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劇団アランサムセ結成30+1周年公演「リプレイ」、間もなく!

2019-06-10 09:45:00 | (理)のブログ
 劇団アランサムセ結成30+1周年公演「リプレイ」が、今月20日から23日にかけて、東京のTheater新宿スターフィールドで行われる。アランサムセは、在日朝鮮人による劇団として1988年に旗揚げ。時代とともに移り変わる同胞たちの生き様を描き続けてきた。

 昨年11月に結成30周年記念公演を予定していたが諸事情により公演は中止、主宰・金正浩さんによる謝罪動画は約750再生を記録した。それから5ヵ月。30周年を記念するだけでなく“新たな一歩”という思いを込め、改めていま自分たちができる作品を上演しようと今回の公演に至ったアランサムセ。新作「リプレイ」の概要、作品に込めた思いなど、金正浩さんに話を聞いた。たっぷりと話して下さったため、今月中旬に発刊される7月号に入りきらなかった分を含めてブログでも紹介したい。

—作品「リプレイ」について

 登場するのは、結成30周年を迎えた在日同胞劇団「アリランヘボセ」。新作の脚本を書けない座長と団員たちの葛藤を描きながら、過去作品と向き合う…という構成の物語だ。アランサムセの現状をリアルに反映させている。全くのフィクションでもなく、全くのノンフィクションでもない。

—構想はどこから得たか

 脚本ができなかったことで昨年11月の公演中止を決定したあと、これからどうしたらいいかメンバーで話し合った。その時に、これまでを振り返るだけでも内容になるのでは、という案が出た。しかし、ただ30年の歴史を紹介するだけでは作品にならない。いまの状況を「器」にし、過去作品を内容に盛り込んだ物語に出来ないかと考えた。
 そのためには仕掛けが必要だ。いろいろな仕掛けの案を出し合った。劇団の倉庫の掃除で過去の小道具や衣装を出して思い出すとか、座長を被告にした裁判で、証人や物的証拠を出しながら過去作品を検証するとか。過去作品の回想だけにとどまらず、現在と今後にどのように繋げるかが必要だと。

—どのような思いを込めたいか

 「歴史を大事にするのも結構やけどな、新しいものを作れんかったら意味がないねん」、これは劇団解散を決意する座長のセリフだ。個人的には、朝鮮大学校の教員として、作中の劇団が瀕している状況と現実のウリハッキョや同胞社会の状況を重ね合わせている。厳しい状況の中でどう踏ん張るか。苦労している同胞たちにエールを送る、そういうものになれば。
 アランサムセは結成当初から、民族心や自身の立ち位置の問題について同胞たちに警鐘を鳴らしてきた。私たちを取り巻く情勢や環境、価値観は変化したが、根本的な課題は変わっていない。改めてこれまでの脚本を振り返ると、作家は変われど一貫して同じ問題提起をしているのが分かる。そして今日の問題をどう見るのか、道しるべとなるメッセージも過去の作品から探すことができる。1989年の作品「トドリの冒険」(脚本=金智石)に、こんなセリフがある。

―全ての人が西に月を追いかける時、一人で東に向かう。彼には何もない。道は険しく暗い。
しかし彼には熱い情と固い意志と信念がある。陽はいつでも東に昇るのだ―

 民族教育を取り巻く状況もいまだ厳しい。依然として差別もある。ヘイトスピーチなどへのカウンターとして、自分のルーツに関わることをやっているんだと伝えたい。上の座長のセリフに関して言うなら、新しいものを作るために歴史が否定されるべきではない。大事なのは、歴史を起点にどうやって新しいものを作ろうと努力するかだ。新たなものを生み出すためには続けなければいけない。再び、繰り返しやっていくしかないのでは、そういう思いも「リプレイ」というタイトルには込められている。

—どうして30年も劇団を続けてきたか

 これまでは「表現したいことがたくさんあるから」と考えていた。日本社会に、同胞たちに、言いたいことだらけだし、どんどん増えている。その手段として演劇をしていると言い続けてきた。しかしこの数年間で考えが変わった。
 自分が大好きで憧れの演出家に蜷川幸雄さんという方がいる。海外公演も数多く上げ、「世界のニナガワ」と呼ばれる人だ。この人が演出した舞台を見て、生まれて初めて“金縛り”にあった。蜷川さんは、自身が演出して最高傑作といわれている作品を、自分の手で壊してまた一から作り直すことを繰り返した。昔の作品をいまその時の問題意識、その時の自分の姿勢でまた作り上げる。なかなかできないことだ。
 その蜷川さんも、「なぜ演出を続けるのか」というような質問を受けたことがある。それに対しての答えは「評価されてないから」。世界的にもじゅうぶん高く評価されているが、これまでやってきたことに安住しない、飽くなき情熱とチャレンジ精神があったのだろう。
 おこがましいが、いま自分も同じ気持ちだ。私個人の評価という意味ではない。30年やってきても観客数が増えていないこと、同胞社会で演劇文化がまだまだ成熟していないこと…。日本の映画や舞台の俳優を志す同胞青年は少なくないが、私たちの問題を私たちでやろうという人がどれだけいるだろうか。そういう意味で、30年間やってきたからといって何の達成感もない。
 劇団結成25周年公演の際、愛知から駆けつけた旗揚げメンバーが「見に来てよかった、守ってくれてありがとうございます」と言ってくれた。観てくれた人の人生にできるだけなんらかのプラスがある、そのような作品を上演することが目的だ。また次、また次と、もっと同胞たちが観てくれるよう活動を続けていきたい。

***
 現代を生きる同胞たちへ向けた、劇団アランサムセの新作「リプレイ」。30年間に積み重ねられた言葉を借りて、いま私たちに送られるメッセージとは。
公演の詳細は以下、チケットは問合せにて。(理)

●劇団アランサムセ結成30+1周年公演「リプレイ」
日時:6月20日(木)~23日(日)
20・ 21日 19:30~/22日 14:00~、19:30~/23日 14:00~
※開場は開演の30分前
場所:Theater新宿スターフィールド(東京メトロ・新宿御苑前駅から徒歩約5分)
チケット:一般3000円(当日3300円)、大学生2500円、中高生1000円/全席自由
問合せ:劇団アランサムセ(090-4415-0339、aransamse@gmail.com)

劇団アランサムセの公式HP、Facebook、ツイッターも随時更新!
https://aransamse.web.fc2.com/
https://www.facebook.com/arangsamse/
https://twitter.com/arangsamse

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