「スター」 朝井リョウ 朝日新聞出版 2020.10.30
初出は朝日新聞2019.4.5~2020.5.29
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原猶吾と大土井紘。
ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。
受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応ーー
作品の価値は何をもって測れるのか。
私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。
以下、抜粋
質がいいって、だれがどうやって決めているんだろう。
チャンネル登録者数が千人以上、過去十二か月間柄の再生時間が延べ四千時間いっぱいーーこの二つの上限を達成してやっと、動画に広告がつく。
YouTubeが数年前にこのガイドラインを発表した
今、消費者が対価として支払ってるのってたぶん、お金じゃなくて時間ですよ。
グダグダの生配信とか観てる方がラクなんですよねー
今はもう、クオリティの次代じゃない。
まず完全に、質より量。(略)いかに視聴者の毎日にあるスキマ時間に滑り込むか、
「なんか今って、あっちもこっちも色んな方向に目配りしてるみたいな話が多くない?」
「私たちっていっつも、自覚がないまま搦め取られてるんだよね、いろーんなことに」
「何かしら特別なことかできるわけじゃない人間が、日々の発信の積み重ねで知名度と影響力を得ていく。ある人にとっては無名の人間がある人にとっては唯一無二のスターになる。(略)能力を持つ者がスターとして君臨するだけじゃなく、持たざる者が持ちゆく過程を世に公開し支持を集めることができる。お金を生むこともできる。そんな時代になりました」
「この世の中の全部の現象の質とか価値って、わからないんじゃなくて、わからないようにできてるんじゃないかな。だって、そうじゃないと、本当は比べられないものを比べ始めちゃう」
誰もが発信者となった今、プロとアマチュアの境界線は消えたーー
のだろうか……