ま、いいか

日々の徒然を思いつくままに。

「鏡の花」「Sの継承」「月と太陽」

2013-12-03 14:15:45 | 
「鏡の花」  道尾秀介  集英社  2013.9.10

 6編の連作集。

 2作目を見て、アレッ~?
 一つ目の作品と登場人物はカブルのに、亡くなっていた人が生きていたり。。。

 読み進むうちに、そうか、「たら・れば」の世界かと。

 ほんの小さな行為で、世界は変わってしまう。
 あのとき、こうすれば、ああしておけば・・・
 人の死とか、大きな出来事があって悔いが残ると尚更いろいろ考えてしまう。

 六つの世界が呼応し合い、世界を紡いでいく。

 第5章「かそけき星の影」
 
  思えば母の声には昔から魔法のような力があった。(略) つらい思いをしたことを打ち明けたときは、
  「大変だったね」と言われた途端にほっとした。何気なく口にしてくれる過去形が、
  事実をいつも本当に過去へと押しやってくれたのだ。そして言葉の最後に母が添える、
  「ね」というやわらかな響きの一文字が、これまでも、これからも、自分の抱える重みを
  母が等分して抱えてくれるのだという確信をくれた。

 星空を好きな少年がいて、夏に見えるオリオンを見に行こうという話もあった。
 夜明け前、開けている東の空に見えるオリオン。
 見たいものだ。

  
「Sの継承」  堂場瞬一  中央公論新社 2013.8.25

 堂場さんの本は、あまり読まないのだが・・・たまには(^^;

 政府をはじめ、政治家全般に憤りを感じている人は多いと思う。
 ならば、現行の政治体制をどうすればいいのか・・・

 1963年、日本列島が翌年開催の東京オリンピック準備に沸く中、前橋市では
 人知れずクーデター計画が進行していた。
 
 財界の重鎮・国重が、強力な武器をバックに、政治家を降板させ、
 官僚主導で日本を立て直そうというものだ。

 国重が慎重に集めたメンバーは7人。
 その一人松島は毒ガスの開発に踏み出した。
 毒ガスが完成し、性急にことを運ぼうとする松島に危惧を抱いた国重は
 計画の中断を決定する。

 2013年、首相を人質に議員賞辞職を求め、国会議事堂前で毒ガスを盾に車に立てこもった青年。
 タイムリミットは12時間。
 捜査一課説く首班警部補・峰脇は、その正体をさぐる。。。

 犯人の青年の回想めいた考えに、今の時代を思った。

  今の日本では、学校の中に明確な階層がある。上位に来るのは、面白い奴、運動ができる奴。
  「勉強ができる」という要素は重視されない。そういう階層に斜めから切り込んでくるのが、
  人を苛めることに生きがいを見いだすタイプのクソ野郎どもだ。そいつらは、クラスの
  人気者には絶対に手を出さない。俺のように友だちが少ない奴、勉強だけしているような
  おとなしい奴をターゲットにする。
  子ども心に、そういう人間を「大勢順応派」と見なすのかもしれない。先生の言うことを聞いて
  真面目に勉強しているだけの人間は、クソつまらない奴、ということなのだろう。
  だがそいつらは、知らない。いつか自分たちも体制に組み込まれ、従順な奴隷になっていくしか
  ないことを。

  親は俺が恐喝されていた事実よりも、金を勝手に引き出したことを問題視した。

  自分を変えるのではなく、世の中を変えてしまえばいい。
  俺を本当に認めてくれたのは、松島が初めてかもしれない。

  そして俺にはネットがあった。
  ネットさえあれば、人を集めることは簡単なのだ。

 犯人は、すべてのデータをオンラインストレージに預けた。
 最後のアクセスから一定期間利用がないと、削除されることになっている。
 念のため、手作業で行うことになっていて普段は、ほとんど機械的に確認されるだけだが、
 そのデータが削除される日、たまたま担当者がファイルを見た。
 興味を持った彼は、自分のパソコンに落とし込んでから、永久保存を謳っている
 別のストレージサービスにアップロードした。
 また誰かの目に触れる・・・
 
 と、毒ガスの正体も計画も継承されるというラスト。


「月と太陽」 瀬名秀明   講談社  2013.10.28

 「パラサイト・イブ」は読んだが、そうかあれは1995年だったか。
 
 図書館分館の新刊コーナーにあった。
 帯に
 〈皆既日食とともに 世界を巡る、美しい双生児〉 と、あって、
 日食が描かれているならと、
 借りてみた(笑)

 新米飛行教官と一年ぶりに飛ぶ小説家…… 「ホリディズ」

  アメリカでは多くの乗用車が単身(ソロ)で運転されている。数え切れないほどの孤独が、
  互いの車間距離だけを気にしつつ、猛烈なスピードで、無限とも思えるほどの広大な土地を
  移動してゆく。 

 仙台の空を通過する制御不能になった衛星を捉えた大学院生の冬の日……
 「真夜中の通過(ミッドナイト・パス)」

  一秒間に雷が出るのは(全地球で)40回から100回。そして100回から1000回に一回の割合で
  スプラウトがでる。

 脳から脳へ言葉を送る〈フラッシュ〉が浸透した今、13年後の自分から届いたメッセージ……
 「未来からの声」

  脳から脳へと言葉をおくる極小のチップの〈フラッシュ〉は如何にも現実味がある。
  ドラえもんの翻訳こんにゃくがいらないな、なんてバカなことを考えたり(笑)

 ここまでは、すんなり面白いと思いながら読んだのだが。。。

 皆既日食の日に生まれた結合性双生児の物語 「絆」
  
  これが深かった。

  日食にはサロス番号というのがついているらしい。
  月と太陽がほぼ同じ位置に戻ってくる終期は決まっており、
  その18年10日8時間の周期はサロスと呼ばれる。
  8時間という半端な時間が含まれるため、次の日食帯は地球の自転が三分の一進んだ西へとずれる。
  十八年ごとに永遠に日食が繰り返されるわけではなく、やはり長い時間をかけて月と太陽と
  地球の位置は少しずつずれてゆく。そのため一つのサロス系列の寿命は数十回だ。

  2013年、ギニア湾に面するガボン・ロペス岬で、日食の日に結合双生児が生まれた。

  節目節目の日食の日の、世界が語られる。
 
  はじめから結合している彼らにとっては、それが自然な姿で
  むしろ、単体で存在している他の人間は危うく見える。
  
   「旅で出会った双子の人たちみんなに尋ねているの。双子の相手のことを思って疼くことはある?」
   「絆(ボンド)は感じるわ」

  単体であることが、むしろ、不安で不自然、
  絆を感じて、共感していないと不安な世界…

 そして「瞬きよりも速く」

  ついていくのが大変だった。

  恋人からの連絡が途絶えた。
  「敵」とは…
  
  微小な通信機器がそこいら中に存在する情報特区。
  以前、ナノテクノロジーのSFを読んだときと同じような恐怖がこみ上げてくる。

  この世界も、思考で会話できる世界。
  その上、位置情報などがすべて把握される。

  シンパシーを感じることがないサイコパスは
  冷静に見られる分、人の心の動きをとらえ、予測し、操ることさえできるかもしれない。

  今でさえ、情報が氾濫しすぎていると感じるが、
  この先、いったいどんな方向に進むのだろう。

  科学の発達は両刃の剣だ。
  コントロールできる技術で一歩ずつ進む慎重さが必要と思う。
  原発の再稼動なんて論外だ。

  しかも、内容が曖昧なままの秘密保護法なんて、とんでもない。
コメント
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