とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

ディパーテッド

2007年01月31日 13時40分15秒 | 世界的電影
『ディパーテッド』
(The Departed マ-ティン・スコセッシ監督 2006 アメリカ)



うん、良かったです、意外と!

(以下、ネタバレを含む内容があります!)


<あらすじ>
アイルランド系カトリックアメリカンのコリン・サリバン(マット・デイモン)は、アイリッシュ・ギャングのコステロ(ジャック・ニコルソン)に少年時代から目をかけられ、警察学校を卒業して内通者としてボストン警察に潜入する。同じ頃、警察学校を首席で卒業したビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)は、その出自に問題があるという弱味を逆手にとられ、潜入捜査を命じられる。真の姿を隠したふたりの"ネズミ"の日々がはじまる・・・



『インファナル・アフェアIII』のコメント欄で、香港のオリジナル版未見のみなさんに、本家の方を強くおすすめしました。が!できれば、先にハリウッド版を観てから本家 (『I』)にもどる方がいいと思います!(『II』、『III』はリメイク版とは無関係)

なぜなら、ハリウッド版も十分良くできているから。
そして、オリジナルはやっぱりそれを上回るすばらしさなので、後で観ても全然大丈夫だから(余裕ってやつ?)。

観ている間、できるだけオリジナルを忘れようとがんばったんですが、そんな努力は無用でした。だって、まんまなんだもん。ほとんど。だから、白紙の状態で観れば、これはこれでかなりおもしろい映画にしあがっています。

とりあえず、リメイク版の背景を簡単に。

まず、舞台がスコセッシのホームグラウンド・ニューヨークではなく、ボストンである。冒頭に、暴動(?)のニュース映像が流れるんだけど、それが何なのかは不明。

さらに、設定がアイルランド系アメリカ人の話になっている。音楽もアイリッシュ風アレンジのロック、ジョン・レノン、ローリング・ストーンズが多く使われています。

オリジナルとの最大の違いは、映画内の時間です。オリジナルでは、潜入は10年間にもわたっていますが、リメイク版はおそらく2年たらず。というか、どれくらい時間がたってるのかが、いまひとつわからない。

ここはリメイク版脚本の最大のネックかもしれない。と、いうのも、「10年」という時間の長さこそが、『インファナル・アフェア』がもつ哀しさを生んでいたからです。

トニー・レオンは、10年も仕えたからこそボスの信頼を得たのだし、アンディ・ラウは、10年も警察につとめたからこそ「善」への希望を持った。10年という歳月がふたりの男の心をへとへとに疲れさせ、ねじまげてしまったのです。1年やそこらじゃあ、その深みには到達できない。

それと、ジャック・ニコルソンが実はFBIの情報屋だという設定は、オリジナル(エリック・ツアン)にはなかったと思うんだけど・・・どうでしたっけ?ともかく、その事実がマット・デイモンの"心変わり"の原因になっている。いかにもハリウッド的な展開といえるんじゃないでしょうか。

オリジナルでアンディがボスを殺す理由が、ハリウッドの脚本家にはわからなかったのかも。あるいは、アメリカの観客が理解できないとふんだのか?デイモンの変化の論理的な原因を提示する必要があると考えたのでしょうか。

いずれにしても、東洋的(仏教的)<因果>と西洋的(形而上的)<因果>は、まったく別物なんだな・・・と、しみじみ感じました。

それは、とりもなおさず<善>vs<悪>の構図にも影響してくるわけで。

たとえば、オリジナルではアンディとトニーが楽器屋で偶然邂逅するシーンがありますが、これは、職務をはなれた世界(たとえば音楽の趣味とか)でならふたりはこだわりなく友になれたということ---つまり一種の陰陽思想です。

一方リメイクでも、デイモンとディカプリオが表裏一体の存在だということは打ち出していますが、それはあくまで物語がそうなっているからわかるわけで、その辺を観念的に掘り下げようとはしていません。

ま、どっちがいいとか悪いとかじゃなく、そういう違いがある、ということ。

そのかわり、リメイク版では、アイルランド系アメリカ人をめぐる問題や、宗教の問題が時折顔を出します。もっともそれを分析できるほどの知識はないので、あくまでそういうテーマがある、という指摘しかできませんが。

なぜにアイルランドか?アイリッシュ気質のようなものがアジア的ストイックさに通じるものがあるのでしょうか。深読みすれば、北アイルランドの長年の問題であるカトリックとプロテスタントの対立の隠喩となっているのかも?

さらに、デイモン演じるサリバンは女性との性的不能者、あるいはゲイであるらしい。やたらホモ・フォビアであったり、恋人や上司とのちょっとした会話からも・・・。彼は内通者であると同時に、セクシャリティの面でも自分を偽っていると言えるのかも知れません。

俳優達の演技はすばらしいです。ひさびさにジャック・ニコルソンの悪役が見れたのは良かった。ディカプリオのケガした腕をガンガン叩いたり、いきなりシャツを血まみれにしてあらわれたりする残忍非道ぶりが快い(笑)包容力ある父性としてのマ-ティン・シーンも、良かった。

ディカプリオはやっぱりうまいねえ!主役なのにあの唐突な死に方。文句も言わずにそれをやる(いや文句を言わなかったかどうかは知らんけども)レオ、あんたはエライ!(他の出演作でアカデミー主演男優ノミネートされてます)

すべての俳優が心から楽しんで演じているのが、スクリーンからビンビンつたわってきました。

中華街のシーンや中国マフィアが出て来たりもします(だけどさあ、中国政府との闇取引なのに広東語しゃべってるのって、おかしかないかい?)。


ともかく、物語自体がパワフルなので、おそらく誰がリメイクしても、ていねいに撮れば、おもしろい映画ができるでしょう。ただ・・・スコセッシクラスの監督が「忠実なリメイク」をやっていいのかどうか・・・?

ディカプリオとニコルソンの対決シーンでの緊張感みなぎるカットバックなど、部分的にはスコセッシ節と言えそうな場面もあるが、全体としてはそれほど・・・カットのつなぎが明らかに荒いところもあるし・・・と言いつつ、あまり彼の作品を観てないんですけども(汗)

『インファナル・アフェア』をスクリーンでふたたび観るような気分にさせてくれたという意味では良かった。でも個人的には、スコセッシ流の解釈ってものをちゃんと見せて、そこで勝負してもらいたかった気もする。

何度も何度もオスカーにノミネートされながら、いまだ無冠のスコセッシ。残念ながら今年も・・・?

最後に、この映画の最大のナゾ・・・
マーク・ウオールバーグ、何!?
あのラスト、何!?
あのヘンな髪型、何!!??
(ちなみにボストン出身の人から見ると、彼はすごく「ボストンの警官」っぽいらしいです・・・わからんがな、そんなもん)








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