ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

無法松の一生

2022年11月01日 | 映画みたで

監督 稲垣浩
出演 坂東妻三郎、園井恵子、月形龍之介、澤村アキヲ、永田靖

 ブログでは紹介しなかったが三船敏郎版「無法松の一生」を以前観た。それと見比べたかった。もともとこのバンツマ版が先に創られた映画だ。で、2本の「無法松の一生」を見比べた印象だが、このバンツマ版の方がたんぱくに感じた。三船版とバンツマ版、この2本の「無法松の一生」は同じ監督同じ脚本。稲垣浩と伊丹万作だ。だから俳優が替わっただけで同じ映画といっていい。
 三船版にあってバンツマ版にないシーンがある。松五郎が𠮷岡夫人に対する恋慕おさえがたく告白に行こうとして「オレの心は汚い」といって叫ぶシーン。俥引きふぜいの無法者が帝国軍人の妻に恋慕をいだくとはけしからん。と、内務省に削られたとか。また戦後、ちょうちん行列のシーンなどはGHQに削られた。だからバンツマ版の方が短い。で、稲垣、伊丹はこの処置が気に食わん。満足のいくモノを創ろうとしたのが三船版であった。
 で、バンツマ版の方が官憲の手が入ったわけだが、映画としてのできは決して三船版には劣っていない。三船版の松五郎は𠮷岡夫人への想いのたけを、表現していたが、バンツマ版はその表現は削られていたが、松五郎の夫人に対する想いは充分に伝わった。直截的な表現がないだけに松五郎の心情が痛いほど判った。映画とか小説などの表現活動を愛する者としては、表現の自由をないがしろにする、かような行為は絶対に否定するが、期せずしてバンツマ版「無法松の一生」は三船版「無法松の一生」とは違う味わいの映画となった。
 原作は岩下俊作の小説だが、この「無法松の一生」の主人公富島松五郎は、気も荒いし口も荒い手も早い乱暴者だが、心根は優しく純情で奥ゆかしい男、というエンタメの男性主人公の一つの定番となった。