漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0757

2021-11-25 19:23:26 | 古今和歌集

あきならで おくしらつゆは ねざめする わがたまくらの しづくなりけり

秋ならで おく白露は 寝覚めする わが手枕の しづくなりけり

 

よみ人知らず

 

 秋でもないのに置いている白露は、夜に目が覚めてしまう私の枕の雫なのです。

 白露は涙を見立てたもの。「手枕」と言えば、共寝の相手の手を想像しますが、それが独り寝の自分の手であることも、恋の苦しみを感じさせますね。


古今和歌集 0756

2021-11-24 19:06:49 | 古今和歌集

あひにあひて ものおもふころの わがそでに やどるつきさへ ぬるるかおなる

あひにあひて もの思ふころの わが袖に 宿る月さへ 濡るる顔なる

 

伊勢

 

 逢瀬を重ねた頃を思い返し、もの思いにふけって流した涙に濡れた袖に映る月までもが、私と同じ涙顔になっていることよ。

 初句「あひにあひて」を「逢ひに逢ひて」と解釈しましたが、「合ひに合ひて」ととる説もあり、その場合は「月と自分が同じ切ない気持ちで同じ涙顔になっている」意となります。前者の方が自然な解釈に思えますが、それは現代語の感覚ゆえかもしれません。


古今和歌集 0755

2021-11-23 19:08:26 | 古今和歌集

うきめのみ おひてながるる うらなれば かりにのみこそ あまはよるらめ

うきめのみ 生ひて流るる 浦なれば かりにのみこそ あまは寄るらめ

 

よみ人知らず

 

 浮き海布ばかりが育って流れている浦に狩りに来る漁師のように、憂き目ばかり見ているわたしのところにあなたは仮そめにしか来てくれないのでしょう。

 「うきめ」が「浮き海布」と「憂き目」、「かり」が「狩り」と「仮」の掛詞になっていて、さらに「浦」を自身に、「あま」を思いを寄せる相手に準えての詠歌で、歌全体に巧みに二重の意味を持たせています。

 


古今和歌集 0754

2021-11-22 19:12:09 | 古今和歌集

はながたみ めならぶひとの あまたあれば わすられぬらむ かずならぬみは

花がたみ めならぶ人の あまたあれば 忘られぬらむ 数ならぬ身は

 

よみ人知らず

 

 見比べる相手がたくさんいるので、忘れられてしまったのでしょう。ものの数にも入らないわたしのような者は。

 「花がたみ」は摘み取った花を入れるかごのことで、細かい網目が並んでいることから、「めならぶ(=「見比べる」の意)」に掛かる枕詞として使われます。

 


古今和歌集 0753

2021-11-21 19:42:47 | 古今和歌集

くももなく なぎたるあさの われなれや いとはれてのみ よをばへぬらむ

雲もなく なぎたる朝の われなれや いとはれてのみ 世をば経ぬらむ

 

紀友則

 

 この身は、雲もなく凪いだ朝のようなものか。「いと晴れて」ならぬ、あの人に「厭はれて」世を過ごすのだろうか。

 上二句の晴れやかで穏やかな歌調が、掛詞「いとはれて」の一語で、一転して思いを寄せる人に疎まれて日々を過ごすわが身を憂う沈鬱な詠歌となっています。言葉使いの妙を味わえる歌ですが、スマートに口語訳するのは難しいですね。^^;;