寧に説明したにもかかわらず、今日の判決はそこになんら触れなかった。入口の議論をまったくしないまま、東京地裁と名古屋地裁での判決同様、『規程13条をクリアしない以上、ハ号削除は論じるまでもない』というところに落とし込んだ」

 九州では東京高裁で指摘された内容まで盛り込んで一歩進んだ主張をしていたにもかかわらず裁判所がまっすぐに向き合わず、結局は他の地裁判決と同じレベルの判決しか出せませんでした。目の前に突きつけられた問題提起を完全にスルーし、だれが読んでもおかしいとしか思えない判決を、裁判官はどんな思いで書いたのでしょうか。

 最後に、金弁護士が記者たちに呼びかけました。

 「今日の結果について、決して『朝鮮学校に対する差別的政策が続いている』というような論調で書いてほしいと思っているわけではない。裁判所がこのような判断をしてもいいのか、という部分をぜひ指摘してほしい。東京高裁での指摘があった後、初めて言い渡される判決だったにもかかわらず、その問題点にまったく触れようとせず、東京高裁からさらに後退する判決を出してしまった福岡地裁の罪は大きい」

 弁護士たちが何度も繰り返していましたが、この裁判で真剣に問われ、明らかにされなければいけないのは、“下村文科大臣による不指定処分の判断が政治外交目的に基づくものだったか”。昨年、9月20日に行われた第20回口頭弁論での金弁護士による意見陳述でも、明快に言われていることです。以下、再び引用します。
 ―下村文部科学大臣は、堂々と、「拉致問題」、「朝鮮総聯」、「朝鮮共和国」などの政治外交的理由に基づき、日本国民の理解が得られないから、朝鮮高校を不指定処分すると、明確に表明したのです。(中略)被告自身、規則ハ号を削除したことが、政治外交的な理由であることを認識しているはずです。だからこそ、被告は、本件訴訟において、下村文部科学大臣の発言を伏せるかのように、朝鮮高校だけが不指定処分となったのは、本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったという後付けの理由を繰り返し主張せざるを得ないのです―

 弁護団は裁判官らに対して、考え方の順序を変えてみろと何度も丁寧に説明しています。日本語が理解できないなんていうことはないと思います。司法がハ号削除に関する審議を頑なに避けるのも、逆に、そこになにか不都合があるからなのでしょう。この不自然な見て見ぬふりを止め、問題の本質を直視し判断せざるを得ないような主張が今後なされることを期待したいです。弁護士たちは記者会見の場で、控訴審への意欲も口にしました。

 記者会見終了後、弁護団の白充弁護士が、また違った言葉で今回の判決について語ってくれました。

 「判決文の日本語自体がおかしい。朝鮮学校を排除するという結論が先にあって、そこにどう結びつけていこうかと引っ張っていくから無理が生まれる。内容を理解しようにも、そもそも論理として伝わってこない。これは『不当判決』以前に『論理矛盾判決』だ。裁判所がこういうことをしていいのか。自分たち在日朝鮮人はウリマルを大事に守ってきた。いま、日本社会、特に権力側が日本語を大切にしないという現象が起こっている。市民はそれに気がついていない。沖縄に暮らしながらも感じるが、政府の言っていることとやっていることが全然違う。日本語を大切に守らなければという思いを、今日さらに強くした。自分たちが警鐘を鳴らしていきたい」

 この日の夕方に行われた報告集会の内容は、本日午後にアップする予定です。(理)

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