素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

絶滅した日本列島のゾウのはなし(Ⅱ)ー消えたゾウたち、その謎を追うー(5)

2021年06月16日 14時40分01秒 | 絶滅した日本列島のゾウたち
         絶滅した日本列島のゾウのはなし(Ⅱ)
        —消えたゾウたち、その謎を追う―(5)



 
 5.消えた(絶滅した)謎、古代ゾウの仲間たち

 古代ゾウの仲間、ゴンフォテリウム(Gomphotherium)はなぜいなくなったのか、それには諸説ありますが、なにせ2300万年も前~533万年も前の地質年代で言いますと、中新世前期から鮮新世のはじめ頃に生息していた大型草食哺乳類ですから、確かなことは分かりません。しかし、その頃には、絶滅したと見られています。それでも考古学者は、発掘された化石からゴンフォリウムであることを突き止めて、研究を行っています。

 ゴンフォテリウムは、仲間も多くアジアとヨーロッパを合わせた大陸、ユーラシア大陸や北アメリカ、アフリカに生息していましたが、その仲間のアネクテンスゾウの化石は日本でも見つかっています。
本稿では、主として日本のゴンフォテリウム科(Gomphotheridae)の仲間(属)について述べることにします。日本で見つかっているゴンフォテリウム科の仲間では、アネクテンスゾウ(Gomphotherium annectens)が多いのですが、岐阜県可児郡(かにぐん)の可児層群、岐阜県瑞浪市の瑞浪層群から発見されています。

  高橋啓一氏によると「この種は、岐阜県可児郡御嵩町中切の瑞浪層群平牧層から発見された上顎骨を基に、松本彦七郎が1924年に新種として記載した(松本、1924)。その後、同じ場所から上顎骨も発見され、槇山次郎が1938年に記載したが(Makiyama,1938 )、1970年になってこれらの化石が同一個体のものであることが判明した」(高橋、2013)。なお、その最初に見つかった化石には、臼歯6個が付いたことも明らかになっています。

 岐阜県可児郡御嵩町や瑞浪市で見つかったアネクテンスゾウの化石から、1900万年前~1800万年前に絶滅したものではないかと言う説が有力です。また、アネクテンスゾウによく似たゴンフォテリウムの仲間で、ヨーロッパ産にはアングスチデンスゾウ(Gomphotherium angustidens)と呼ばれる仲間もいました。日本で見つかっているアネクテンスゾウは、ゴンフォテリウムの仲間でも原始的なタイプとされています(『ゾウのきた道―日本のゾウ化石―』(1995)。

 ゴンフォテリウム科の仲間には、上記の他にもまだいろいろな種類がいたのですが、われわれは語尾に「ゾウ」と呼んでいますが、本当は大違いなのです。「絶滅した日本列島のゾウのはなし」(Ⅰ)でも述べましたが、ゾウ科のゾウの本当の臼歯はわらじのような形をしていて、水平交換で抜け替わるのですが、ゴンフォテリウムの仲間の臼歯は、水平交換への進化の過程にあって、垂直交換に近い生え変わり方をしていたのではないかと考えられます。例えば、ミヨコゾウの臼歯は、垂直交換だったと見られています。

 これはゴンフォテリユム属とゾウ科のゾウとの決定的な違いです。ゴンフォテリウムの頭蓋の上下の顎の化石を観察しますと、現生種のゾウと比較して長いことが分かります。完全な水平交換が行われていたとは推測し難いのです。

 ところで、ゴンフォテリウムの仲間の特徴ですが、大変難しいのですが、化石から類推するしかないと思います。これまでに描かれているイラストを見ますと、本物を見たことのない素人のわたしは無言で納得するだけです。

 頭頂骨、前頭骨、側頭骨、上下顎骨、そして臼歯など、さまざまな身体の骨の化石の分析から、考古学者はその動物の骨格を復元します。復元された全身の骨格標本の正確さに驚きます。したがってゴンフォテリウムやその科の仲間のイラストも信じるに足るものと思っています。

 日本で見つかっているアネクテンスゾウやミヨコゾウ(Gomphotherium miyokoae)もゴンフォテリウムの仲間ですが、体高(肩高)は成獣のオス4メートル、体重は6トンと大きいものもいたようです。普通は体高(肩高)2.5~3.0メートル、体重は4トンぐらいと推測されています。

 頭骨は低く、全体に前後に長く、分類上は長鼻目ですが、鼻は短い。下顎の先にも2本の短いが太い牙(切歯)があり、上顎の牙は直線的であまり長くない。4本の牙を持つのが特徴です。下顎の2本は土に埋まっている塊根や球根を掘り返して食べるのに役立ったと考えられます。臼歯にしても、ゾウ科のゾウの臼歯と違って瘤状というか、丘状の咬頭に補助的な小咬頭が付加されたような形で、瘤歯であるのも特徴です。

 さて、アネクテンスゾウやミヨコゾウなどが絶滅してしまった理由の一つは、前にも述べましたが、気候変動が考えられます。

 日本列島は何百万年もそれ以上も昔、否、数万年前でも火山の大噴火が多く、気候変動の中には大噴火による火砕流や、広域に降下したテフラ(tephra:灰など火砕物)の影響があったと推察できます。また、大規模なテフラの堆積により、瞬時にしてアネクテンスゾウなど草食性の生き物の餌が無くなったことも絶滅の大きな理由とも考えられます。

 さて、ゴンフォテリウム科の仲間は、臼歯が水平交換への進化の途中で、多分垂直交換のような方式で生え変わり、次第に固い木の枝や固い草などを非常にたくさん食べますから、擦り潰しながら食べますので、やがては歯が擦り減り、次第に歯がなくなってしまいます。餌が食べられなくなりますので、次第に衰弱死することになります。

 何百万年もの間には進化した種が誕生し、それらは後のステゴドン属やゾウ属に見られるのと同じように水平交換で生え変わるようになったんだと思います。

 臼歯が水平交換するように進化しますと、歯が無くなって餌が食べられなくなる心配がないのです。また、その後さらに進化し、現生のゾウと同じように、長鼻目らしく鼻も長くかなり高木の枝を折って餌として多くの木葉や地面に生えている草も効率的に食すことが可能になり、長寿になったと考えられます。

 こうした効率的な餌の摂取が出来るかどうかも、ゴンフォテリウム科の仲間たち古代ゾウの絶滅と関わりがあったのではないか、それが「消えた謎」、あいまですが素人にはそんな風にも考えられるのです。