「笹の舟で海をわたる」 角田光代 毎日新聞社 2014.9.1
左織が風美子と会ったのは、22歳のときだった。朝鮮戦争による好景気で、町が活気づいていた。
給料日の帰りに寄ったデパートで、風美子から声をかけられたのだった。
疎開先で左織に優しくしてもらったと言われても、記憶は朧だ。
それでも、風美子に誘われるまま、付き合いを深めていく。
しかも風美子は、左織が結婚した温彦(ハルヒコ)の弟と結婚して、二人は義兄弟となる。
料理を生業としてマスコミにも登場する風美子。
左織の子供たちは、狭い観念に固まっている左織よりも、風美子になついてる。
疎開という辛い過去を葬っていた左織だが、少しずつ思い起こす。
そして、現在の自分の在り方や風美子について、思いを巡らす。
左織が60歳のとき、温彦が亡くなる。
平均寿命まであと二十年もあると言う風美子、
あと二十年しかなく、しかもできなくなることがどんどん増えていくと思う自分、
まさに正反対の時間感覚。
同じ場所で暮らそうという風美子の誘いを断ってシニアマンションに決めたころ、ようやく
左織は風美子を理解したように思う。
歌のうまい、いじめ尽くされた、薄汚れた顔のちいさな女の子が仕返ししたかったのは、
班長でもだれでもない、人生だ。自分の人生。
意思に反して知らない場所に連れていかれ、人を信じる気持ちも頼る気持ちも奪われて、
戻る場所も家族も奪われて、たったひとりで生きなければならなくなった女の子は、自分の人生に
復讐すると決めたのだ。ほしいものを手に入れて、いらないものを切り捨てて、雑草でも毒でも食べて
栄養にして、平然と奇跡を起こし続ける。思いどおりに、好きなように生きること、
それこそが、従うことしかできなかった、あのつらい日々への仕返しなのだ。
「鳥海山の空の上から」 三輪裕子 小峰書店 2014.11.23
少年少女が、ちょっとだけ家族から離れて成長する…
いつもの三輪さんのお話。
スッキリと読みやすい。
今度の舞台は鳥海山の麓、矢島町。
馴染みのある場所だ。
翔太が乗った寝台特急あけぼのは、昨年春に廃止になった。
左織が風美子と会ったのは、22歳のときだった。朝鮮戦争による好景気で、町が活気づいていた。
給料日の帰りに寄ったデパートで、風美子から声をかけられたのだった。
疎開先で左織に優しくしてもらったと言われても、記憶は朧だ。
それでも、風美子に誘われるまま、付き合いを深めていく。
しかも風美子は、左織が結婚した温彦(ハルヒコ)の弟と結婚して、二人は義兄弟となる。
料理を生業としてマスコミにも登場する風美子。
左織の子供たちは、狭い観念に固まっている左織よりも、風美子になついてる。
疎開という辛い過去を葬っていた左織だが、少しずつ思い起こす。
そして、現在の自分の在り方や風美子について、思いを巡らす。
左織が60歳のとき、温彦が亡くなる。
平均寿命まであと二十年もあると言う風美子、
あと二十年しかなく、しかもできなくなることがどんどん増えていくと思う自分、
まさに正反対の時間感覚。
同じ場所で暮らそうという風美子の誘いを断ってシニアマンションに決めたころ、ようやく
左織は風美子を理解したように思う。
歌のうまい、いじめ尽くされた、薄汚れた顔のちいさな女の子が仕返ししたかったのは、
班長でもだれでもない、人生だ。自分の人生。
意思に反して知らない場所に連れていかれ、人を信じる気持ちも頼る気持ちも奪われて、
戻る場所も家族も奪われて、たったひとりで生きなければならなくなった女の子は、自分の人生に
復讐すると決めたのだ。ほしいものを手に入れて、いらないものを切り捨てて、雑草でも毒でも食べて
栄養にして、平然と奇跡を起こし続ける。思いどおりに、好きなように生きること、
それこそが、従うことしかできなかった、あのつらい日々への仕返しなのだ。
「鳥海山の空の上から」 三輪裕子 小峰書店 2014.11.23
少年少女が、ちょっとだけ家族から離れて成長する…
いつもの三輪さんのお話。
スッキリと読みやすい。
今度の舞台は鳥海山の麓、矢島町。
馴染みのある場所だ。
翔太が乗った寝台特急あけぼのは、昨年春に廃止になった。