goo blog サービス終了のお知らせ 

漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

【麕至】

2016-02-12 01:10:15 | 雑記
 先日の 27-3 で、【麕至】 の音読みが出題されました。この問題の正解が「くんし」のみか、「くんし」「きんし」いずれでも可かということが syuusyuu さんのブログ で話題になっています。私なりに少し調べて「こういうことなのかな」との思いに至りましたので、整理して書いてみます。


 ことの発端は、「漢検 漢字辞典」第二版に 【麕】 は意味によって音を読み分ける旨の記載があり、また 【麕至】 が見出し語に採用(初版にはありません。第二版での新たな記載です。)されて読みは「くんし」のみとなっているということでした。しかしながらその一方で、この熟語は 19-1 で出題済の過去問であり、その時の標準解答では「きんし/くんし」どちらでも正解とされています。そこで、果たして今回この問題に 「きんし」 と解答したら正解とされるのかどうか、またそもそもどうしてこんなことになっているのかが話題になっているという訳です。(ついでですが、まったく同じことは 【麕集】 でも生じていまして、「辞典」第二版では見出し語でこそないものの、小さい活字で「麕集(クンシュウ)」 と記載されています。一方でこの 【麕集】 も 22-1 で出題されており、その際の標準解答は「きんしゅう/くんしゅう」 どちらでも可となっています。)

 まあ、本試験での正誤に関して今回どのような扱いがされるのかは、標準解答や正式結果が出ればわかることなのでそちらを待つとして、どうしてこのようなことが生じているのかを、「大漢和辞典」の記載から推測してみます。

 漢検では、正字である 【麕】 に加えて、 (以下では「鹿+禾」と記載) が異体字(許容字体)とされています。この2つの字を「大漢和辞典」で調べてみたところ、概要、以下のように記載されていました。


【麕】
 音 : キン
 【(鹿+禾)】 に同じ。
 【麕至】=キンシ

【(鹿+禾)】
 音 : キン、コン、クン、グン
 (「のろ」の意では「キン、コン、クン」、「むらがる」の意では「クン、グン」)
 【(鹿+禾)至】=グンシ

 ここから推測するに、【麕】の項に「【(鹿+禾)】 に同じ」との記載があることから、両者は意味の上では同義のものとして使われていたものの、【麕】 には「キン」との読みしかなく、従って同じ意味の熟語ではあっても、【麕至】は「キンシ」、【(鹿+禾)至】は「クンシ(グンシ)」と、異なる音で読まれていたのではないでしょうか。つまりこの2つの漢字は、正字-異体字の関係とは言っても、もともと音が異なっていたのではないかと思います。それが明確に「正字と異体字」、つまりどちらの漢字を用いても良い(=音訓は共通のものとせざるをえない)との扱いとされたがために、こうした問題が生じたのではないでしょうか。

 以上の推測がもし正しいとするなら、現代において 【麕至】 を「きんし/くんし」どちらで読むべきかは、一概にどちらであるべきとは言えず、両方の考え方が成り立つことになると思います。もともと読みが違っていたのなら、たとえ意味は同じでも違う漢字として扱い続けていればこんなことはおきなかったのかもしれません。しかしこれも長い長い間に人々が「同じ意味の違う漢字」ではなく「同じ漢字の違う書き方」として認識するようになったということだとすれば、あとから理屈や合理性で考えてはいけないのでしょう。



 以上、勝手な推測をつらつらと書きましたが、私の推測が正しいかどうかは別として、このようなことを調べたり考えたりしていると、時間がたつのを忘れます。なかなか楽しい休日を過ごせました。 ^^




最新の画像もっと見る

4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
麕至 (syuusyuu)
2016-02-13 07:45:03
おはようございます。「きんし」もokでしたね。この記事は勉強になりました。ありがとうございます。
今朝、漢検さんに本問題の標準解答について照会してみました。回答が来るかどうか、内容がどうか、とても興味津々です。ではまた。
返信する
ありがとうございます (凜太郎)
2016-02-13 09:23:52
syuusyuu さま

おはようございます。コメントいただき、恐縮です。
私も2~3度、協会さんに問い合わせをしたことがありますが、いつも大変丁寧な返信をいただけます。どのような見解なのか、楽しみですね。 ^^
返信する
1級の人ってすごい! (漢字蹣跚)
2017-03-12 20:59:25
準1級を取ってから、1級を受けるかどうか余りの
壁の高さにたじろいだまま、随分時が経っています。
1級の人たちのブログを見ると本当にすごいですね。
 麕の議論、一応新漢語林をみてみたら、やはり異体字の関係のように書いてありますね。
返信する
ありがとうございます (凛太郎)
2017-03-13 19:02:11
漢字蹣跚 さま

ご来訪とコメント、誠にありがとうございます。貴ブログにも初めてお邪魔させていただきましたが、ご自身でもお書きの通り、本当に漢字の世界を楽しんでいらっしゃる方だなぁと感じ入った次第です。これからもちょこちょこお邪魔させていただきますね。(^^

漢検一級、思えば私も準一級合格直後に改めて一級の問題を見たときは気が萎えました(笑)し、実際にも合格までには正味一年を要しましたけれど、その一年が苦行だったかと言えば、むしろ漢字世界の面白さにさらにはまっていった時間だったように思います。気が向かれる時が来ましたらぜひお仲間に。^^

拙ブログも引き続きよろしくお願いいたします。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。