エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

市民発電所の今日的意義とエコマネー

2010-08-13 00:19:29 | Weblog
日本でも、自治体独自のグリーン電力証書の買い取り、市民出資と結びついた再生可能エネルギーへの取り組みなど地域主導の取り組みが各地で進められていますが、ここで市民共同発電所の今日的意義について考えてみたいと思います。
市民共同発電所とは文字通り市民が共同で作った発電所のことを指します。組織形態は多様ですが、資金調達形式で見ると寄付型、出資型、地域活動型の3類型があり、所有形態で見ると共同所有者として分配金を受け取り運営にも参加する共同所有方式と法人・会社方式に分類されます。
1億円を超える巨額の資金調達を必要とする大型風車の場合には匿名組合という組織形態を活用した後者の方式がとされており、出資者は出資額に応じて配当を受け取りますが、元本の保証はなく運営にも参加しません。
分散型エネルギーの伸長は、政策決定プロセスを変更する可能性を秘めています。固定価格買い取り制を広めたのはドイツのアーヘン市電力公社が打ち出した「アーヘン・モデル」ですし、市民出資による太陽光発電でモデルとなったのはフライブルグです。フライブルグのサッカー・スタジアムの太陽光パネルは、市民の区分所有権を募集して設置したものであり、エネルギー政策とスポーツ政策の結合、行政・企業・スポーツクラブ・市民の協働として高く評価されています。
風力発電の先進国であるドイツやデンマークでは、風力発電の80%以上が個人または協同組合の所有です。デンマークでは、当初出資者の資格を半径3キロ以内の居住者に限定し、できる限り多くの出資者の参加を得るために出資額にも上限を設定していました。その後居住者の範囲を拡大し、出資額の制限も緩和していきますが、「地域の風は地域のもの」という基本理念の下に大企業の参加を制限してきました。陸上での風力発電の普及がほぼ完了し、洋上風力発電への転換が図られる中で投資規制は2000年に撤廃されましたが、この政策転換の前提には「海上は国民の共有財産」という社会理念がありました。
日本の市民共同発電の第1号は、1994年に宮崎県串間市の市民団体「太陽光・風力発電トラスト」が取り組んだ太陽光発電「ひむか1号」です。その後拡大を続け、07年9月時点で取り組み団体は71、発電所は185基(太陽光164基、風力20基、小水力1基)、出力合計は1万5843キロワットとなっています。その大部分は小規模な太陽光発電ですが、巨額の資金を必要とする風力発電に関しても、「市民風車」の取り組みが各地で進められてきました。2001年に北海道浜頓別町で市民風車第1号(1000キロワット)が立ち上げられ、その後青森県鯵ヶ沢町、秋田県天王町、北海道石狩市と続いて現在20基の市民風車が稼働しています。
また、10年度からは、日本で初めての市民参加型のウインドファーム事業である石川県輪島市「輪島門前コミュニティウインドファーム」の事業が開始されることになっており(こちらをご覧ください)、日本でもようやく市民主導の大規模市民風車の時代に入ってきたと言えます。
市民共同発電の試みはまだ規模は小さいものですが、その意味するところは極めて大きいと言えます。そこでは、市民は単にエネルギーの消費者ではなく、発電事業者すなわちエネルギーの生産者として出現しています。アルビン・トフラーは『第3の波』の中で、自ら生産し消費する諸費のための生産を第1の波とし、産業社会における交換のための生産を第2の波とし、第3の波である現代は、高い科学技術水準の裏付けを持って生産と消費を再統合する「生産者(プロデューサ)=消費者(コンシューマ)」すなわち「プロシューマ」の時代として位置づけています。
インターネットの世界では、ソフト開発ではL・トーバルスのリナックス、辞書編纂ではウィキペディアが登場し、いずれも無償ではありますが自由意思に基づく共同作業によって「コンシューマ」の活動が展開されています。
「コンシューマ」に向かう国際的な動きが「フェアトレード」(発展途上国で作られた作物や製品を適正な価格で継続的に取引することによって、生産者の持続的な生活向上を支える仕組み。ヨーロッパを中心に1960年代から本格的に広まり、現在では数千店舗の第三世界ショップが世界中に開かれています)であると言えると思いますが、市民共同発電所のケースにおいては、リアルな世界で、しかも有償の関係で「コンシューマ」の活動が推進されています。ここでの労働は、もはや会社の利潤を増やすための労働、自分の生活費を稼ぐための労働ではなく、自己充足のためのあるいは他社との協働によるコミュニティのための労働に順次変化していくことになります。
しかも、第2の波の時代においては、生産者(プロデューサ)と消費者(コンシューマ)は人格的に分離しており、両者はマネーを媒介にした市場関係でつながっていましたが、第3の波の時代になると生産者(プロデューサ)と消費者(コンシューマ)は人格的に再統合される結果、マネーが関係性の中で成り立つエコマネーへと質的変容をきたしていく可能性が出てきたことが重要です。

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