エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

『ソフト・エネルギー・パス』が示唆する「スマートパス」への道

2009-10-06 00:07:33 | Weblog
ふと、30年以上前の1977年(私が通産省に入省した年)に出版されたエイモリー・ロビンズ『ソフト・エネルギー・パス』を思い起こし、昨年古本屋で購入しておいた古本を読み直してみました。
 当時はブームとなった考え方ですが、いまや忘れ去られた感があります。しかし、この本にはまさに今のピークオイル問題も地球温暖化問題も包含されていて、スマートグリッドのあり方を真剣に議論しなければならない今だからこそ、再び、ロビンズが提起した問題の重要性を想起する必要があるように強く感じました。
 結論を先に言えば、この本でロビンズがアピールした永遠のメッセージは、環境エネルギー問題は技術の問題をはるかに超えたものであり、社会的合意形成を含むソーシャルエンジニアリングの問題として捉えなければ、解決の入り口には立てないということです。
 まず、ロビンズは、環境エネルギー問題を解決するアプローチには、資本や技術で克服するというハード路線とそのエネルギーが持っている特性にあった活用をするというソフト路線があるとします。
 化石燃料発電や原子力発電などはハードエネルギーパスそのものですから、それらをひたすら推進する「需要を賄うための供給力増強」路線を批判して、需要端管理(DSM:Demand Side Management)の重要さを明確にしたことがこの本の警告書としての価値でした。
 しかし、実際は、石油ショック後の米国のエネルギー需要・供給構造にはDSMが社会システムとして定着せず、ロビンズが危惧したような推移をしてきたことは、あまり注目されていませんが重要なことです。アメリカのスマートグリッド論はようやくこの点に注目したという側面があります。
 では、ここで今日的な問題設定をしてみることとします。
 われわれは現在、ピークオイル問題や地球温暖化問題に直面し、2020年(遅くとも2050年)に向けて太陽光発電など自然エネルギーを大量に導入することを前提としてエネルギーネットワークや社会経済システムを構築しなければなりません。これは喫緊の課題です。
 ここで注意が必要なのは、一般的にはソフトエネルギーパスの代表と思われている自然エネルギーの導入に当たり、実はハードとソフトの2つの路線が存在するということです。太陽光発電など自然エネルギーが持つ「間欠性」や「稀薄性」といった欠点(とされるもの)に対して、このハードな路線とソフトな路線ではまったく異なった設計思想で対応が行われることになります。
A.間欠性=時間変動がある

変動の大きい供給エネルギーをどうやって必要な時点のエネルギー需要に適合するよう調節するか。

・ハード路線 蓄電/蓄熱システム付きの大規模な容量のものにする
・ソフト路線 目標とするある需要に供給規模を合わせた補助的なエネルギー源とする、または 過大な供給エネルギーはシステム外に輸出する(売電/売熱)ことで安定化を図る
B.稀薄性がある

広い面積の太陽光などを受ける土地が必要となる。この場合、コストをどうするか。

・ハード路線 遠隔地(海外の砂漠など)に大面積を確保できる場所に発電所を建てる
・ソフト路線 需要端に必要最小限度のシステムを作る
 自然エネルギーの大量導入に当たってソフト・パスとハード・パスとは技術的には両立しますが、ロビンスは、ハードパスを中止しないかぎり人的資源、資金、時間が奪われてソフト・パスへの移行が困難になるとして、両者は社会的・文化的・政治的に排他的であるとしました。
 ここで考えたいのは、両者の調和を図るというような「スマート・パス」が考えられないかどうかです。というのは、ソフト・パスとハード・パスのいずれかという問題設定では、電力会社にしろガス会社にしろ、従来型のエネルギーサービス供給者の存在意義そのものを問うこととなり、改革勢力と抵抗勢力という図式となって、現状からの変革への合意を取り付けることが困難になるからです。
 この問題は、従来型の集中エネルギー供給システムとの関係をどう考えるか、どの程度切り離して独立したものとしうるか、という観点から考える必要があります。
 この問題に対してソフト路線を採用すれば、自然エネルギーは補助的な用途に用い、主たるエネルギーを電力会社などの系統ネットワークに頼るシステムを構築することができます。その逆にハード路線を採用する場合は、必然的に大容量で、蓄電システムなどを完備したものにせざるをえません。
 つまり結論は、一般的なイメージのハード路線とソフト路線とは正反対の現れ方をすることになります。ハード路線の方が従来システムとの相性が悪く、ソフト路線は相性が良いということになります。この点ついて、ともすればソフト路線を賛美しがちな環境市民運動派は認識を改める必要があります。
 より多くの市民、消費者がハードな自然エネルギーへの道を選択するようになれば、従来型のエネルギー供給者は役割を縮小していくことになります。逆に多くの市民、消費者がソフトな自然エネルギーへの道を選択すればするほど、従来型のエネルギー供給者は生き残るだけではなく、役割を拡大することになるでしょう。スマートグリッドのあり方を論じるときに重要なのは、最終的な判断はユーザである市民、消費者にあるということです。
 翻って考えてみると、『ソフト・エネルギー・パス』の中を流れるもっとも斬新で、かつ、永遠のメッセージと言えるものは、最終的に決めるのは工学的な技術ではなく、システムを作り上げる社会的、政治的なソーシャル・エンジニリングなのだという指摘でした。そしてそれは、いまだに今日的な課題として横たわっているのです。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿