ま、いいか

日々の徒然を思いつくままに。

「笹の舟で海をわたる」「鳥海山の空の上から」

2015-03-31 20:17:36 | 
「笹の舟で海をわたる」 角田光代 毎日新聞社 2014.9.1

左織が風美子と会ったのは、22歳のときだった。朝鮮戦争による好景気で、町が活気づいていた。
給料日の帰りに寄ったデパートで、風美子から声をかけられたのだった。

疎開先で左織に優しくしてもらったと言われても、記憶は朧だ。
それでも、風美子に誘われるまま、付き合いを深めていく。

しかも風美子は、左織が結婚した温彦(ハルヒコ)の弟と結婚して、二人は義兄弟となる。
料理を生業としてマスコミにも登場する風美子。
左織の子供たちは、狭い観念に固まっている左織よりも、風美子になついてる。

疎開という辛い過去を葬っていた左織だが、少しずつ思い起こす。
そして、現在の自分の在り方や風美子について、思いを巡らす。

左織が60歳のとき、温彦が亡くなる。
平均寿命まであと二十年もあると言う風美子、
あと二十年しかなく、しかもできなくなることがどんどん増えていくと思う自分、
まさに正反対の時間感覚。

同じ場所で暮らそうという風美子の誘いを断ってシニアマンションに決めたころ、ようやく
左織は風美子を理解したように思う。

歌のうまい、いじめ尽くされた、薄汚れた顔のちいさな女の子が仕返ししたかったのは、
班長でもだれでもない、人生だ。自分の人生。
意思に反して知らない場所に連れていかれ、人を信じる気持ちも頼る気持ちも奪われて、
戻る場所も家族も奪われて、たったひとりで生きなければならなくなった女の子は、自分の人生に
 復讐すると決めたのだ。ほしいものを手に入れて、いらないものを切り捨てて、雑草でも毒でも食べて
 栄養にして、平然と奇跡を起こし続ける。思いどおりに、好きなように生きること、
それこそが、従うことしかできなかった、あのつらい日々への仕返しなのだ。


「鳥海山の空の上から」 三輪裕子 小峰書店 2014.11.23

少年少女が、ちょっとだけ家族から離れて成長する…
いつもの三輪さんのお話。
スッキリと読みやすい。

今度の舞台は鳥海山の麓、矢島町。
馴染みのある場所だ。
翔太が乗った寝台特急あけぼのは、昨年春に廃止になった。
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「春風ぞ吹く」「月のしずく」「久坂玄瑞の妻」

2015-03-30 20:48:32 | 
「春風ぞ吹く」 宇江佐真理 新潮社 2000.12.20

小譜請組、村椿五郎太は母と二人暮らし。
無役だから職禄がつかず、家禄のみで暮らさなければならないので生活は苦しい。
月に三、四回学問所に通う他は、乳きょうだい伝助の水茶屋で、代書屋の内職をしていた。

代書した手紙の中には不思議な内容もある。
ひょんなことから、幼馴染み・紀乃に手紙を届けることになり、
その後、二人の間は縮まるが、紀乃の父は無役の五郎太を鼻にもかけない。

御番入り(役職に就く)するには、学問を生かすしかない。
そのためには、大試業の試験を通り、その上で学問吟味を及第しなければならない。

度胸に欠ける五郎太に気合いを入れる師たちが、良い。
学問所の師のみならず、代書した手紙の縁で親しくなった天文方の二階堂、
名前だけは知っていた天才・大田直次郎(南畝=蜀山人)…

五郎太の人柄が、本当に素直で純朴。
そんな性格は、下手すると、もどかしかったり、まだるっこしかったりするが、
スーッと気持ちよく読めた。


「月のしずく」 浅田次郎 文藝春秋 1997.10.30

短編集。

斜に構えた生き方に、染み透ってくる純朴さ。
そんな人がいるはずがないと考えても、目の前にいることに気づいたときの安らぎ。

どの作品にも、ヒトへの信頼感、フンワリした優しさが感じられた。


「久坂玄瑞の妻」 田郷虎雄 KADOKAWA 2014.10.31

小説 吉田松陰の妹・文子

昭和18年5月に刊行された「久坂玄瑞の妻 涙袖帖」の復刊。

仮名遣い修正もあって、全体的に読みやすい。
「花燃ゆ」放映のおかげで復刊されたわけだが、
幻の名著に値するかは、ちょっと疑問(^^;

歴史上の人物は、捉えようによって、人物像が違ってくる。
なるほど、戦時中には
 皇国理念や儒学思想に忠実な考え方が受け入れられただろう。

大河ドラマほど生き生きした感じはないが、この本の文子も素直ないい子という感じ。

明治初期、生き証人は大勢いただろうから、松陰の家・杉家の様子や雰囲気は、
わりと正確に伝えられているのだろうな。
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「教団X」

2015-03-29 21:50:07 | 
「教団X」 中村文則 集英社 2014.12.20

新刊の棚にあったので、ナニゲに手にとった。
たまたま所蔵館限定だったから、そこにあっただけで、市全体では相当のリクエスト数だ。
というわけで、読んでみた(^^;

自分の元から去った女性は、公安から身を隠すカルト教団の中へ消えた。
絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、
 やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。

この教団と繋がりがありそうな、なさそうな集団リーダーの言葉が印象深い。

 軽薄な自己が、大義に飲み込まれることで、役割を与えられる。自身の不満の矛先を
 「敵」を与えられることでそちらに向けることができる。
人間は、自らの優位性を信じたくなる生物です。さらに人間は善悪を前提とする時、
もっとも狂暴になれる。善意・正義を隠れ蓑に、自らの狂暴性を解放するのです。

思想は時に、その個人の全存在を拘束してしまうことがある。そういう思想に芯から飲み込まれて
しまった人間は、感情で頭が硬化し、反対の思想をいくらぶつけられても、絶対に変わることがない。
彼らを理論で、理性的に変えることはほぼ不可能である。変わる場合があるとすれば、
それは別の感情によるものだ。強烈に感情が動く別の体験があって初めて、思想から解放される。

高度経済成長期には新興宗教が盛ん。新興宗教は現世御利益、つまり日常生活での幸福を求めるものが、
多いが、高度経済成長期なら、自然と人々の暮らしが楽になっていき、宗教のお陰と思わせ易いから。
慢性的な不景気の昨今は、金銭を多くもつ個人に近づくようになりました。

世界の成り立ちに、つまり原子にその可能性が満ちていたという証拠から、我々は物語を
発生させるために生きていると考えていい。神とは、恐らくこの世界、宇宙の仕組み全体のことです。
神に祈る。それはだから、全てに対して祈るということです。
物語を発生させるために我々は生きている。それは言い方を換えれば、他人の物語を消滅させる権利は、
誰にもないということです。神は人間を殺せとは言わない。それを言うのは神の名を語る詐欺師です。

今、日本の中に気持ちよくなろうとしている勢力があります。
 第二次大戦の時、日本は気持ちよさを求めた。個人より全体、国家を崇めよ。その熱狂の中に身を置く
 ことには快楽があった。人々は自分の卑小さを忘れることができ、大きな「大義」を得ることで、
自分の人生を自分で考えなければならない「自由」という「苦労」から解放された。
今日本の一部は、かの熱狂を再現しようとしている。
確かに気持ちがいいでしょう。日本人としての誇りを感じ、例えば何者かを命を懸けるほど崇め、
国旗に向かって敬礼する。気持ちがいいでしょう。ですが、その気持ちがいいという状態は、
 ほんの少しのきっかけで暴走を生む、人類にとって非常に危険な状態なのです。
人間が陥るあの状態を、もう繰り返してはならない。昔から現在に至るまで、世界のあちこちで
この気持ちよさは生まれています。我々がしなければならないのは、
 神の名を語り人間の殺害を要求する連中と、あの全体主義による気持ちがいいという状態を、
人類史から駆逐することです。

穏健な政治家たちも関東軍の暴走を止めることはできなかった。あの気持ちがいいという状態のまま、
平和国家としてのバランスを保つのは不可能です。今の政治家に、そんなバランスを保つ力量があると
お思いですか?また同じように暴走していくだけです。あの気持ちよさが復活すれば日本はまた
危険な状態になる。我々がしなければならないのは、あの戦死者たちを英雄としてではなく
犠牲者として心から追悼することです。その償いとして、我々は世界を平和にすると。
 彼らを英雄にすればまた英雄として死んでいく人間達が生まれる。兵士を英雄と言えば言うほど、
 我々は戦争に近づいてしまう。
スイスが永世中立国なら、日本は平和追求国家になるべきだ。大国の指導者達や一部の多国籍企業達は
眉をひそめるでしょうが、世界の民衆達もそれを望んでいるはず。

公安の一人が語った言葉も、さもありなん…

我々は格差を広げていくが、それが我々の政策であることにも彼らは目を向けないでいてくれる。
大企業のために、これから我々は賃金の安い移民達をもっと受け入れる。移民のために仕事につけない
国民が出てくる。そうしたら彼らに移民を憎ませればいい。国が右翼化し、武器産業なとが儲かる。
歴史的にあまりに典型的な、保守の国の作り方だよ。(我々に)何かの処分が下ったとしても、
役職は代わるだろうが給料も処遇も全て同じ。我々を否定する政治家が出現したらスキャンダルを
手に入れ失墜させていく。…そして我々は結果的に国に借金をさせ暴利を貪りこの国を少しずつ
滅ぼしていく。上手くいかなかったら我々は辞めればいいだけだから。政治家も金はあるから
いつでも辞めればいいだけだから。まだ働きたければ我々も政治家もどこかの企業に天下りすればいい。

さも、ありなん。
如何にも公安が考えていそうなことを、ズバッと書いてくれた。
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最高のプレゼント♪

2015-03-28 21:37:33 | 気持ち
できるだけ長く一緒に、

というわけで、朝から夕食までマッタリ、ベッタリ\(^-^)/

いつもなら、かなり眠っちゃう彼が、
この日は最後の方、ちょっと疲れて眠っただけ。

ひたすら戯れる…(*^^*)
たまにはいいよね♪

心身ともに満足、満足。
ありがとう♪

健康で生きている証だね。
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「冷蔵庫を抱きしめて」「ブラックオアホワイト」

2015-03-27 11:55:39 | 
「冷蔵庫を抱きしめて」 荻原浩 新潮社 2015.1.20

現代人のライトだけど軽くはない心の病気に、シニカルに真剣に迫る短編集。

あ、ダメ、ダメだってわかっているのに、どうして同じことを--

「ヒット・アンド・アウェイ」
DV男から、2歳の娘をどうやって守る?
シングルマザーはボクシングジムを見つけて飛び込んだ。
作者の発想にニンマリ♪

「冷蔵庫を抱きしめて」 相性ピッタリと結婚した夫と、食べ物の好みがまるで合わない!
苦悶する新妻に摂食障害の症状が…

「マスク」
マスクをつけないと人前に出られなくなってしまった男。
依存症がエスカレートして、やがて仕事も失うことに。

「カメレオンの地色」
ゴミを捨てられない汚部屋に、気になる彼が訪れることに。
タイムリミットまでに片付けられるか。

ゴミ袋の中身をいちいちチェックするバアサンのせいで、
  ゴミを捨てられなくなったというのが、むしろ恐ろしい!

「アナザーフェイス」
自分がもう一人いるらしい…
ドッペルゲンガー?
背筋が寒くなった。

「顔も見たくないのに」
あまりにいい加減でチャラくて別れた男が、何故か世間受けして、マスコミにしょっちゅう登場。
見たくもないのに、気になってしまう。
わかるなぁ。

「それは言わない約束でしょう」
生まれて初めての単身生活は気ままだが、何故か独り言が増えた彼は接客業。
自分では気づかないが、セールストークのときに、思った本音も口にしているらしい。
当然、苦情続きで上司の説教も。口は悪いが客に親身な父のやり方を思い出す。

「エンドロールは最後まで」
制服の面白さ。
白衣を身に付けて病院にいる彼を、医師だと思い込む。

全編、充実の読後感。


「ブラック オア ホワイト」 浅田次郎 新潮社 2015.2.20

いつものように図書館から借りた本だけど、まっさらな新しい本は、とりわけ嬉しい。

経済の最前線で夢現の境を見失ったエリート商社マンの告解…。

今のように携帯電話やインターネットがなかった時代の雰囲気が
 妙に懐かしいのは、浅田さんと近い世代だからだろう。

待ち時間に恋人が現れないとき、不安が募ったものだ。
まあ、これに関しては今も同じか(^^;
携帯があるだけに、ゆったり構えることができなくて、
 繋がらないと、不安がより大きくなる場合もある。

P90
漫画や少年雑誌からは、戦争が野放図に溢れ出ていた。公式の知識を持たぬまま、
僕らはまったく余所事のように、そうした情報を享受していた。
いったい何が不都合なのかというと、歴史として教えられていない知識は、
すこぶるエモーショナルなんだ。だから客観的な知識を持っている外国人に対して、
知らず知らず不用意な発言をしたり、笑えぬジョークを飛ばしたりする。

なるほど。

ロートルは老頭児。満州や河北の方言で、年寄りのこと。

P180
「たいがいになさい」
 いったい何を「たいがい」にするのか、子供自身に考えさせる。自省心を促す。
僕らの世代になると、子供に対してそんな上等な叱り方はできない。くどくどと要らぬ説明を
してしまうから、子供らはその件についての善悪や是非は理解しても、根本的な反省には至らない。
そうした教育の集積が、社会依存の土台となって、人間を幼児化させてしまったのだろう。

これは考えさせられた。教え諭すことと、自分で考えさせることの境目は難しい。
親切とお節介、自由と放任、世話と甘やかし…

小説の中に、作家個人の考えがどれだけ入っているのだろうか。
そんなこともチラッと考えた。
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