64年の東京オリンピック以前の東京が私にとっての東京だ、というのは何度か書いているが、特に低い地域だったので、台風の冠水は風物詩といって良く、今思うと水を蹴立ててはしゃぐには不衛生極まりなかった訳だが、被害に遭われた方々には申し訳ないが、あのどこまでも町が水で平らかになってしまった光景を再び目にしたいというのが抑え難くある。 また、引っ越し先の窓の外には電線が目の前に張られている。普通は邪魔臭く思うのが当たり前であろう。窓の外に広がるのが素晴らしい景色ならまだしも、単に向かいの住居であるなら、私は気にならない。昔は都電やトロリーバスなどの電線が空を埋めていたし、育ったのが50メートル先に、鉄道が、それどころか機関車倉庫や機関車の向きを変えるターンテーブルがあり、十車線以上線路が敷かれていたのではないか、おかげで電線だらけ、さらに近くで高圧線の鉄塔が、雨の日はジジジジいってる始末であったので、電線が一向に気にならないのである。よって、電線に、いつか雀が留まるのを待ちたいような気がしている。
タウン誌深川】〝明日出来ること今日はせず〟連載第16回『トラウマ』