ま、いいか

日々の徒然を思いつくままに。

「祈りの幕が下りる時」「深川澪通り燈ともし頃」「(株)貧困大国アメリカ」

2013-12-11 11:33:12 | 
「祈りの幕が下りる時」  東野圭吾  講談社  2013.9.13

 弓見た舞台を実現させた女性演出家。
 彼女を訪ねた幼馴染が、数日後、遺体となって発見された。

 加賀恭一郎の母が、家を出てからどんな生活を送って仙台でなくなったのか
 明らかにされる。

 関係なさそうな様々な伏線が、見事に絡み合っている。
 最後のシーンが、まさに幕が下りる感じ。


「深川澪通り燈ともし頃」  北原亞以子  講談社  1994・11・14

 木戸番小屋シリーズ、第2作。

 どうしようもない生活を送っていた政吉が煙草売りになり、
 狂歌を読むようになった。
 その狂歌が認められ・・・

 生活が派手になった政吉は、女房のおきくや本業をおざなりにする。
 そして、おきくは家を出る。

 おきくに去られた政吉は労咳の女郎に惹かれ、やがて狂歌師を辞めてまで身請けする。

 その裾継の女性が亡くなったところから、第二話が始まる。
 
 いつ訪ねてくるかわからない薬売りの男がいるお若。
 針仕事で身をたてているが、歳を重ねるにつれて心細さが募る。
 亭主もちたちは、自活しているお若がうらやましいと口では言うが。

  一人暮らしを選んだのは、結局、お若なのだ。独り者のふりをした綱七に、騙されたという
  言い訳はできる。妻子とは別れると言った綱七の嘘を、責めることもできる。
  が、独り者だという嘘も、妻子とは別れるという嘘も、信じてしまったのは自分なのである。
  一人前の女なら、たちのわるい男に騙されたと泣いたりはすまい。たとえ寝床を涙で
  濡らしても、人前では、色恋沙汰を教える寺子屋へ高い束脩をおわめたから、今度は
  教えてあげると、見栄を張るのではあるまいか。そして、多分、お捨も笑兵衛も、
  人に泣き顔を見せるのは野暮と、世を拗ねたい時にも見栄を張って、ころがるような
  笑い声を響かせていたにちがいない。


「(株)貧困大国アメリカ」  堤 未果  岩波新書  2013.6.17

 肌が粟立つほど、空恐ろしくなった。
 政治資金絡みで民主党も共和党も巨大企業に牛耳られている現実。
 その手は、世界中に及ぼうとしている。

 アメリカの国情について、普段は特別に考えることがない。
 「ルポ 貧困大国アメリカ」の前2作を読んだときも、これが実情かとゾッとしたものだが、
 またまた、激しい衝撃だ。

 「1%vs99%」の構図が世界に広がるなか、本家本元のアメリカでは驚愕の自体が進行中。
 それは人々の食、街、政治、司法、メディア、暮らしそのものを、じわじわと蝕んでゆく。
 あらゆるものが巨大企業にのまれ、株式会社化が加速する世界、
 果たして国民は主権を取り戻せるのか。
 日本の未来に通ずる。

 SNAPという、アメリカ政府が低所得層や高齢者、障害者や失業者に提供する食料支援プログラムがある。
 受給額は収入によって異なるが、ニューヨーク州では、単身者で月収1180ドル以下なら
 つき117ドル分。全米の平均四球月額は132ドル。あくまで食品のみが帰る。
 生鮮食品は高いので、最安値の食品、安くてすぐ満腹になるインスタント食品中心となると。
 その結果、貧困児童に肥満と糖尿病が増え、子どもの医療費が増えていると。

 栄養面での改善を図るため、ジュースやスナック菓子といった栄養価の低い食品を適用外にする
 法案が10州から提出されたが、一つとして成立しなかった。
 コカ・コーラやキャンディ協会、ウォルマートなど食品業界が反対圧力をかけてくるから。
 ワーキングプア人口の拡大で、黙っていても利用者がどんどん増えるSNAPは、食品業界のドル箱になっている。
 オバマ政権になり、不法移民もSNAPを受給できるようになった。
 移民にとっては有り難い措置だが、国民にとっては裏切り行為だろう。

 2011年12月、購入された品目の公開を義務付ける法案が提出されたが棚上げ状態。
 この法案の発議者の上院議員はアメリカ通商交渉委員長でもあるが、その彼は、
 自身が監督する立場にあるTPP交渉に関する情報へアクセスすることができないでいる。
 交渉内容はUSTR(アメリカ通商代表部)が仕切っており、600社の企業代表だけが、
 閲覧や終生を許可されているから。国民の代表である国会議員が交渉内容を自由に見ることも
 できず、それに関しUSTRと協議する場も与えられていない。

 勤勉で英語堪能、組合もなく福利厚生も要らず、労働条件には一切文句を言わず、最低賃金の
 10分の1ほどで雇用できる囚人労働者は、全米の企業からひっぱりだこの人材だ。
 2001年の同時多数テロ以降、国の最優先政策になった「治安と安全保障」のおかげで
 隔週の厳罰化が進み、囚人数は猛スピードで拡大している。

  ここで私見。
  囚人数が増えると、施設と管理する人件費が増大するはずだが、そのあたりは
  どうなっているのだろうか。

 遺伝子組み換え(GM)作物の比率が上昇しているという。
 現在米国内で作付けされているテンサイの95%、大豆の93%、トウモロコシの40%がGM作物。
 GMは新しい技術だから、長期にわたる環境や人体への影響を検証した実験結果が確立されてない。
 そのため、現在世界では35カ国がGM作物の輸入を規制または全面禁止措置中。

 学者や研究グループが危険性について発表するたびに、ことごとく激しい攻撃を受ける。
 警告を発した学者たちはみな同じように、社会的に葬られた、という。

 レーガン政権化の独占禁止法規制緩和がもたらした急速な垂直統合で、アメリカの農業・食の業界は
 大きく変わった。生産工程の異なる企業による提携・合併・買収などによって、競合者がいなくなり、
 市場が統合されていく。
 大手の食料品店が、地域の小売業者や、競争相手である大型ディスカウントショップなどを
 次々に買収、傘下に収め始めた。
 実際の目的は企業側の利益拡大だが、表向きのスローガン「全米の食卓に安くて新鮮な食べ物を!」
 という言葉には魅力がある。
 すさまじい勢いで行われた業界再編が2000年の収束したとき、ウォルマートが一人君臨していた。

 2013年3月28日モンサント法が、オバマの署名によって成立した。
 「遺伝子組み換え作物で消費者の健康や環境に被害が出ても、因果関係が証明されない限り、
  司法が種子の販売や植栽停止をさせることは不可とする」
 という条文があった。
 たちまち、抗議運動が展開され、抗議電話が殺到し、この条項の即時撤回を求める国民による
 25万人以上の署名があっが、オバマは撤回を拒否した。

 バイオテクノロジー企業が、ついにほしかったものを手に入れたのだ。
 驚いたことに、上下両院議員たちの多くが、予算案の中に遺伝子組み換えに関するこの条項が
 入っていたころすら知らなかったという。
 近年次々にスピード可決する法案がどれもそうであるように、包括予算割当法案も分量が多く、
 意図的に難解な法律用語で書かれていた。

  先日強行採決された秘密保護法を思い出す。審議する余裕を与えないで強引に進める手法。

 アメリカは先進国で唯一、遺伝子組み換え食品に表示義務がない。
 オバマは、2007年の選挙キャンペーン中に、「私が大統領になったら、すべてのGM食品に
 ラベル表示を義務付けます」と言ったそうだが、いまや歯牙にもかけてない。

 国民が中身を良く知らされず、何か危機を煽られているうちにいつの間にか猛スピードで
 法律が決められ、結局国民が被害を受けて、後になって政治家が釈明する。

  これもまさに、秘密保護法と同じだ。

 GM種子は「知的財産権」を有し、特許で保護される。
 例え、自然災害や紛争で荒れた土地を再度耕作しようというときに、はじめは無償で提供されようと、
 GM種子と農薬、新技術を一度でも使用した農民は、自動的に提供元大企業のテクノロジー同意書に
 署名させられる。その後は、毎年、使用量とライセンス料の請求が送られてくるしくみだ。
 イラン、台風被害のハイチなど・・・

 2012年3月に施工された米韓FTA(二国間自由貿易協定)で、アメリカ政府は継の項目を事前に
 韓国側にのませておいた。
 (1)アメリカで科学的安全性が認められたGM食品は無条件で受け入れる。
 (2)韓国の国民皆保険が適用されない株式会社経営の病院の参入を認める
 (3)アメリカ産牛肉の輸入条件を緩和する。
 安全審査のゆるさから、世界各国が規制をかけているアメリカ産牛肉の輸出障壁をはずすため、
 米韓FTAでは安全性に疑いを抱いた際は輸入国側に危険性の立証責任が課せられるようにした。

  韓国民は、こんな事実を知っているのだろうか。
  日本に向けても、こんな裏協議が行われているのではないだろうか。

 2012年10月、デトロイトのタイガース球場入り口で配られたチラシ
  「注意! デトロイトには自己責任でお入りください」
  ・デトロイトは全米一暴力的な町でる。
  ・デトロイトは全米一殺人件数の多い街です。
  ・デトロイト市警は人手不足です。
  ・人手不足のため12時間シフトで働かされ・・・警官は疲労困憊しています。
  ・デトロイト市警の賃金は全米最低ですが、市はさらに1割カットしようとしています。

 教育に市場原理を持ち込んだ〈落ちこぼれゼロ法〉では、生徒たちの点数が上がらなければ
 国からの予算が出ないだけでなく、その責任が学校側と教師たちにかかる。貧困家庭の生徒を
 多く抱えるデトロイトの公立学校では平均点が上がらず、教師たちが次々に解雇され、
 学校は廃校になった。公立校がつぶれると、すぐにチャータースクール(営利学校)が建てられる。
 銀行家や企業が経営するチャータースクールは、7年で元が取れることから、投資家にとって魅力的商品。
 ただしあくまでも教育ビジネスなので、高い授業料が払えるだけの経済力と一定以上の学力が
 要求されるため、教育難民となった子どもたちが路上にあふれ、失業した教師たちは州を出るか、
 食べていかれずにSUNPを申請することになった。
 教育の市場化は公教育を破綻して教育格差を作り出し、財政負担をさらに拡大させた。
 恩恵を受けたのは教育ビジネスで利益を得た投資家と大企業、それにSNAP拡大で売上げが伸びた
 大型スーパーとファーストフード・チェーン、SNAPカード手数料が入る大銀行だけ。

 民営化された夢の町がある。ジョージア州、サンディ・スプリング。
 自分たちの税金が、貧しい人たちの公共サービスに吸い取られることに納得しない住民は
 投票を行い、郡を離れ、自分たちだけの完全民間経営自治体を誕生させた。
 雇われ市長1人、議員7人、市職員7人、警察と消防以外のサービスはすべて民間に委託した。

  私が調べたところ、その後警察・消防職員を雇い、公務員が260人?らしい。
  世界各国から視察者が訪れているという。ネットで調べたら、賞賛する声が多かった。
  ちょっと検索しただけでは、設立前と後の、歳入歳出がわからない。
  住民が支払う税金はほぼ同額というが。

 平均年収1700万円という土地柄だから、できたことだが、低所得者はますます置き去りにされてしまう。

 もっともっと引用したいが、
 つまりは、政治そのものが、大企業の思惑で動くようになっているということ、
 しかも、こうした動きが国民の知らないところでスピードを上げていること。

 いつの間にか浸透している、国家破綻を回避するためには強制的な社会保障や公共サービス
 削減はやむをえないという論調は、日本にもある。
 「99%」の代表を政界に送る運動があるという。
 
 2013年2月28日、安倍晋三首相は所信表明演説で
 「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」と明言した。

 確かに経済政策は大事だが、99%を切り捨てるようななりふり構わないような
 そんな考えが根底にあると思う。

 著者が最後に言う。

 いったい本当に価値あるもの、守るべきものとは何だろう。国とは何か。「1%」に奪われようと
 している、主権、人権、自由、民主主義、三権分立、決して数字で図れない価値について。
 市場のなかで使い捨てにされる「モノ」ではなく、たった一人のかけがえのない個人として
 これらの原点を問われたとき、私たちは自らの意思で、どんな未来を描くのか。
 食、教育、医療、暮らし。この世に生まれ、働き、人とつながり、誰かを愛し、家族をいつくしみ、
 自然と強制し、文化や伝統、いのちに感謝し、次の世代にバトンを渡す。そんなごく当たり前の、
 人間らしい生き方をすると決めた「99%」の意思は、欲でつながる「1%」とゞように
 国境を越えてつながってゆく。
 意思を持つ「個のグローバリゼーション」は、私たちの主権を取り戻すための、強力な力になるだろう。

 と。
 
コメント
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