ま、いいか

日々の徒然を思いつくままに。

「スター」

2021-06-26 15:49:51 | 

 

「スター」 朝井リョウ 朝日新聞出版 2020.10.30

 

初出は朝日新聞2019.4.5~2020.5.29

 

新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原猶吾と大土井紘。

ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。

受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応ーー

作品の価値は何をもって測れるのか。

私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。

 

以下、抜粋

 

 質がいいって、だれがどうやって決めているんだろう。

 

 チャンネル登録者数が千人以上、過去十二か月間柄の再生時間が延べ四千時間いっぱいーーこの二つの上限を達成してやっと、動画に広告がつく。

 YouTubeが数年前にこのガイドラインを発表した

 

 今、消費者が対価として支払ってるのってたぶん、お金じゃなくて時間ですよ。

 グダグダの生配信とか観てる方がラクなんですよねー

 

 今はもう、クオリティの次代じゃない。

 まず完全に、質より量。(略)いかに視聴者の毎日にあるスキマ時間に滑り込むか、

 

「なんか今って、あっちもこっちも色んな方向に目配りしてるみたいな話が多くない?」

 

「私たちっていっつも、自覚がないまま搦め取られてるんだよね、いろーんなことに」

 

「何かしら特別なことかできるわけじゃない人間が、日々の発信の積み重ねで知名度と影響力を得ていく。ある人にとっては無名の人間がある人にとっては唯一無二のスターになる。(略)能力を持つ者がスターとして君臨するだけじゃなく、持たざる者が持ちゆく過程を世に公開し支持を集めることができる。お金を生むこともできる。そんな時代になりました」

 

「この世の中の全部の現象の質とか価値って、わからないんじゃなくて、わからないようにできてるんじゃないかな。だって、そうじゃないと、本当は比べられないものを比べ始めちゃう」

 

 

誰もが発信者となった今、プロとアマチュアの境界線は消えたーー

のだろうか……

 

 

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「代理母、はじめました」

2021-06-24 15:46:14 | 

 

「代理母、はじめました」 垣谷美雨 中央公論新社 2021.2.25

 

《独身のまま子供が欲しい》

《もう不妊地力をやめたい》

《五十を過ぎたら、家族は持てない?》

 

父の言い付けに従って代理母になったユキ。

出産のための入院中、社会について見聞きする。

そして、貧困と虐待から脱するため"代理母ビジネス"をはじめる。

医師の芽衣子やゲイのミチオとタッグを組み、

女たちの自由を求めて立ち上がる。

 

以下、抜粋。

P32

アメリカだけでなく、世界各国の都市が人種のサラダボウルと言われるようになりつつある。

それぞれの文化が融合する「坩堝」ではなく、いつまで経っても溶け合わず、異なる種類の具が混じるだけのサラダボウルだ。

 

P74

日本中見渡しても、どこの組織も上層部は男ばかりだ。つまり、意思決定の場に女がいない。

 

P160

「いったい法律って誰のためにあるんだろう」

「そりゃ、化石ジーサンたちのためにあるに決まってんだろ」

 

P225

(代理母たちを依頼人が見下しているときづいて)

代理母たちは、依頼主と対等な立場であることを疑いもしなかった。(略)

金持ちと貧乏人の関係だけでなく、白人と有色人種、男と女にも当てはまるのではないか。

下位に属するものだけが、虚しくも人間性みな平等だと信じている。

 

P293

ーー戸籍制度がなかった時代を考えてみなさいよ。育てる余裕がある人が育てればいいのよ。

 

 

 

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「滅びの前のシャングリラ」「しのぶ恋」

2021-06-17 00:12:01 | 

 

「滅びの前のシャングリラ」 凪良ゆう 中央公論新社 20.10.10

 

「一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」

 

学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、

かつて恋人から逃げ出した静香、養女であることに悩み迷う雪絵ーー

滅亡を前にした世界で「人生をうまく生きられなかった」四人は

生きる意味を、いまわのきわまでに見つけられるのか。

 

明日死ねたら楽なのにと夢みてた。

なのに最期の最期になって、もう少し生きてみてもよかったと思ってる……

 

P180

愛情はそんなものとは無関係に生まれることを信士はわかっていたに。幼いころに親から愛情を与えてもらえなかったからだ。人は食べたことがないものの味を知ることはできない。

 

 

一気に読んだ

 

 

「しのぶ恋」 諸田玲子 文藝春秋 2020.12.10

 

歌麿「深く忍ぶ恋」、北斎「百物語 さらやしき」、広重「目黒太鼓橋夕日の岡」、鈴木春信「縁先物語」など、浮世絵の名作に材をとった短編7本。

 

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「風を結う」

2021-06-03 23:51:25 | 

 

「風を結う 針と剣 縫箔屋事件帖」 あさのあつこ 実業之日本社 2020.7.20

 

武士の身分を捨て、深川の縫箔屋・丸仙に弟子入りした一居。

不審死した町医者の宗徳は、一居の過去を知っていたのかーー

剣術を愛する丸仙の娘・おちえと一居、ふたりの葛藤と成長を描く。

 

《針と剣》シリーズ。

前作を読んだ気がするが、記憶の彼方だ。

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「天を測る」

2021-06-01 08:58:09 | 

 

「天を測る」 今野 敏 講談社 2020.12.21

 

小野友五郎という人を知った。

幕末、渡米した咸臨丸で航海長だった人だ。

 

安政7(1860)年、咸臨丸が浦賀港からサンフランシスコを目指して出航した。

太平洋の長い航海では船室から一向に出てこようとしない艦長・勝海舟を尻目に、アメリカ人相手に互角の算術・測量術を披露。

さらに、着港後、逗留中のアメリカでは、放埒な福沢諭吉を窘めながら、日本の行く末を静かに見据える男ーー小野友五郎。

彼は帰国後の動乱の中で公儀、そして日本の取るべき正しい針路を計り、奔走することになる。

 

「世の理は、全て単純な数式で表せるのです」

 

「理屈どおりにならないものなどあらりません。もし、うまくいかないことがあったら、どこかで理屈が間違っているのです」

 

「本当に大切なことは、そんなには多くはないということだと思います」

 

複雑に思える仕事でも、目の前の小さなことは単純なのだ。それを一つ一つ片付けていくだけだ。

 

「己にないものを自覚し、他者のよさを認めて足し算をしていく。品格というのは、そうして育っていくものでしょう。引き算ばかり考えている連中には、品格が備わることはありません」

 

水平線と星がある限り、私が迷うことはない。

 

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