エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

スマート連載「電力システム改革に伴い、政府のスマグリ戦略は根本から見直しを!」

2013-03-26 07:03:26 | Weblog
 毎月分散型エネルギー新聞に連載している「日本を変えるスマート革命」に、新テーマとして「電力システム改革に伴い、政府のスマグリ戦略は根本から見直しを!」を掲載しました。
 項目としては、1.政府の「規制改革会議」は、電力システム改革を最優先事項に!、2.「点」だけを対象にした従来のスマートグリッド推進戦略が不適当なのは明らか、3.「プランA」には方法論上の誤りもあり、4.スマグリにおいても「技術で勝って、ビジネスで負ける」、5.「死の谷」を乗り切るためのしたたかな戦略が欠如、6.むしろ有効なのは「死の谷」をなくす戦略、7.私はスマートグリッド「プランB」を提唱です。
 全文は以下の通りですなお、過去の連載については、こちらからご覧になれます(http://www.onsitehatsuden.jp/pdf/110830smartkakumei.pdf)。ご関心があれば、お読みください。


「日本を変えるスマート革命」:その20~電力システム改革に伴い、政府のスマグリ戦略は根本から見直しを!~

スマートプロジェクト代表&エコポイント提唱者
加 藤 敏 春

●政府の「規制改革会議」は、電力システム改革を最優先事項に!

前回の連載で指摘したように、2013年2月8日、総合エネルギー調査会「電力システム改革専門委員会」(委員長、東京大学大学院の伊藤元重教授)が報告書を取りまとめ、2015年の広域系統運用機関の設立と新規制組織への移行、16年の電力小売りの完全自由化、18年から20年にかけての発送電の分離などを提言しました。

安部政権としては、2月28日に「規制改革会議」が自民党・日本再生本部に対して行った活動報告に見られるように、電力小売りの全面自由化、発送電分離等の電力システム改革を規制改革の最優先事項として取り組むことを明らかにしています。現在開催されている通常国会に電気事業法改正案を提出し、その附則などで前記の「電力システム改革専門委員会」の報告で謳われた改革の工程表のアウトラインも明示する方針です。まさに「電力大改革時代」の到来です。

●「点」だけを対象にした従来のスマートグリッド推進戦略が不適当なのは明らか

このように今後電力システム改革が日本全国を対象に「面」として推進される状況の下では、政府のスマートグリッド推進戦略は根本から見直しされることが必要です。前回の連載で指摘したように、政府のスマートグリッド推進戦略は、スマートグリッドの技術面だけにフォーカスし、特定の地「点」において技術実証を5年間行い(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市などの特定の街区)、その成果を6年目以降の実用化するというアプローチです。

私はこれをスマートグリッドの「プランA」と称していますが、「プランA」では「電力大改革時代」の「面」の課題に対応することは到底できないことは明らかです。

●「プランA」には方法論上の誤りもあり

さらに、「プランA」には方法論として次のような誤りがあります。産学連携推進機構理事長(前東京大学特任教授)の妹尾堅一郎さんの『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』を参考にして考察したものです。
 まず第1に、「プランA」はイノベーション(革新)とインベンション(発明)を混同していることです。インベンション(発明)にさえ成功すれば産業、経済、社会を変革する価値システムを創造できるというナイーブな思い込みがあります。

英語の“Innovation”は「技術革新」と和訳されますが、これは誤訳(迷訳)です。いかに優れたインベンションであっても、産業、経済、社会に普及して価値を創造しないものはイノベーションではありません。このことはスマートグリッドでも同じです。

「イノベーションの経済学」を提唱したシュンペーターがイノベーションとして掲げた5類型のうち、技術起点のプロダクトイノベーションは一類型(新しい財貨の導入)にしかすぎません。

●スマグリにおいても「技術で勝って、ビジネスで負ける」

第2に、技術実証の結果得られる技術で優位に立てば、事業でも優位に立てると思い込んでいることです。このことは日本企業のビジネス戦略の誤りと似ています。

日本企業は長らく技術で優れていれば市場でも勝てると信じ、行動してきました。その結果、マイクロソフト、アップル、グーグル、フェイスブックなどのアメリカ企業のみならず、加工組み立て分野ではサムソンなど韓国勢や中国製、台湾勢に市場を奪われ、パナソニック、ソニー、シャープなど2012年3月期に巨額の赤字を計上し、13年3月期においても苦境を脱することのできない企業が数多くあります。

技術実証のみの「プランA」では、すべに「プランB」に路線転換した欧米先進国のみならず、韓国、中国などで推進されているスマートグリッドに対して、事業の段階で敗退することになるでしょう。スマグリにおいても「技術で勝って、ビジネスで負ける」ことになりかねないのです。

第3に、第2と同様に、「プランA」はスマートコミュニティでも国際標準をとれば競争に勝てると思い込んでいますが、これも誤りです。国際標準よりも競争優位を獲得する上で重要なのは、ビジネスモデルです。



●「死の谷」を乗り切るためのしたたかな戦略が欠如

第4に、「死の谷」(valley of death)を乗り切るためのしたたかな戦略が欠如していることです。「死の谷」とは、技術開発がその後の事業化・製品化につながらないことを言い、両者のギャップをいかに埋めるかが事業で優位に立てるカギになっています。ギャップを埋める伝統的な手法は国による技術開発費の支援です。

「プランA」は、この伝統的な手法をスマートグリッドにも適用し、毎年数百億円もの技術実証費の支援を前述の「点」に対して行っています。こうした伝統的な手法にはある程度の有効性はありますが、この場合においては、「点」における技術実証の成果を他に拡大・普及させるため、「外的妥当性」(external
validity)の確保を最初からスキームに組み込んでおくことが必要です。そうでないと技術実証の成果は日本だけしか使えない「ガラパゴス現象」を生むことになります。
 しかし、スピードを増している競争環境の下では、こうした伝統的な手法の有効性は次第に減殺しています。それを象徴しているのが2012年2月半導体メモリーDRAMを日本国内で生産する半導体製造企業であるエルピーダメモリーが会社更生法の適用を申請したことです。エルピーダメモリーは改正産業活力再生法に基づき公的資金による支援を受けて先端的なDRAMの研究開発を行ってきましたが、サムソン電子のスピード戦略には太刀打ちできませんでした。

●むしろ有効なのは、「死の谷」をなくす戦略
 むしろ、近年有効になっているのは、そもそも「死の谷」をなくす、あるいは極力狭くするという問題解消型のアプローチです。このためにはビジネスモデルを変えて、製品の普及の過程において分業を行うことが必要になります。 

企業のレベルで採用されたこうしたアプローチの典型は、インテルがMPUのイノベーションを創造する際に台湾メーカーを使った手法です。インテルは自ら開発したMPUを組み込んだマザーボードを規格化して、それを格安で生産してくれる台湾メーカーに持ち込み、台湾メーカーがマザーボードという中間製品を格安で生産し、インテルが販売する。そうすると最終製品であるPCも格安で生産し販売できるようになり、瞬く間にPCに多くの企業が参入する。結果、格安な最終製品であるPCが市場に出回るようになり、「死の谷」はあっという間に越えられるようになりました。

●私はスマートグリッドの「プランB」を提唱
 スマートグリッとの世界においてこれと同様のアプローチをするのが、市場、技術、制度のインターアクションで推進する「プランB」です。詳細については、拙著『スマートグリッド「プランB」―電力大改革へのメッセージ』(2012年、NTT出版)を参照いただければ、幸いです。

経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム協議会」においても「プランA」を修正してプロジェクトマネージメントの強化などを行う動きが出ているところであり、国としても早急に「プランB」への路線変更がなされることを期待したいと思います。

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