日刊イオ

月刊イオがおくる日刊編集後記

ひとつの時代の終わり

2019-03-29 10:00:00 | (麗)のブログ
イチロー選手が引退した。

東京ドームでのプレシーズンゲーム、そしてMLB開幕戦。
数日のイチロー選手の姿をテレビ中継で観ていた。

小学生の頃、オリックス時代のイチロー選手を観に、家族で大阪ドーム(現・京セラドーム大阪)へ行ったことがある。
対・大阪近鉄バファローズ。席からイチロー選手までは遠く、肉眼で見るととても小さい。
しかし生でプレーを観られるという喜びと興奮が勝った。
その日はオリックスが勝利、自身にとってとても気分のいい一日の終わりとなった。


深夜、引退会見をずっと観ていたが、最後の質問「現役時代の孤独感について」への回答がとても心に響いた。

「アメリカに来て自分は『外国人』になったことで、人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れた。
本を読んだり、情報を取る事はできたとしても、体験しないと自分の中からは生まれない。
…その経験は未来の自分にとって大きな支えになる」


今回の引退の件で「ひとつの時代の終わり」という言葉を目にした。
平成最後の…という謳い文句をよく耳にするが、この件に関しては少なからずそう感じる部分があった。

質問でもあったが、彼は今後、何になるのだろう。なんだか楽しみだ。(麗)

ウリナラ選手に感動、興奮…

2019-03-28 10:00:00 | (理)のブログ

 今月17日、朝鮮民主主義人民共和国のフィギュアスケートペア選手が、「ISU世界フィギュアスケート選手権大会2019」(3月20日~24日、さいたまスーパーアリーナ)に出場するため来日しました。平昌オリンピックのフィギュアスケートペア競技で総合13位に入り、オリンピックにおいて朝鮮フィギュアスケート史上最高の順位を記録したリョム・デオク(20)、キム・ジュシク選手(26)です。競技のようす、結果は朝鮮新報で紹介しています。

〈世界フィギュア選手権2019〉朝鮮ペア、ショートプログラムで健闘/明日最終競技へ(3/20)
〈世界フィギュア選手権2019〉朝鮮ペア、大会で11位/北京冬季五輪へ向け、さらなる飛躍を(3/21)

 競技を終え、23日には選手団が埼玉朝鮮初中級学校を訪問しました。この日は終業式。「子どもたちがあまりに興奮していて、終業式はサッと済ませました」と鄭勇銖校長は笑います。朝鮮のスポーツ選手が同校を訪問するのは実に36年ぶり。玄関前に待機した児童・生徒たちはもう待ちきれないといったようすで、すでに目を輝かせていました。



 午前11時半。選手たちが到着すると場は大興奮! 「반갑습니다-(嬉しいです)!!」「잘 오셨습니다-(ようこそ)!!」とあちこちから声が上がります。子どもたちは選手に触ろうと必死に手を伸ばしていました。ぎゅっと抱きしめたり、ハイタッチしたり。選手たちも子どもの頭をなでたり、両手で頬を包んだりと、出会いを嬉しそうに表現していました。





 リョム、キム選手が朝鮮学校を訪れるのは初めて。はじめは緊張した面持ちの二人でしたが、子どもたちの熱烈な歓迎を受けてどんどん表情がほころんでいきました。



 選手たちはその後、学校内を見学。初級部1年生の教室で机に座ってみたり、教科書を開いてみたり…





 また、教室の黒板にメッセージを残していました。



 ともに、「祖国の栄誉を世界に轟かせます!」と力強い決意を。



 そしてついに歓迎式! 児童・生徒たちは「필승조선(必勝朝鮮)!」と大きく声を合わせながら、アーチと紙吹雪で選手たちを迎えました。



 選手たちはこの間の応援と歓迎に感謝しながら、「練習がきついとき、民族の心を守りながら日本で暮らしている同胞たちのことを思い出して奮闘したい」と話しました。



 式では、児童・生徒たちが朝鮮舞踊と合唱を披露。子どもたちが精一杯に「가슴펴고 걸어갈래요(胸を張って歩いて行こう)」をうたうと、はじめは微笑ましそうに手拍子をしていた選手たちがこらえきれず涙を流しました。

 

 初級部4年生の宋炅潤さんは、「埼玉初中の児童・生徒で合唱したとき選手たちが泣いているのを見て、『ウリナラの人たちは本当に僕たちのことを大事に思ってくれているんだな』と感じてありがたかった」とのちほど感想を話していました。
 また、 学校からお知らせを受けて足を運んだという保護者の裵玄珠さん(39)も、「子どもたちの素朴な気持ちが伝わって、ウリナラの選手たちが涙を流して、またその気持ちが返ってきて。子どもたちにとって、祖国は普段なかなか感じることができないもの。初めて近くに感じたと思う」と話していました。



 その後、選手たちが「반갑습니다」の曲に合わせて登場すると割れんばかりの大歓声が。



 二人は軽快に踊りを披露し、さらに平昌オリンピックで着用した衣装を埼玉初中に贈りました。



 最後にみんなで記念撮影。笑顔いっぱいの時間でした。



 そしてお別れの時。選手たちはもみくちゃになりながら車に乗り込みました。最後の最後まで別れを惜しみます。





 それだけでは足りず、校門前でもういちど車を見送るため運動場をダッシュ!



 子どもだけでなく、先生やオモニたちも一緒に駆けていく姿がとても感動的でした。

 この日の夜には、さいたま市内の宴会場で同胞と選手団による交流歓送会も行われました。競技のようす、また選手、監督、団長のインタビューとあわせてイオ5月号で紹介する予定です。(理)

止まらぬヘイトスピーチと、日本の良心

2019-03-27 10:00:21 | (瑛)のブログ


 3月9日、京都朝鮮初級学校襲撃事件10周年を祝う、という名目で人種差別主義者によるヘイトデモが白昼堂々と行われ、続く11日には、福岡県の折尾駅前、それも折尾交番前で日本第一党を名乗る10人がヘイトスピーチを行うという暴挙が起きてしまった。ヘイトスピーチ対策法(HS対策法)が16年6月に施行されるも、日本社会でヘイトデモは減ることはない。

 3月20日に東京・永田町の衆議院第2議員会館で行われた「人種差別に終止符を。国際社会からの声」と題した集会で、師岡康子弁護士は、人種差別撤廃基本法およびそれに基づく基本方針、基本計画が必要だとHS対策法の問題点を指摘。警察官、検察官、裁判官を含む法執行機関職員に対し、ヘイトクライム及びヘイトスピーチ解消法に関する犯罪の人種差別的動機の認定、告訴受理及び事件の捜査・起訴のための適切な方策を含む研修を行うことを提案した。

 ヘイトデモを警察が守る、という信じがたいことがこの日本で起きている。

 日本政府は、日本が1995年に国連の人種差別撤廃条約に加入して20数年がたった今も、差別を禁止する基本法や被害者を救済する国内人権機関を設けていない。出自を攻撃する差別行為は、人々の人格を破壊し、ひいてはこの社会をも壊していく。年金事務所の所長、政治家の差別発言は後を絶たない。政府はいつになれば本腰を入れてこの問題に取り組むのだろうか。

…いつまでも「中立」を言い訳に、実態に即してものを見て適切な判断を下す、ということから逃げてはいけない。中立であろうとするのなら、それはその都度、更新され続ける能動的で積極的な態度でなければならない。さもないと、「中立」というのは安全地帯から観客気取りでコメントしているにすぎない。この社会で生を営む以上は好むと好まざるとに関わらず、公共性の高い事柄からは無関係ではありえない。「差別はいけないものである」というかなりの程度まで確立している道徳規範がある中で、あえて自分はこの問題について「中立」であると言うのなら、それはよほど道徳的に鈍感か知的に怠慢かのどちらかであろう。

 Https://subtler.jimdofree.com/on-being-neutral/?fbclid=IwAR3c_tIqXfaiSzttRo8jGGb5B2r0b3tyXrsVHNSjAzrTP3E-0t1diW2iGk4
 上に紹介したブログは、3月9日の京都でのヘイトスピーチの現場にいた日本の方が発信していた文章だ。

 筆者はヘイトスピーチを中立を装って報じるメディアを批判する。中立の立場に固執するあまり、起きていることを正確に説明できないのはジャーナリズムとして失格だと。

 10年前、京都朝鮮第1初級学校の児童や教職員、保護者を深く傷つけた暴挙を「祝う」という神経はどこから来るのか。

 差別行為を行う者への怒り、何よりそれを座視する日本社会に恐怖を覚える。しかし、カウンターの方が書いたこの文章を読んで気持ちが落ち着いていった。シットインしてヘイトデモを阻止しようと踏ん張る市民たちの姿に救われた。

 法務省人権擁護局は3月20日までに、統一地方選の期間中、立候補者やその支援者による選挙運動名目のヘイトスピーチが危惧されている問題で、選挙運動で行われた差別的言動について「直ちに違法性が否定されるものではない」との見解を各地方法務局に通達した。人権侵犯事件の対象として対応を求めるもので、各自治体にも周知し、見解を共有していくとしている。(神奈川新聞から)

 折尾駅では、通達が出される前に事件が起きてしまった。政府、メディアは危機感を持つべきだ(瑛)。

 

「アイたちの学校」が参院議員会館で上映

2019-03-26 10:00:00 | (相)のブログ
 
 
 朝鮮学校の歴史と現状を描いたドキュメンタリー映画「アイたちの学校」(高賛侑監督)の上映会が3月19日、参議院議員会館で開かれた。
上映会には朝鮮学校の関係者や日本の支援団体のメンバー、メディア関係者など40人あまりが出席。国会議員は、途中参加、途中退席を含めて5人が姿を見せた。
 映画を初めから最後まで鑑賞した立憲民主党の那谷屋正義参院議員は、映画の中で大きく取り扱われた高校無償化制度からの朝鮮学校除外の問題について、「子どもの視点に立った、学ぶ者の視点に立った行政を行うというのが文科省の仕事だ。にもかかわらず、政治的な問題を持ち出してきている」と現政権を批判。「子どもの学ぶ権利を国境関係なく大事にするということが世界平和の一歩になる」としながら、出席者に向けて「民主党が政権の座にあったときになぜもっとしっかりとこの問題に踏み込まなかったのか、お詫びをしなくてはいけない。私も微力ながらみなさんと同じ立場に立って今後も頑張っていきたい」とのべた。また、「柴山昌彦文科大臣にこそこの映画を見てもらいたい」としながら、途中退席した元文科大臣の馳浩衆議院議員に対しても「最後まで映画を見てほしかった」とのべた。
 
 「アイたちの学校」は当初、大阪で1週間上映の予定だったが、5週間に延長され、合計1594人が鑑賞した。4月以降、名古屋、広島、神戸、栃木、群馬の映画館でも上映が決定している。有志による自主上映の動きも広がっている。5月下旬に開幕する韓国の釜山映画祭(5月23~25日)からも招待を受けているという。
 また現在、朝鮮学校の権利を守る国際的な運動を喚起するため、朝鮮語版と英語版を制作中だ。4月完成を予定しており、クラウドファンディングで朝鮮語と英語の字幕制作費用を集めている。
 クラウドファンディングの詳細は、https://a-port.asahi.com/projects/aitati/

 上映会が開かれた19日、参議院の文教科学委員会が開かれ、この場で立憲民主党の神本美恵子議員が高校無償化制度からの朝鮮学校除外問題について質問を行った。上映会に出席した田中宏・一橋大学名誉教授らによると、第二次安倍政権発足以降、国会でこの問題に関する質問が行われたのは今回が初めてだという。
 文科省側の答弁にはこの問題に対する現政権のスタンスがよく現れている。議事録がまだ公開されていないので、以下のURLから、ライブ配信された動画を見てほしい。当該の質問と答弁は36:50すぎから57:40あたりまで。(相)
 https://www.youtube.com/watch?v=SLPbTL2M77Y

繰り返される「平成最後の…」

2019-03-25 11:54:51 | (K)のブログ
 先日、テレビの健康番組で認知症について放送していた。その中で病院での認知症の問診についてもやっていたのだが、その問診の内容が興味深かった。
 なぜ興味深かったのかと言うと、4年前にクモ膜下出血で倒れた後、意識を取り戻しリハビリを受けていた時に行っていた問診と同じだったからだ。問診では毎回、簡単な質問に答えるということが行われた。
・今日は何年何月何日ですか?
・ここはどこですか?
・90から7をどんどん引いていってください。
 こんな質問だった。

 倒れて意識を失っていた期間は2ヵ月で、その間ずっと夢の世界をさまよい、意識が戻ってしばらくは現実と夢の世界が頭の中でごっちゃになっていた。そのことはブログでも書いている。
 上記の質問、最初はほとんど答えることができなかった。認知症と同じ症状に陥っていたということなのだろう。一番困った質問が、今日は何年何月何日ですか?というもので、先生は、「いま平成何年ですか?」と毎回聞いてくる。「元号なんか、使いません」と心の中でつぶやくことしかできなかった。今も「平成何年」に入院していたのか、自分の息子が「平成何年」に生まれたのか、イオが「平成何年」に創刊されたのかわからない。

 日本のマスコミから「平成最後の…」というフレーズがうっとうしいほど流れてくる。「平成最後の紅白」「平成最後のお正月」「平成最後の花見」「平成最後のセンバツ」…。こんなのもあった。「平成最後のクリスマス」「平成最後のバレンタイン」。
 3月に入ってからは、次の元号が何になるのかをいろんな人間が予想する様子をテレビで繰り返し流している。これらの騒ぎに、うかれるか、黙ってしまうか、どちらかしかないのが今の日本社会だ。
 これから「○○最初の…」というフレーズが続くのかと思うと、本当にうんざりしてしまう。(k)


J2・鹿児島ユナイテッドの韓勇太選手に注目!

2019-03-22 10:00:00 | (全)のブログ

昨日、日米野球界のスーパースター・イチロー選手が引退を表明しました。
私は日本野球時代のイチロー選手については詳しくは知りませんが、メジャーリーグで活躍する姿は、少年時代にテレビを通してよく目にしていたので、印象に残っています。

イチロー選手は、私と同じ愛知県出身。野球界のスーパースターが引退するとなると少し寂しいです。
さて、いよいよ来週、待ち望んだプロ野球の開幕です。
私が応援するチームは長らく優勝から遠のいているので、今シーズンこそは優勝してほしいと願うばかりです。

プロ野球より一足先にサッカー・Jリーグは2月に開幕を迎えました。
Jリーグで気になるのは何よりも、在日選手たちの活躍。
JFL、Jリーグのチームには多くの在日選手たちが所属していますが、今、注目の選手はなんといってもFWの韓勇太選手(東京朝高、朝大卒)ではないでしょうか。

今年の春に朝大を卒業した韓選手は、朝鮮代表として昨年に行われたアジア大会にも出場し、得点を決めています。

J1の松本山雅FCに入団し、現在はレンタル移籍としてJ2の鹿児島ユナイテッドでプレーをしています。
また鹿児島ユナイテッドといえば、昨年J3で首位を独走し、FC琉球をリーグ優勝・J2昇格に導いた金鍾成監督が今期から指揮を執っています。

さて、注目の韓選手ですが、J2開幕戦(2月24日)で魅せてくれました。
徳島ヴォルティスとの開幕戦でスタメン出場した韓選手は、0-0で迎えた後半6分、プロデビュー戦で開幕ゴールを決めました。また、この日の試合は4-3で鹿児島が勝利し、金監督もJ2初勝利を挙げることができました。

続く、京都サンガと対戦した第2節。
ここでも韓選手は2試合連続ゴールとなる同点弾を決めました。試合は惜しくも1-2と負けてしまいましたが、スーパースターの片鱗を覗かせる活躍をみせました。


現在J2は第4節まで終了しました。
韓選手は2節以降、得点はありませんが、全試合スタメン出場を果たし体を張ったプレーでチームを鼓舞しています。
まだまだ、シーズンは始まったばかり。
韓選手の今後の活躍に乞うご期待です。(全)

映画鑑賞料金の値上げ

2019-03-20 10:00:00 | (麗)のブログ
先日、TOHOシネマズが2019年6月から映画鑑賞料金を値上げすると発表した。
一般料金1800円から1900円になるそうだ。シニア、レディースデイなども100~200円UPに。

値上げの理由として、アルバイト人件費を中心とした運営コストの上昇や各種設備投資への負担増を挙げている。
発表直後、SNSでは映画好きの人たちがザワついていた。

Twitterで流れてきた世界の映画料金の比較では、日本はダントツで高かった。
韓国は約700円、中国は約400円、インドに至ってはなんと約100円(!)
いままで世界の映画料金なんて考えもしなかったが、比較のグラフなどを見ても、確かに高い。

最近、映画館に足を運ぶ回数が増えてきているので、この話題にちょっと関心はあったが「そうなんだ」という程度。
「100円くらい別にいいかな」「まずそんなにTOHOシネマズで観ないし」。

と思った矢先に、早速TOHOシネマズで映画を観た(職場から近かったから)。

作品さえ観ることができるのなら、どの映画館で観ようが変わりはないと思うし、
観たい作品はこれからも増え続けるだろうから、自分は「映画館離れ」にはならないと思う。
が、他の映画館が追従する形になったら正直厳しい…とも思えてきた。

気付けばどれだけ安く、お得に観られるかという思考になっていて、
各映画会社の会員カードの特典比較を調べてしまっている。世知辛い。(麗)

高校無償化裁判、司法による朝鮮学校の弾圧

2019-03-19 09:07:45 | (K)のブログ
 先週の14日、福岡地裁小倉支部で九州高校無償化裁判の判決言い渡しがあった。判決の結果は、現地で取材した(理)さんがこのブログで詳しく報告してくれた。

 高校無償化裁判は、愛知と大阪(2013年1月24日提訴)、広島(13年8月1日提訴)、九州(13年12月19日提訴)、東京(14年2月17日提訴)と5ヵ所で裁判が行われており、今回、九州で判決が言い渡されたことにより、地裁での判決がすべて出たこととなる。
 しかし、大阪と東京は高裁の判決がすでに出ており(大阪が昨年9月27日、東京が昨年10月30日)、最高裁へと舞台が移っている。裁判の進行にこれほど差が出るとは思わなかった。

 地裁判決は朝鮮学校側から見ると、大阪は勝訴したが、愛知、広島、東京、九州は敗訴。唯一勝訴した大阪も昨年の高裁判決で逆転敗訴となっている。5ヵ所の裁判すべてで負けているのが現状だ。
 朝鮮学校側を敗訴にした判決は結局、「朝鮮学校は総聯の不当な支配を受けている」ということを理由にしている。

 そもそも朝鮮高校が高校無償化から排除されるきっかけとなったのは、2010年2月に拉致担当相が「拉致問題の進展がない」という理由で、対象から外すように要請したことだった。そして、2012年12月28日、第2次安倍内閣が発足した2日後に、下村文科相は定例記者会見で高校無償化からの朝鮮学校除外を明言している。「拉致問題に進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等から、現時点での指定には国民の理解が得られず、不指定の方向で手続きを進めたい…」と。
 漆間巌警察庁長官(当時)は2007年1月18日に次のように発言している。「北朝鮮が困ると言いますか、特に金の問題が一番大きいですから、そのようなものに焦点を当てて、そのような事件を摘発する」「直接拉致には関係はしない事件を摘発することによっても拉致問題の解決に近づける」。

 高校無償化からの除外は、最初から最後まで政治的・外交的理由によるものであり、日本政府は在日朝鮮人を、子どもたちを、民族教育を人質として見なし、弾圧しているのである。それは、1948年4月の4.24教育闘争の時代からなにも変わっていない。朝鮮学校を敗訴にした判決は、司法も日本政府と一緒になって弾圧しているということだ。

 文科省前での金曜行動で、朝大生たちが次のようなアピールをしているのを聞いたことがある。
・日本は、朝鮮解放後から一貫して在日朝鮮人の民族教育を弾圧してきた。/・在日朝鮮人と朝鮮学校は、日本にとって過去の侵略と植民地支配を忘れ去るためには非常に邪魔な存在である。/・朝鮮学校を弾圧し潰すことにより、在日朝鮮人の存在も抹殺しようとしている。

 日本政府は、朝鮮学校を潰せば在日朝鮮人社会がなくなることをよく知っている。最後に残った地裁の判決だということで、今回の九州の判決は非常に注目された。裁判自体は非常に厳しい状況にあるが、民族教育を守り発展させることがわれわれの勝利なのだと思う。(k)


卒業式

2019-03-18 10:00:00 | (瑛)のブログ


 昨日3月17日は、日本各地の朝鮮初中級学校で卒業式がありました。私も世話になった子どもたちの顔をみに、足を運びました。幼稚班の卒業生は3人、初級部は8人という少ない人数でしたが、9年間、6年間、きょうだいのように育ったかれらの姿は、この小さな学校で培ったそれぞれの「何か」を伝えてくれて、胸が詰まりました。(写真は南大阪朝鮮初級学校のFBページから。本文とは関係ありません)

 オモニ会を卒業する保護者たちの姿にも、ともに悩み、笑いながら歩んできた月日が思い出され、別れが寂しくもありました。

 卒業式には、保護者だけではなくこの学校を卒業した中学生や、教鞭をとっていた元教師たちも集まり、花を添えてくれます。

 卒業する子どもたちの中には、日本の中学校に進学する子もいれば、他地方の民族学校に通う子どももいます。

 少し先の将来を考えたなら、いずれは、日本や世界といった「大海原」に投げ込まれ、自力で泳いでいかねばならない子どもたち。私たち大人もそうだったように、民族教育を受けた意味というものは、その時に「実感」として迫ってくるのでしょう。

 先日、京都では、人種差別主義者たちが京都朝鮮第1初級学校への襲撃から「10年を祝う」という名目でヘイトスピーチが行うという信じがたい出来事がありました。

 あの事件の時、小学生だった子どもたちは、胸に深い傷を負いましたが、すでに朝鮮高校を卒業したお子さんもいます。

 当時、京都第1初級の保護者だったキム・サンギュンさんが、被害を受けた子どもたちが人種差別主義者たちの攻撃を本当の意味で克服できたかどうかがわかるのは、「親になったかれらが、子どもの教育をどうするのかを決める時だろう」と話していたことがあり、ハッとさせられました。

 この春、入学式を迎える朝鮮学校、どの学校も新入生確保のために奮闘していますね。

 一方で保護者たちの意識を見ると、日本の国家から露骨に差別されている朝鮮学校に子どもを通わせることが、子どもを社会の矢面に立たせるのではないかと心配され、日本の公教育を選択するケースが増えています。日本籍者との結婚が多い背景もありますね。朝鮮学校が直面している現実です。

しかし、差別の標的にされているからこそ、朝鮮人にとっては、日本で朝鮮人という生を授かった自分を肯定し、安心できる場が必要なのだ、と改めて思うのです。さらに「学校」という場は、何よりも子ども自身の成長、子どもの幸せのためにあるべきなのだと。そこに大人の事情を決して介入させてはいけない。すべての大人たちは、そのことを肝に銘じ、教育という場に関わっていかなくてはと感じます。

 卒業シーズン、徳山朝鮮初中級学校が10年前の春に統廃合されたときに保護者だった朴陽子さんのエッセイを読み返しました。当時、たくさん悩みながら書いてくださった文章です(「月刊イオ」2009年4月号)。

…少し前の話になりますが、テレビで離島にあるたった1校の日本の学校を特集していました。島には小学生が一人しか住んでないけど、立派な校舎に5~6人の教師、運動会や行事は島をあげてのお祭りで島民がみんな集まるそうです。

 学校を愛する気持ちは、私たちも決して劣ってはいないのですが、ウリハッキョには行政からの支援がないに等しいですよね。ソンセンニムに情熱があり、学びたいという生徒が7人もいて、トンポの愛情や熱意があっても休校するしかない、53年の歴史に幕を下ろすという選択肢しか残らない。現実は厳しいのです。

 一昔前、朝鮮学校ボロ学校と、からかわれました。今は目に見えないいじめや差別も減り、朝鮮学校を卒業した子どもたちの進路も多種多様になりました。娘たちがオンマになった時代、ウリハッキョに通う子どもが何人になっても学びたい子どもがいる限りハッキョを運営できる時代になっていればと心より願います…。

 3月14日の九州の敗訴判決の現場にもいた朴陽子さんは、今、広島朝鮮初中高級学校のオモニ会会長として現場を支えられています。

 よりよい時代を目指し、歩みを止めない朴さんのような方々が日本各地で学校を守っている。そのことに奮い立たされる卒業シーズンです。(瑛)

「闘いこそが私たちの未来」―九州無償化裁判、報告集会

2019-03-15 15:00:00 | (理)のブログ

 昨日の記者会見終了後、18時半から北九州市立商工貿易会館で行われた報告集会には、裁判所に集まった人々のほか、仕事を終えて駆けつけた同胞や日本人支援者の姿も新たに見られました。



 集会に先立って、九州中高の朴広赫教務部長が緊急の呼びかけをしました。



 「皆さんにどうしても伝えたいことがある。今週月曜日の朝8時半頃、同校最寄りの折尾駅で日本第一党が“スピーチ”をして、女子生徒に向かって『朝鮮人は帰れ』といった暴言を吐いた。話を聞いて折尾駅に駆けつけたが、もう街宣は終わった後だった。その場にたくさん警察がいたので『私たちの生徒に被害があったらどうするのか』と抗議したが、『かれらはいちおう道路使用許可をもらっているから自分たちはトラブルがないように見ている』という返答だった。インターネットでその時の動画を見たが我慢できなかった。ちょうど当日は東日本大震災が起こった3月11日だったのだが、内容の中に『震災で2万人が亡くなったとき、朝鮮人は横断幕を揚げてお祝いをした』というような作り話まで出している。私たちの同胞も震災でたくさん犠牲になった。また、女子生徒を指して『あの子たちを見て下さい、以前はチマチョゴリを着ていたけど、自分たちがこういう活動をするから今は着れなくなった』と堂々と言っていた。本当に許せない。また、折尾には朝鮮人がたくさんいるから潰さないといけないとも言っている。目と鼻の先でそういうことがあった。いまも無言電話や嫌がらせの電話が続いている。私たちは子どもたちに少しの被害も加えられないように守らないといけない。子どもたちが日本社会で朝鮮人として堂々と学び、好きなことができるようにこれからも支援をお願いします」



 報告集会ではまず、金敏寛弁護士が地裁判決の結果を伝え、この間、裁判支援運動に尽力してくれた人々に改めて感謝の意と、控訴審への意欲を伝えました。



 続いて、九州無償化弁護団の朴憲浩弁護士が判決の分析報告をしました。朴弁護士は地裁判決の内容について、「端的に言うと非常に不誠実だしとても空虚」と感想をのべたあと、記者会見で言及された問題点について再び説明しました。
 「裁判所は公安調査庁の報告などをとても重視し、それを教育に持ち込んでしまっている。つまり国から目をつけられたらなにもできなくなってしまう、公安が目をつけた対象であれば教育上の不利益を科してしまってもいいというような判断が今後も持ち込まれる可能性が出てしまっている。それが怖い。在日朝鮮人やその他のマイノリティもそうだが、差別されたらそのままどんどん不利益を科されてしまう状況を許してしまう判決だと思う。本来、その流れに釘を刺して流れを止めるのが裁判所の役割だと思うが、それができなかった」。朴弁護士は「めげずに、諦めずに、より怒りを込めて正しいことを言っていく」と言葉を強めました。

 各地からもたくさんの支援者が駆けつけました。はじめに無償化裁判を行っている東京、愛知、大阪、広島から連帯のあいさつがあり、それぞれの経験を共有しながら九州無償化裁判に携わってきたすべての人たちを激励しました。









 あいさつのあと、九州朝高生たちが公演を披露しました。





 生徒たちは、先代たちによる民族教育を守るための闘いを、次は自分たちが継いでいくと決意をアピール。

 「この闘いこそが、私たちの未来だから」―。



 裁判所の前で悲痛に泣き叫んでいた子どもたちが笑顔で希望を語るようすに、再び涙する人もいました。



 アピールはまだまだ続きます。舞台には九州中高オモニ会の代表たちが登壇。福岡県下にあるすべての朝鮮学校のオモニ会の力を借りて製作してきた折り紙チマチョゴリを紹介しました。判決の日を迎えるまでにオモニたちの心を一つにして、必ず勝訴を獲得したいという願いを込めたそうです。



 「学生のみなさん、堂々と胸を張りましょう。この6年間のあなたたちの闘いが、あなたたちのありのままの姿が、ウリハッキョを取り巻く環境を間違いなく大きく変えてきました」。梁敬順会長は力強い言葉で子どもたちを励ましました。



 次に留学同九州が発言。九州中高57期卒業生の李智香さんは、「私が初めて裁判を傍聴したのが高1のとき。それから6年が経った今もなお日本政府は朝鮮学校への差別を続けている。このような状況の中で、子どもたちが在日朝鮮人としての誇りを持って生きていけるようにするためには、私たちが声を上げて日本政府と闘っていかなければならない。在日朝鮮人の権利の中で闘わずに得たものはなにもない。無償化適用の権利も運動を通して勝ち取りましょう」と呼びかけた。



 2014年に九州中高を卒業し、同じく留学同九州で活動する金梨美さんも発言。
 「今日のこの日を迎えるにあたって、私は4.24教育闘争を思い浮かべた。あれから70年が経った今、日本はなにが変わったでしょうか。チマチョゴリが切り裂かれ、ヘイトスピーチという言葉の暴力を浴びせられ、そして今日、高校無償化制度から私たちは除外されました。私たちは人として生きる権利を奪われ続けています。司法でさえも、私たちを守ってくれることはありませんでした。私たちにはもう闘うことしか残ってないと思ってます。私たちの権利は私たちで勝ち取るしかありません。先祖たちが命をかけて守ってくれたこの場所を、これからは私たちが守っていくべきだと思います。もう二度と、未来を生きる子どもたちが悲しくて痛い思いをしなくて済むよう、涙を流さなくて済むよう、次は私たちがこの学校、そして在日朝鮮人と同胞社会を守っていきます」。



 またこの日、韓国から駆けつけた同胞たちも発言。



 「朝鮮学校と共にする市民の会」のリ・ヨンハク常任代表は、「この裁判が終わりではないことを皆さん分かっているでしょう。いまだ行く道は遠く、しかしこの道でこそ必ず正義が勝つということを示さなければなりません。皆さん悲痛な心情でしょうがしばらく呼吸を整えてから立ち上がり、目をしっかりと開き進みましょう」と温かい励ましの言葉を送りました。

 

 「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」のソン・ミヒ共同代表は、「皆さんが始めた東京の『金曜行動』、大阪の『火曜行動』を引き継いで、ソウル大使館前で始めた『金曜行動』も先週210回目を越え、5年目を迎えようとしています。この力が拡大し、統一の歌になり、平和の踊りとなるでしょう。南、北、海外、全民族の力を合わせれば必ず勝ちます。諦めず最後まで闘い、必ず勝ちましょう!」と力強く発言しました。



 「キョレハナ」の教育局長を務めるシン・ミリョンさんは、「恥ずかしながら、初めて無償化裁判の場に来た。人類史で最も残虐な民族差別、子どもたちへの酷い差別を目の当たりにし、悔しくてたまらない。民族の自尊心を守るために闘う同胞たち、そして支援者たちに出会い、申し訳なかった一方で、これから大きく連帯していかなければならないと感じた。闘争の一歩一歩がどれだけ苦しいものなのか想像もできないが、この闘争が一歩一歩進んでいくごとに連帯と指示が拡大していくと確信している。遅れたが、キョレハナもその歩みに、誠実に一生懸命、連帯していきたい」と話しました。



 「モンダンヨンピル」の事務総長を務めるキム・ミョンジュン監督は、「2011年3月、東京の代々木公園で、朝鮮学校を無償化制度に適用するよう求める集会がありました。そのとき韓国からは自分ひとりが参加しました。2019年、8年が経ちました。それも東京でなく九州に。韓国から何人が来ましたか? 韓国ではいま、何千人もの人が朝鮮学校とそれを取り巻く問題に関心を持っています。KBSでも紹介されました。自分たちの同胞が日本でどれだけ差別を受けているのか、韓国の人たちもだんだん知ってきている。もう決して孤独ではありません。私は2002年3月に初めて日本に来た時はひとりでしたが、いま見て下さい。友人たちがこんなにもたくさんいます。闘いというのは、だれが勝った負けたというような結果が重要なのではありません。過程です。どれだけ仲間を作れたかが重要です。皆さんしんどいですが、明日からまた笑って! 頑張っていきましょう」と明るいエールを送りました。



 続いて、全国オモニ会代表の一員として登壇した京都朝鮮中高級学校オモニ会の朴錦淑会長が発言しました。
 「京都は毎回、無償化裁判に足を運んでいます。京都では高校無償化裁判をしていないのに、どうしてと聞かれることがあります。京都では10年前に、京都朝鮮初級学校が差別主義者に襲撃される事件が起こりました。私はこの事件と無償化除外の問題はつながっていると思う。先日の3月9日、襲撃事件を“記念”するという趣旨で京都の繁華街で当時の主犯が告知をして堂々と、警察の保護を受けながらヘイトスピーチを垂れ流しました。そういうことが許されてしまいました。無償化制度からの朝鮮学校除外は官製ヘイトです。それが、かれらをバックアップしてこの問題を起こしてしまった。だから二つはつながっていると思います。また、裁判というのはすべての労力を消耗するような本当に辛く苦しい闘い。それを自分の目で見届けて後世の子どもたちに伝えないといけないという思いもある。私たちがいま持っている権利はすべて勝ち取ったもの。高校無償化の権利も私たちが闘って勝ち取ったんだということ、そして闘ってきた人たちの思いや辛さや姿を、きちんと自分の言葉で語れるようにするために参加している。また自身も親として、九州中高の子どもたちに、『全国のオモニたちが応援している、力になっている』ということを伝えに来た。今日は負けたが自分の心に矢印を向けないで、前を向いて堂々と生きていってほしい。そして九州中高のオモニたち。ここに全国各地からオモニたちが来ています。子どもたちが泣いてる姿を見るのは本当に苦しいと思います。だけど、子どもたちのためにも大人が最後までやりきりましょう。まだまだ長く続いていく闘いではありますが、この裁判が求心力となって無償化の闘いが続いていると思います。全国のオモニたち、そして同胞たちが一緒になって連帯しているのでともに最後まで頑張りましょう!」
 子どもたち、そして保護者たちの気持ちに寄り添ったメッセージでした。



 その後、「朝鮮学校無償化実現・福岡連絡協議会」の中村元氣代表が声明文を共有しました。
 「本日のこの『不当判決』を絶対に認めません。そして、決してひるむことなく生徒たちを励ましながら、今後とも民族教育の擁護、子どもたちの学ぶ権利の保障を求め、全国の支援者とともに、勝利の日までたたかい抜くことを誓います」
 また、「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」はじめ、全国各地から応援のメッセージが寄せられていることを伝えました。



 次いで、服部弘昭弁護団長が改めて弁護団声明を朗読しました。



 「このような不当な判決が出てしまいましたが、諦めずに最後まで闘い続けましょう!」。報告集会の最後に、福岡朝鮮歌舞団が前に立ち、参加者全員で「声よ集まれ、歌となれ」を合唱しました。



 日本の差別政策に怒りを持って裁判闘争を続けてきた同胞・支援者たち。しかし司法が機能しない様までをも目の当たりにして、無力感に包まれてしまうこともあったでしょう。一方で登壇者も話していたように、闘いを続けてきた過程で確実に支援の輪は広がってきました。新しい言葉、新しい力が生まれています。なによりも、互いにしんどいけれど踏ん張ろうと励まし合える仲間がたくさんいることは大きな力になると、今回の報告集会を見ながら感じました。
 裁判はまだまだこれから。九州の控訴審の予定、各地での進行など、今後も状況が進み次第イオで報じていきます。(理)

「差別するな!」子どもたちの悲痛な叫び―九州無償化裁判、原告側が敗訴

2019-03-15 09:25:59 | (理)のブログ
朝鮮学校を無償化制度から除外したことは違法であるとして、九州朝鮮中高級学校の在校生、卒業生らが2013年12月19日に起こした国家賠償請求訴訟。昨日3月14日、福岡地裁小倉支部で判決が下された。

 結果は原告側敗訴。裁判所前で結果を待っていた同胞や日本市民たちは、落胆し、言葉なくうつむき、涙を流していました。あちこちで怒りの声が上がると、「声よ集まれ、歌となれ」の歌とともに裁判所への非難が広がっていきました。








 
 「私たちを差別するな!」「学ぶ権利を奪うな!」。

 留学同九州のメンバーが声を張り上げると、九州中高生徒たちがそれに呼応しシュプレヒコールをしました。「差別するな!」「奪うな!」と生徒たちが何度も何度も泣き叫ぶ姿に、周囲の大人たちは涙をこらえきれないようすでした。





 「私たちは最後まで闘う!」―。生徒たちはもうすでに次の闘いへの決意を叫んでいました。5年以上に渡って訴えてきたことを無視され再び深く傷つけられた当事者である子どもたちが、なお強くいなければならない現状、それを強いる日本社会のむごさを感じました。



 しばらくののち、裁判所の裏にある弁護士会館で記者会見が行われました。はじめに無償化弁護団の服部弘昭弁護団長が弁護団声明を発表。



 声明で弁護団は、国側が朝鮮学校を不指定処分にした二つの理由(▼ハ号削除、▼規定13条に適合すると認めるに至らなかったこと)は互いに矛盾すると主張したにもかかわらず、裁判所がその判断を避けたことを指摘しつつ、
―このように、審理の段階において明らかになっていた最も重要な論点について判断を回避したのみならず、朝鮮学校が朝鮮総連から「不当な支配」を受けているかという点について、原告らの検証申立てを却下し学校に赴いて事実を確認することもなく、また「不当な支配」が何を指すかも検討することなく、まして民族教育の歴史的経緯を振り返ることもなく、朝鮮学校が「不当な支配」を受けているとの合理的疑いが払拭できないなど、本件規定13条に適合すると認めるに至らないという文部科学大臣の判断に逸脱濫用がないとした。これは、国の主張をそのまま受け入れるものでしかなく、事実と証拠に基づいて判断を下すべき裁判官の職責を放棄したものに他ならない―
と辛辣に非難しました。これを見ると、裁判所による審議の過程は「していない」ことづくし。とても不誠実な判決であることが伝わってきました。



 続いて、判決の内容について安元隆治弁護士が発言しました。

 「朝鮮学校だけ無償化制度から除外するという差別的な国の政策に、司法が正面から判断を下すよう強く求めてきた。しかし今回の判決では、国による不指定処分の真の理由が政治外交目的だったという事件の本質について一言も触れていない」。

 安元弁護士も、国が不指定処分としている二つの理由の矛盾について言及しながら、「この不当な不指定処分について司法が正しい判断を下してくれると信じて闘ってきた。しかしあまりにも逃げ腰で、極めて残念な判決になっている。強い憤りを覚えている」とのべました。



 九州中高の全晋成校長は、福岡朝鮮学園の声明文を朗読しました。

 「行政府はもとより司法府までもが、不純な政治外交的動機により自らが定めた法の趣旨を歪曲してまで朝鮮高級学校の生徒たちを排除し傷つけながらも平然と居直る姿勢に、驚きと怒りを感じています」。声明文は、これからも多くの同胞と日本・韓国・世界の支援者とともに、良心と正義が実現するその日まで闘い抜くという決意で結ばれました。



 九州中高オモニ会の梁敬順会長は、涙をこらえるよう何度も口元を引き締めながら自身の心境を話しました。

 「悔しい思いでいっぱいです。子どもたちがどんな気持ちで今日を迎え、どういう思いで闘ってきたかを思うと本当に心が痛い。子どもたちをどんな顔で見つめ、どんな言葉で慰めたらいいのか…。でもこんな悔しい思いを二度とさせないためにも絶対に負けることはできません。他の4ヵ所で同じように闘っているオモニたち、支えてくれる多くの方たちの気持ちを忘れずに、勝訴のその日まで闘っていきたい」



 2013年度に九州中高を卒業し、現在は教員をしている余信徹さんも思いをのべました。

 「差別的な状況がこんなにもたやすく容認されたことがとても悔しいし憤りを感じています。在学中、卒業してからも今日まで自分たち、そしていま学んでいる子どもたちが当然のように自分の国の言葉や歴史を学んでいいんだということを伝えるためにも闘ってきたが、こういう形で一度ダメになってしまったことが非常に悔しい。しかし、いま学んでいる生徒たちもそうだし、これから学ぶことになる子どもたちに『自分たちが学びたいことを学んでいいんだ』ということを教えるためにも闘い続けていきます」



 その後、いくつか質疑応答が交わされたあと、「ほかに質問がなければ…」と、弁護団の事務局長を務める金敏寛弁護士が強調したい点について話しました。

 金弁護士は、“朝鮮学校を不指定処分にした二つの理由が同時に存在することは論理的に整合しない”という論点が東京高裁で出たものだと改めて説明。結果的に不当判決が出たものの、東京高裁はこの矛盾する関係をきちんと説明するよう国に指摘したとのべました。

 「九州の裁判ではそれを踏まえて、地裁の段階で裁判所に同じことを求めてきた。さらに言うとハ号削除こそが不指定処分の真の理由であり、規程13条自体は後付けの理由である、だから『ハ号削除は政治外交目的によるものだったか』という点をこそきちんと判断してほしいと丁寧に説明したにもかかわらず、今日の判決はそこになんら触れなかった。入口の議論をまったくしないまま、東京地裁と名古屋地裁での判決同様、『規程13条をクリアしない以上、ハ号削除は論じるまでもない』というところに落とし込んだ」

 九州では東京高裁で指摘された内容まで盛り込んで一歩進んだ主張をしていたにもかかわらず裁判所がまっすぐに向き合わず、結局は他の地裁判決と同じレベルの判決しか出せませんでした。目の前に突きつけられた問題提起を完全にスルーし、だれが読んでもおかしいとしか思えない判決を、裁判官はどんな思いで書いたのでしょうか。

 最後に、金弁護士が記者たちに呼びかけました。

 「今日の結果について、決して『朝鮮学校に対する差別的政策が続いている』というような論調で書いてほしいと思っているわけではない。裁判所がこのような判断をしてもいいのか、という部分をぜひ指摘してほしい。東京高裁での指摘があった後、初めて言い渡される判決だったにもかかわらず、その問題点にまったく触れようとせず、東京高裁からさらに後退する判決を出してしまった福岡地裁の罪は大きい」

 弁護士たちが何度も繰り返していましたが、この裁判で真剣に問われ、明らかにされなければいけないのは、“下村文科大臣による不指定処分の判断が政治外交目的に基づくものだったか”。昨年、9月20日に行われた第20回口頭弁論での金弁護士による意見陳述でも、明快に言われていることです。以下、再び引用します。
 ―下村文部科学大臣は、堂々と、「拉致問題」、「朝鮮総聯」、「朝鮮共和国」などの政治外交的理由に基づき、日本国民の理解が得られないから、朝鮮高校を不指定処分すると、明確に表明したのです。(中略)被告自身、規則ハ号を削除したことが、政治外交的な理由であることを認識しているはずです。だからこそ、被告は、本件訴訟において、下村文部科学大臣の発言を伏せるかのように、朝鮮高校だけが不指定処分となったのは、本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったという後付けの理由を繰り返し主張せざるを得ないのです―

 弁護団は裁判官らに対して、考え方の順序を変えてみろと何度も丁寧に説明しています。日本語が理解できないなんていうことはないと思います。司法がハ号削除に関する審議を頑なに避けるのも、逆に、そこになにか不都合があるからなのでしょう。この不自然な見て見ぬふりを止め、問題の本質を直視し判断せざるを得ないような主張が今後なされることを期待したいです。弁護士たちは記者会見の場で、控訴審への意欲も口にしました。

 記者会見終了後、弁護団の白充弁護士が、また違った言葉で今回の判決について語ってくれました。

 「判決文の日本語自体がおかしい。朝鮮学校を排除するという結論が先にあって、そこにどう結びつけていこうかと引っ張っていくから無理が生まれる。内容を理解しようにも、そもそも論理として伝わってこない。これは『不当判決』以前に『論理矛盾判決』だ。裁判所がこういうことをしていいのか。自分たち在日朝鮮人はウリマルを大事に守ってきた。いま、日本社会、特に権力側が日本語を大切にしないという現象が起こっている。市民はそれに気がついていない。沖縄に暮らしながらも感じるが、政府の言っていることとやっていることが全然違う。日本語を大切に守らなければという思いを、今日さらに強くした。自分たちが警鐘を鳴らしていきたい」

 この日の夕方に行われた報告集会の内容は、本日午後にアップする予定です。(理)

九州で不当判決

2019-03-14 14:02:51 | (理)のブログ


 朝鮮学校を無償化制度から除外したことは違法であり、これにより教育を平等に受ける権利や経済的援助を受ける権利を侵害されたとして、九州朝鮮中高級学校の在校生、卒業生らが2013年12月19日に起こした国家賠償請求訴訟(九州無償化裁判)の地裁判決が先ほど下された。

 「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」
 法廷内は沈黙に包まれた。金敏寛弁護士が片手で顔を覆うのが見えた。口元は歪んでいた。後ろの方から深いため息が聞こえた。

 福岡地裁小倉支部には、九州中高の中3〜高3生徒・北九州初級の初6児童と教職員ほか、県内はもちろん日本各地や韓国からも同胞・支援者が集まり、たった37の傍聴券を求めて約320人が列をなした。また、マスコミ関係者も20人ほど来ていた。

 不当判決の知らせに、裁判所前にもしばらく重苦しい沈黙が流れたが、方々で少しずつ抗議の怒号が上がった。一人の同胞が声を絞って「声よ集まれ、歌となれ」をうたうと、歌声は少しずつ広がりながら裁判所を包み怒りの合唱となった。

 「私たちを差別するな!」「学ぶ権利を奪うな!」ー。何度も何度も泣き叫ぶ朝高生たち。歯を食いしばりながら、崩れそうになりながら、必死で声を上げる姿を見て同胞や支援者たちも涙を流していた。

 このあと15:30から北九州弁護士会館にて記者会見が、18:30から北九州商工貿易会館2階 多目的ホールにて報告集会が行われる。

 判決の詳しい内容と報告集会の様子は、明日の日刊イオで紹介する。また、イオ5月号にも詳報を掲載する。丸5年以上、法廷の中と外で闘ってきた当事者と支援者たちの思い、そして判決文の問題点をしっかりと伝えていきたい。(理)

イオ4月号が完成しました

2019-03-14 10:00:00 | (相)のブログ
 


 イオ2019年4月号が完成しました!

 今月号の特集は「これからの介護を考える」です。時代の変化に合わせて介護の形も変わっていく。これからの介護はどうなるのか? 実感が湧かない人たちには介護について考えるきっかけになるような、当事者にとってはヒントや共感を得られるような企画にしました。「東大阪同胞生活相談センター」相談員の金菊江さんの執筆による「『いつかの介護』におびえないための5ヵ条」、2人の同胞女性が自身の肉親を介護した経験をつづった「わたしの介護体験記」に加えて、資格を持って専門的に従事するスタッフから自らの得意分野で貢献するボランティアまで、さまざまな形で介護現場に新風を吹き込む人々も紹介します。

 特別企画は「『3.1独立運動』から100周年」です。朝鮮近代史における民族運動の一つの到達点を示す「3.1独立運動」の歴史的意義や「3.1」の記憶の継承をめぐるさまざまな論点について、「生き続ける『3.1』、独立から統一へ」と題して康成銀・朝鮮大学校朝鮮問題研究センター長に寄稿していただきました。100周年に際して、東京、名古屋、大阪、福岡など日本各地で催された記念行事のようすも伝えます。

 特集、特別企画のほかにも、朝鮮民主主義人民共和国から4人の選手が出場して銀メダル1つを獲得したFINAダイビングワールドシリーズ2019・相模原大会や、日本政府が就学支援金制度の対象から朝鮮学校を完全に外すため無償化法の省令を改悪した2013年2月20日に際して、この差別に抗議し市民社会に広く訴えるために「朝鮮学校を支援する全国ネットワーク」の呼びかけで日本各地と韓国で行われた全国統一行動(2・20アクション)のもようも載せています。
 そして、2月27日から28日までベトナムの首都ハノイで行われた第2回朝米首脳会談についても、Q&A方式の解説などを交えて、4ページで掲載しています。
 中村一成さんのエッセイ「在日朝鮮人を見つめて」、「マンガ・トンポとんねイモジョモ話」など人気連載も読みごたえがあります。連載5年目に突入した「朝鮮学校百物語」は今月号から2号連続で「4.24教育闘争」にまつわるストーリーを掲載します。

 今年からイム・ヒャンスクさんが担当している表紙デザインですが、今月号のテーマは「ハラボジ、ハルモニのスティックダンス」です。介護特集に合わせたデザインになっています。

 月刊イオは以下の定期購読フォームにてどなたでも注文することができます。
 http://www.io-web.net/subscribe/ 
 1冊からのご注文も承っています。定期購読ではなく1号のみの注文の場合は、「その他伝達事項」の欄にその旨と希望号数を記入して下さい。(相)

趣味は詩を詠むこと―飛込み朝鮮選手たちを取材して

2019-03-13 10:08:47 | (全)のブログ

 3月1~3日にかけて行われた「FINA(国際水泳連盟)ダイビングワールドシリーズ2019・相模原大会」に参加するため、訪日した朝鮮飛込み選手団。3競技に出場し、1つの銀メダルを獲得しました。
 前回のブログでは、おもに競技結果についてお知らせしましたが、今日のブログでは大会期間に選手たちから聞いた話を紹介したいと思います。


(写真左からキム・クァンフィ、キム・ミレ、キム・アリム選手、大会期間朝鮮選手団に帯同した神奈川の朝青専従活動家)

 まず、朝鮮選手団最年少のキム・アリム選手(15)。今大会では女子シンクロ10m、混合シンクロ10mに出場しました。
 アリム選手が水泳・飛込みを始めたのは9歳の頃。友達と水泳場で遊んでいると、その場にいた飛込み経験者の目に留まりスカウトされたといいます。競技経験わずか6年で世界大会に出場するレベルまで成長したアリム選手の潜在能力の高さと、それを見抜いたスカウトの慧眼には驚きです。
 アリム選手の趣味は詩を詠むこと。また、休日には友達とお出かけしたり、遊戯場で遊んだりしているといいます。

 続いて、朝鮮の功勲体育人であるキム・ミレ選手(17歳)。今大会では、アリム選手と女子シンクロに出場し銀メダル、個人10mにも出場しました。ミレ選手は昨年のダイビングワールドシリーズ・富士大会に続き、2度目の訪日です。
 ミレ選手を取材して印象に残った言葉があります。
 「共和国旗を振りながら応援する姿に力を得たし、涙も出てきた。私の勇気が足らず、期待に応えることができなかった」
 日本での競技は2度目ということもあり、プレッシャーや責任感は他の選手たち以上だったのかもしれません。
 大会期間、ミレ選手の力の源となったのが開催地である神奈川県の女性同盟中北支部のオモニたちが差し入れたキムチだったといいます。ミレ選手が平壌で一番すきな料理は「平壌冷麺」だといいます。

 最後に、ヒョン・イルミョン選手(24)。混合シンクロに出場したイルミョン選手も、昨年の富士大会に続き2度目の訪日です。
 大会最終日、ハードな体幹、飛込みトレーニングを終えた選手たち。宿舎に戻るとイルミョン選手は疲れ果てて部屋で休んでいたため、女子選手たちにイルミョン選手について聞いてみました。



 一言で「トンセンたち(キム・ミレ、キム・クァンフィ、キム・アリム選手)をこよなく愛している」といいます。
 大会期間も、食事をはじめ何かと気にかけてくれたとか。兄のいないミレ、クァンヒ選手にとっては実の兄のようだ話していました。

 競技では真剣な表情でたたかう選手たちでしたが、歓送会や同胞たちの交流、宿舎では違った一面をみせてくれました。

(全)

伊藤孝司 講演会「素顔の『朝鮮』と日朝関係未来への可能性」(3月15日)

2019-03-12 10:00:00 | (麗)のブログ
フォトジャーナリスト・伊藤孝司氏による講演会のお知らせです。

昨年の南北会談、米朝会談を受け、朝鮮半島情勢は大きく動きだしています。
伊藤さんは朝鮮への現地取材を40回も重ねながら、
素顔の朝鮮民主主義人民共和国と日朝関係の今後の可能性について、精力的に発言してこられました。

講演会では、第2回米朝首脳会談、米国との対立の歴史、朝鮮国内事情、朝鮮の持つ可能性、残留日本人と日本人妻、
そして日朝の課題と今度についてお話があります。

詳しくは、「日本・朝鮮–未来への扉-」のホームページをご覧ください。

「素顔の『朝鮮』と日朝係未来への可能性」
3月15日(金)開場:18:00 講演:18:30~20:30
●場所:スペースたんぽぽ
・東京都千代田区神田三崎町2‐6‐2 ダイナミックビル4F
・TEL: 03-3238-9035
●講師:伊藤孝司(フォトジャーナリスト)
●参加費:800円
●連絡先:「日本・朝鮮‐未来への扉‐」
・TEL:03-6273-7159
・URL:https://miraienotobira.1net.jp/
●撮影:伊藤孝司氏

併せて、4月18日に岩波書店から出版される伊藤孝司さんの書籍もご案内いたします。


↑「ドキュメント 朝鮮で見た〈日本〉 知られざる隣国との絆」
岩波書店刊○定価(本体2200円+税)

植民地支配植民地支配の傷を残したま、翻弄され、分断されていく人々―― 。
戦後の混乱で朝鮮に残留することとなった日本人、里帰りを果たさぬ日本人妻、植民地支配の傷跡の数々…。
いまだ国交のない隣国との関係を、日本政府は歴史の清算もせず、断絶する方向に舵を切って来た。しかし両国は決して経つことのできない絆がある。
40回におよぶ訪朝取材をもとに、貴重な写真とルポで、朝鮮に残る〈日本〉を照射する。
日朝関係のいま、そしてあるべき姿を、人間の視点から問う。


↑「朝鮮民主主義人民共和国 米国との対決と核・ミサイル開発の理由」
一葉社○定価1200円+税

訪朝取材約40回の著者が希有な写真とともに明かす「北朝鮮」と呼び続けるマスメディアが決して伝えない
朝米関係、朝・日関係の実相と核心を伝えている。