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漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 752

2025-05-07 05:57:07 | 貫之集

きのふまで あひみしひとの けふなきは やまのくもとぞ たなびきにける

昨日まで あひ見し人の 今日なきは 山の雲とぞ たなびきにける

 

昨日まで会っていたのに今日はもういなくなってしまったあの人は、山の雲となってたなびいているのであるよ。

 

 この歌は、新勅撰和歌集(巻第十八「雑三」 第1227番)に入集しています。
 詞書は 751 と共通(「世の中はかなきことを見て」)。万葉集の大伴三中(おおとも の みなか)の歌を踏まえての詠歌とされています。

 

きのふこそ きみはありしか おもはぬに はままつのうへに くもにたなびく

昨日こそ 君をありしか 思はぬに 浜松の上に 雲にたなびく

(万葉集 巻第三 第444番)


貫之集 751

2025-05-06 04:21:21 | 貫之集

世の中はかなきことを見て

うけれども いけるはさても あるものを しぬるのみこそ かなしかりけれ

憂けれども 生けるはさても あるものを 死ぬるのみこそ 悲しかりけれ

 

世の中がはかないことを見て

辛い世の中であっても、生きていればそれなりに過ごして行けるものであるが、死ぬということだけは本当に悲しいことであるよ。

 

 親しくしていた人の死に際してのものか、あるいは自身の死期を悟っての詠歌でしょうか。
 この歌は、続古今和歌集(巻第十六「哀傷」 第1481番)に入集しており、そちらでは下二句が「しぬるみのみぞ かなしかりける」とされています。こちらの表現ですと、自らの死を詠んだものとなりそうですね。


貫之集 750

2025-05-05 04:47:08 | 貫之集

とあるに、又

きえにきと みこそきこえめ いそのかみ ふるきなうせぬ きみにぞありける

消えにきと 身こそ聞こえめ いそのかみ ふるき名うせぬ 君にぞありける

 

そうこうしているうちにまた詠んだ歌

身体はこの世から消えてしまっても、昔からの名門の名は布留の地から決してなくなりはしない。そんなあなたであるよ。

 

 素性法師の死に際して、躬恒とのやりとり(748749)とは別にもう一首詠んだ歌ということですね。


貫之集 749

2025-05-04 04:47:56 | 貫之集

返し  躬恒

きみなくて ふるのやまべの はるがすみ いたづらにこそ たちわたるらめ

君なくて 布留の山辺の 春霞 いたづらにこそ 立ちわたるらめ

 

返し  躬恒

素性の君がいなくなって、布留の山辺の春霞は、ただむなしく辺りに立ち込めていることであろう。

 

 貫之から送られた 748 に対する躬恒からの返歌。同時代の歌人である貫之、躬恒、素性に、個人的にも親交があったことがわかりますね。 


貫之集 748

2025-05-03 05:01:48 | 貫之集

素性亡せぬと聞きて躬恒がもとにおくる

いそのかみ ふるくすみこし きみなくて やまのかすみは たちゐわぶらむ

いそのかみ ふるく住みこし 君なくて 山の霞は 立ちゐわぶらむ

 


素性法師が亡くなったと聞いて、躬恒に送った歌

素性の君が昔から住んでいた石上の布留の地では、君がいなくなったあと、山の霞も立つのに戸惑って困っていることだろう。

 


 「いそのかみ」は地名であるとともに、「ふる」に掛かる枕詞。その「ふる」は「古い」意と地名の「布留」との掛詞になっています。「いそのかみ ふる」のフレーズは 316 や 575 にもありましたね。