とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

櫻の園

2006年03月01日 17時37分34秒 | 日本的電影
櫻の園(中原俊監督 1990 日本)



学生のみなさん卒業おめでとう記念。


櫻花学園演劇部。創立記念日恒例のチェーホフ「櫻の園」上演を前に、交錯する彼女たちの想い…
部室いっぱいになだれこむ、春の陽射し。白いカーテンを揺らす微風。風にのって踊るように吹きこんでくる桜の花びら…
もうろうとした、やさしい、でも息苦しい春の日、満開の桜を見上げていつも思い出すのは、この映画です。
…桜の季節には、まだすこし早いけれど、春へのあこがれをこめて。


この当時、少女映画がよく作られていたように思います。『1999年の夏休み』(1988)で、少女たちが演じる少年の世界に耽溺した後、出てきたのがこの『櫻の園』です。『1999年の夏休み』よりは正統派の少女映画といえるでしょうか。


『櫻の園』の世界を、はたして男性諸氏が受け入れるのかどうか、はわかりませんが、多くの女性にとっては、他人事ではない何かを、いたるところに見つけられるのではないでしょうか。わたし自身そうですから。


中島ひろこ演じる演劇部部長・志水由布子は、常に自分を抑制するくせがついて、人よりもすこしだけ早く大人になってしまった少女。
つみきみほ演じる杉山紀子は、暗い影を背負ってどうしても集団生活にとけこめず、そこからはみ出そうとする少女。
白鳥靖代演じる倉田千世子は、大人びた容姿と演劇の才能で、やはり輪からはみ出さざるをえない少女。


でも、3人ともが、心の奥底には、まっすぐに人を想う純粋な気持ちを守っている、おさない少女に過ぎません。そしてわたしたちは、3人の少女それぞれの中に「自分」を見い出すのです。


舞台上演前の2時間に物語を凝縮したことが、この作品の良さだと思います。映画の上映時間と、映画内で進行する時間が同じであるところが、とても好きです。場所も、学校の中の空間にのみ限定されています。


こうして、少女達の青春の、ある瞬間だけを切りとることで、この映画の密度はぐっと濃くなっています。いわば密室の中の集団劇のように作り上げたことによって、この映画は独特の「匂い」をもつことができたのです。


「倉田さんのこと好きよ、大好き」---と、すなおに、晴れやかに言えることが、この映画の少女たちにだけゆるされた特権だったのかもしれません。



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