関根哲男さんは年に一回、県内のアーティストを相手に、アートによるバトルとしてのVS(ヴァーサス)展を開催してきた。これまでに8人の作家と格闘を繰り広げて、今年は9年目となる。
今回は初めて女性が相手の勝負である。新潟の版画家・高橋洋子さんだ。これまで新潟のギャラリーを中心に会場としてきたが、今回は関根さんの地元、柏崎での開催となった。
VS展であるから関根さんの作品に対抗して、その物量と破壊力でぶつかり合うことを期待するかも知れないが、今回は必ずしもそうなっていない。むしろ二人の作品の差異が際立つ展示となったのではないか。
関根さんはいつもの90cm×90cmのパネルに、古着のジーパン(一昨年の大地の芸術祭と水と土の芸術祭に出品したアレの再利用である)を貼り付け、ドリルで空けた無数の穴に荒縄を通して結びつけ、全体に泥を塗りたくった作品を隙間なく集積させた作品を出品した。
一方高橋洋子さんは、銅版画という彼女の本質を最もよく示す作品群を出品。高橋さんの作品はカラスの死骸や、不気味な卵のようなもの、あるいは動物の頭蓋骨をモチーフにしたもので、暗く重苦しい作品である。しかし、様々な技法を駆使した緻密な版画世界は無条件に美しく、見る者の心を浄化する。
あまりに対照的な作風を持った二人である。関根さんの大胆さに対して高橋さんの繊細さ、関根さんの胸騒ぎのするような〝動〟に対して高橋さんの暗く沈んだ〝静〟、関根さんの美術からの逸脱に対して高橋さんの美へのこだわり……といった具合である。
その指向性も異なりを見せる。関根さんの作品タイトルはいつもの〈原生〉であり、彼が目指すものが始源の生命だとすれば、高橋さんの見据えるものはそれとは逆の終末論的な世界である。
かくも対照的な作風のぶつかり合いもまた、VS展ならではのものと言えようか。