龍の尾亭<survivalではなくlive>版

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読むべし!『失踪当時の服装は』ヒラリー・ウォー(創元推理文庫)

2016年04月24日 22時03分02秒 | メディア日記
週末に読んだ本の中ではこれが面白かった。

「捜査の実態をこの上なくリアルに描いた警察小説の里程標的傑作」

と作品紹介にある。本当にその通り。

女子大の1年生が3月3日に失踪する。真面目で男の子と深く付き合っている様子もない。
失踪の理由も分からないまま時間が過ぎていく中、叩き上げの50代ブリストル警察署長のフォードが、大学出のインテリ中年刑事部長キャメロンを従え、互いにこれでもかと皮肉を言い合いながら徹底的に事件を洗い直していく。

その警察の圧倒的に地味で地道な捜査を描きながら、事件が次第にその容貌を変化させていく様子を描いていく。フォードとキャメロンは、事件を何度も何度も「読み直す」。
天才探偵が事件を論理で鮮やかに解決するのではなく(もちろん、天才探偵も犯人に出し抜かれそうになるためには必ず1度「へま」をしなければならないのだが)、何度も何度も捜査を徹底することで、彼らは事件を繰り返し「読み直していく」のだ。

主人公達が事件を読み直す行為は、私たち読者がテキストを読んでいく行為といくぶんかどこかでシンクロしていく。特に、失踪した女子学生が残した「日記」を手がかりとして読むシーンなどはその典型だ。

隠された答えを探偵だけが知っている、のではない。彼らは何度も「読み」の訂正をさせられる。その原因は時に新たな証拠の発見であったり、犯人の意図的な行為であったり、自分たちの思惑や先入観の結果だったりさまざまなのだが、そういう事件の「見取り図」が、地道な警察捜査によってじわりじわりとズレていく気持ちよさは、なかなか味わえるものではない。

解説によると、繰り返しベストミステリ100などに挙げられる古典的名作なのだそうだ。
古典的、というと古くさい感じがしてしまうが、とんでもない。ミステリを「読む」楽しみを改めて堪能させてくれる、「警察小説」の傑作(その魅力は十分に現役です!)だといって間違いないだろう。

遊び疲れて帰ってきたところなのに、読み始めたら止められずに読みきってしまった。

お薦めです。戦後すぐの作品だけれど、文庫は2014年の刊行。