「星落ちて、なお」 澤田瞳子 文藝春秋 2021.5.15
直木賞受賞作。
河鍋とよの一代記。
この画家一家を知らなかった。
明治22年春、不世出の絵師、画鬼・河鍋暁斎(きょうさい)が死んだ。
残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。
暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。
兄が河鍋の家を継ぐ気がないのは明白であった。
弟の記六は根なし草のような生活にどっぷりつかって頼りなく、妹のきくは秒じゃで長くは生きられそうにない。
河鍋一門の行く末はとよの肩にかかっていたーー
日本画は、狩野派は古いのか…
絵師としての葛藤も続く。
P133
なにせ江戸の昔に比べると、明治の世ではとにかく男性が威張り散らし、女性は良妻賢母たれと求められている。そしてそんな世相を反映してか、近年、もてはやされる美人画はいずれもたおやかで、大きな目に色白の頬、夢見るが如き表情を捉えた作が多かった。
(略)どうも最近の美人画はそういった精神性を離れ、ただ女性の美しさや優しさを描くことに主眼が置かれているようだ。
P175
夫は優しい。さりながら(略)優しいとはそれだけとよをちゃんと見ていない事実の裏返しだ。