ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

弾丸を噛め

2019年10月14日 | 映画みたで

監督 リチャード・ブルックス
出演 ジーン・ハックマン、ジェイムス・コバーン、キャンデス・バーゲン

 アドベンチャー西部劇である。1000キロの長丁場レース。1頭の馬で走らなくてはいけない。人間が倒れても馬が倒れても失格。賞金2000ドル。途中チェックポイントがありそこを通過しなくてはならない。いわば馬を使ったラリーである。
 出場者はハックマンふんするクレイトン。クレイトンの戦友だったマシューズ。歯痛に悩むメキシコ人。初老の男。イギリスの貴族。そしてただ一人の女性参加者ケイト。かような人たちが人馬一体の過酷なレースに挑む。
 クレイトンは最初はレースに出場する富豪の馬を運ぶ仕事を請けおっただけだが、集合時間に遅刻してクビになる。なぜ遅刻したのか。母馬に死なれた子馬を助けていたから。この冒頭のエピソードで、クレイトンが動物を愛する優しい男であることが表現されている。うまい脚本だ。
 レースが始れば、アメリカ西部のさまざまな景色を楽しむことができる。砂漠、山岳地帯、湖、川、街。雄大な大自然を疾走する馬。景色も走る馬も美しい。楽しませてくれるのは西部の景色だけではない。レースをする人たちもそれぞれの人生をかかえて走る。
 主人公のクレイトンはキューバでの戦争に出征した。そこの現地の女性と恋仲になって結構。彼女は戦死。この戦争でマシューズと知り合った。
 メキシコ人はレースのあいだじゅう歯が痛い。がまんできなくて麻薬を飲みつつレースを続ける。結局、ケイトとクレイトンに抜歯してもらう。麻酔なしでナイフで歯を抜く。痛さにたえるために「弾丸を噛む」のだ。
 なにをやってもうまく行かない人生。心臓に病をかかえながらも人生最後の賭けに出た初老の男。マシューズは金が目当てらしい。女ながらこんな過酷なレースに参加したケイトはなにが目的か。
 レース出場者たちはみんな紳士的。他の人を妨害しない。困っている人を助ける。崖から落ちればレースを中断して引き上げてやる。
 悪役らしい悪役は出てこない。いきがっている若いのがいるが、クレイトンにどつかれて改心したらしく、クレイトンとマシューズを助ける。
 ジーン・ハックマンというアクの強い俳優が主役の西部劇でありながら、たいへんにあと味の良い映画であった。