ギャラリーと図書室の一隅で

読んで、観て、聴いて、書く。游文舎企画委員の日々の雑感や読書ノート。

毒素の秋、新潟版

2019年01月08日 | 展覧会より

オープニング・セレモニー

 新潟市のNSG美術館では「毒立記念日」と題する6人展を、2月17日まで開催している。版画の阿部克志、ボックス・アートの霜田文子、銅版画の高橋洋子、彫刻の星野健司、ガラス作品の星名泉、テキスタイルの松川慈子の6人である。
 遊文舎でもおなじみの名前が4人。言うまでもなく霜田文子は游文舎の企画委員、しかも〝毒立記念日〟とくれば誰しも、游文舎で過去4回開催された「毒素の秋」展を思い出さないわけにはいかない。
 実は首謀者も同じ高橋洋子で、作品制作が本質的に孕んでいる〝毒素〟を柏崎だけでなく、新潟市にも蔓延させようという意図と見た。ちなみに展覧会のタイトルは、游文舎の会報「游」の2017年1月号に掲載された、星野健司の寄稿文「聖毒立記念日」から採っている。
 2階展示室へ登る階段踊り場に、阿部克志の大きな作品が1点。よく見ると6枚の作品の集合で、《マルチバース》の大型版である。宇宙空間の無限感は、作品の大型化でさらに孤絶のイメージを膨らませる。阿部自身もこれから大きな作品に挑戦したいと言っている。

阿部克志の作品

 この作品の白黒の作品が展覧会自体の基調色を決定している。「毒素の秋」でもそうだったが、〝毒〟や〝闇〟は黒を通過することでしか表現されようもない。Paint It Blackの世界である。
 霜田文子のボックス・アートもまた白黒の世界を基調とする。卵の殻や魚の骨の白色は背景の黒によって強調される。自身も言うように彼女の世界は表現という行為がもたらす〝孤独〟への癒されざる沈潜である。

霜田文子の作品

 高橋洋子は工芸的な技術の緻密さと、闇の銅版画家としての大胆さを併せ持った作家である。雲南省ナシ族の象形文字を使った絵文字の作品と、新作の蝶の翅のような大きな作品とのコントラストが生命線である。

高橋洋子の作品

 星野健司ほどに〝毒〟という文字に相応しい作家を他に知らない。彼の毒は攻撃的でもあり、内向的でもあり、そして露悪的でもありといったように単純なものではない。星野の作品にあっては〝美しさ〟と〝グロテスク〟〝聖性〟という、本来は相矛盾する三つの要素が一体化されている、という希有なケースを見なければならない。それを感受できるかどうかが観るものにとっての試金石となる。
 星野は「近代的諸価値」を信じないという。「現代美術という戦略」さえも……。それがこのグループ展の一貫した宣言であるべく、参加者もまた試されているのである。(柴野毅実)

星野健司の作品