「大きな鳥にさらわれないように」 川上弘美
講談社 2016.4.22
ファンタジイだけど、
シリアスで、妙にフワッと懐かしいような……
人類が滅び行く世界ーー
発達に不可欠な人工知能、そしてクローンなど
数千年後か、数万年後か……
それぞれの集落を見守る母たち。
ときに出現する、大きな母の存在。
生殖能力が衰えるなか、
生まれてくるのは圧倒的に女性が多い。
これも自然の摂理。
人類も種のひとつに過ぎない。
生態系の頂点にいられるのは、
地球にとって、刹那とも言える時間帯かも。
以下、引用。
人類とか世界とかは、つまり、おれたちの集まりなんだろう。おれと、おれと、おれと、あんたと、あんたと、あんたの。人類のことを心配するんだとしたら、その中の自分のことだけ、心配してりゃ、いいじゃない。それだけじゃ足りないっていうんなら、そうだなぁ、あとは自分が直接知ってるのは、まあいいよね。
で、自分と、自分のよく知ってる奴らが楽しくやってたら、それでじゅうぶんじゃない。それ以上のことになんて、手がまわらないし、手がまわると思ってるとしたら、そりゃちっとばかり、えらそうなんじゃない?
あんたの言ってることも、少しはわかる。もっと全体のことを考えなきゃ、ってね。
それは、頭でわかるってことだけどね。おれは、おれの体がわかったことしか、信じないよ。(略)あんたの言ってることは、なんかこう、ふわふわそのへんに浮いている、きれいな虫みたいに感じられる。
誰もが、他人に自分のことを理解してもらいたがっていた。でも、あたしがかれらのことを真に理解した時には、かれらの全員が、理解したあたしを憎みはじめた。知られる、ということは、支配される、ということと同じなのだと、かれらは感じるのだった。
ここには、何でもあるけど、何もないよ。
あなたたち、いつかこの世界にいたあなたたち人間よ。どうかあなたたちが、みずからを救うことができますように。