フレージングと音色を犠牲にしてまで表現したい何かがあるのかどうか

フレージングと音色を犠牲にしてまで表現したい何かがあるのかどうか、これ、演奏の質を決める重大な点です。
普段のレッスンではこのようなところまで立ち入った話はなかなか出来ないので、ここに書きます。

普通は音楽を表現する上で、フレージングや音色は最も大事なものとして尊重されるべき、ということになっています。

しかし何らかの事情（例えば楽器の特性やその場の残響の状態、あるいはまた奏者の体調などなど）によってどうしてもその奏者が思い描くフレーズや音色がなかなか実現不可能な場合もあります

その奏者の資質が強く要求されるのはこのような状況です。
つまり万全の条件が整わない（あるいは演奏するための万全の状態にほど遠い）、そんな時、どんな演奏をするのか、どうか、という点です。

普通は「＊＊＊＊だから」という言い訳がくっついて来ます。

でもここであえて言い訳しない、という選択肢もあります。
普通は苦しくてこういうことにはなかなか耐えられないと思います。

普通はなるべく良い条件を整えて演奏に臨む、というのがより良いとされています。

私自身も愛好家の方々が公開の場で演奏するような場合には、なるべくそのような状況を整えてあげることにチカラを尽くします。

でも演奏に於ける本質的な問題はこのような点には到底収まりません。
そしてこのような点に気が付いてそのことを意識的に実行できる奏者もほとんど見当たりません。

それは演奏というものは、上手に行われるべき、という無言の圧力みたいなものが渦巻いている現代では仕方ないとも言えます。
多くの奏者が「上手に」演奏しなければ、という無駄な苦しみのために自分自身を縛り付けているように見えます。

まず、出発点として、そもそもフレーズや音色を大幅に犠牲にしてまで演奏したいと思えるような曲に出会えるのか、否かという問題があります。
これ以上はここには書けませんのでここまでにします。