「花散る里の病棟」 帚木蓬生 新潮社 2022.4.25
九州で四代百年続く「医者の家」を描く。
大正の寄生虫、昭和の戦場、平成の高齢化、令和のコロナ禍……
2015年、二年間アメリカに留学中、デイブが言った。
「隣の国のキューバは貧乏だとみんな軽蔑しているけど、医療費は全国民が無料だよ。そしてあの国の最大の輸出産業は医療だ。(略)国民はひとり残らず、医療の恩恵を受けられる。貧乏だけどそんな国と、この国を比べて、どちらが本来の国だと思う?」
「(この国では)金持ちの患者しか、手術は受けられない」
ーー医療を諦めた夫妻を見ながらーー
「歩く死者(デッド・マン・ウォーキング)と、その妻だ」
太平洋戦争のルソン島でーー
歩行困難な患者は、適当に処置せよという命令が下った。
適当な処置とは、いわば安楽死である。
2020年、大阪府知事が大阪万博でカジノを誘致しようとした。
その二年ほど前の、ある精神科医の推測によると、首相がカジノ解禁を思いついたのは、トランプ大統領の要求に応じたから。
大統領の財政的な後ろ楯は、かつて米国東海岸で同様にカジノホテルを経営していた盟友のシェルドン・アデルソン氏であり、いまやラスベガスやマカオ、シンガポールでカジノを経営するカジノ王。この盟友が熱望していたのが、日本への進出で、特に大阪を狙っていた。
アデルソン氏が東海岸でのカジノホテルが不人気になり、破産寸前だったとき、資金提供をしたのがソフトバンクの孫会長だという。
1990年までは、日本はワクチン先進国で、水痘や日本脳炎、百日咳などの予防ワクチンを米国や中国に技術供与していた。しかしその後、ワクチンの副反応を巡って各地で集団訴訟が起きる。1992年、東京高裁が、予防接種による事故の発生を予防しなかったとして、国と厚生省の過失責任を認める。これによって、国も企業も、ワクチン開発には消極的になった。ワクチン製造には、基礎研究から臨床試験まで数年、長ければ十年かかる。日本は完全にワクチン後進国になりさがっていた。