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ギャラリーと図書室の一隅で

読んで、観て、聴いて、書く。游文舎企画委員の日々の雑感や読書ノート。

ベルリン・ドレスデン・プラハ紀行(1)

2017年07月23日 | 旅行
7月中旬、ベルリン、ドレスデン、プラハを訪れた。まもなくベルリン在住の多和田葉子さんの講演会があるが、今回の旅行は講演会が決まる前から予定していたものだ。もっとも旅行会社のツアーでお定まりのコース。各都市一日半程度だから、せっかく『百年の散歩』を読んだけれど“そぞろ歩き”などできそうにない。
それでも、宿泊場所がベルリンきっての大通りウンター・デン・リンデンと交差するフリードリッヒ通りということもあって、早朝電車で出かけてみた。ドイツの公共交通は電車、地下鉄、バスなど共通で2時間2,8ユーロというものがある。目指すはZOO駅。多和田さんの著書『雪の練習生』のシロクマ、クヌートが生まれ育った動物園のあるところだ。

Zoo駅前
ベルリン中央駅、ティーアガルテン駅と、いちいち降りてみる。便利な切符である。そこで思い出す。ティーアガルテンとは、ヴァルター・ベンヤミンの生地近く、幼少の記憶の温床ではなかったか、と。
ベンヤミンは1932年から35年にかけて回想風の『1900年頃のベルリンの幼年時代』を書いている。想起されるままに、風景や過ぎ去った事象や家族の記憶の、細やかな断片からイメージをふくらませ、思考を深めていく。百年近くを隔てて、多和田さんもまた、ベルリンの町を自分の目で、予見なく歩き、見るもの、聞くもの、風景や人々の中から、時間を掘り起こし、物語を紡ぎ出していったのではなかったか。そう『百年の散歩』は、ベンヤミンへのオマージュなのだ。
それにしてもティーアガルテンは広い。その後の観光で各所を回ったのだがずっと縁辺にいたり、時には庭園内を横切ったりしたのだった。ティーアとは獣、動物のこと。かつて王侯の狩猟場だったところだ。手入れの行き届いた庭には、今も大木が茂り、小動物が行き交う。一方で様々な記念碑もある。少年のベンヤミンにとって、どんなに豊かな想像や空想を育んでくれたことだろう。
ところでベルリンのベルとは、ベアー、つまり熊のこと。ティーアガルテン、ツォーと続く駅名に、大都会の真ん中であることをつい忘れてしまう。
ベンヤミン没後も、ティーアガルテンは様々な歴史を刻んでいる。第二次世界大戦中には、T4作戦(ナチスの優生学に基づく安楽死政策)が行われた。さらに公園内には1953年東ベルリン暴動を記憶する「6月17日通り」が通っている。

シンティ・ロマの慰霊碑
そして2012年、シンティ・ロマの慰霊碑が作られた。(2008年には同性愛者の犠牲者の慰霊碑が作られている。)ホロコーストによるユダヤ人の犠牲に比べ、シンティ・ロマについてはあまり知られていない。ユダヤ人と違って、国家を持たないシンティ・ロマは補償も遅れた。イスラエルの彫刻家、ダニ・カラヴァンの制作による慰霊碑は、塔や石柱ではなく平らな石と池で、威圧感がなく静かに公園に溶け込んでいた。(霜田)

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