あまくもの よそにもひとの なりゆくか さすがにめには みゆるものから
天雲の よそにも人の なりゆくか さすがに目には 見ゆるものから
紀有常娘
あなたは、空の雲のように私から離れてゆくのですね。とはいえまだ私の目にそのお姿は見えているのですけれど。
詞書には、在原業平が紀有常の娘のところに通っていたけれど、気に入らないことがあって、しばらくの間、昼は来て夕方は帰るということをしていたので、詠んでおくった、とあります。業平からの返し(0785)とともに、伊勢物語第19段にある歌ですが、設定されている男女の状況はこの詞書とは異なるようです。
作者の紀有常娘(き の ありつね が むすめ)はその名の通り、0419 の作者紀有常の娘で、業平の妻であった人物。古今集への入集はこの一首のみです。