ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

新・二都物語

2019年10月03日 | 本を読んだで

 芦辺拓      文藝春秋

  関東大震災、阪神大震災。この物語は二つの大震災をつなぐ時間の流れに沿って紡がれていく。主人公は二人の男。東北の貧農出身の政木謙吉。大阪の銀行家の息子の水町祥太郎。この二人を軸に大正、昭和、平成の日本と中国での物語が展開する。
 二人は一度だけ会った。関東大震災直後の東京で。謙吉は貧乏書生の被災者として、祥太郎は大阪からやってきた復興支援者として。この震災が二人の運命を大きく変えた。謙吉は別人となって、政府の役人に奉職。映画を検閲する立場となる。祥太郎は没落した実家を出て、映画製作者として生きていく。
 謙吉と祥太郎。この二人にからむのは、甘粕正彦や李香蘭(と思われる新人女優)といった有名人から、無名の中国人少年まで、波乱万丈の物語が展開していく。
 そして1995年1月17日午前5時46分。神戸のとあるホテルに90を越える老人が宿泊していた。その後、老人を見かけた人はだれもいない。