昨年出版した泉鏡花作『貝の穴に河童の居る事』は、煮込みのK本の常連に出演いただいた。なのでいつか鏡花が訪れモデルとした勝浦の遠見岬神社にお連れし、お礼参り?を果たしたかった。ようやく笛吹きの芸人役のMさんの車で、旅館の番頭役の“注ぎ殺し”ことTさんと、親戚の別荘のある和田浦に向かった。 鏡花は関東大震災の後、壊滅状態の東京から各地を旅し、作品を書いた。中でも房総を題材にした作品は房総物、と呼ばれる。本作は、河童が現れ、人間と接触する海岸。異界の者たちの住む神社。その中間に、人間達が逗留する旅館。この3点さえ用意すればビジュアル化可能だと考えた。この辺りは海からすぐの低地に山深い景色が迫っているので、趣のある旅館さえどこかで撮影すれば、狭い範囲でロケが可能だと考えた。旅館として選んだのは『江戸東京たてもの園』に移築された、高橋是清が226事件で惨殺された是清邸である。モデルとなった遠見岬神社は、季節になると石段に雛人形を並べることで知られている。もちろん現在は様子は一変しているが、骨格は鏡花が描いたそのままである。 一日目は江見のカネシチ水産で早めの食事を済ませ、漁港近くの魚惣の、絶品のウルメイワシとアジの刺身で房総の酒『寿萬亀』を二升に持参した泡盛半分ほどを始末し、明日に備えた。
※世田谷文学館にて展示中。
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