明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



完全に狂ってしまったニジンスキーを、いくらかでも記憶を取り戻さないかと旧知の仲間たちが集まり、ニジンスキーにバレエの舞台を見せたという、ある日の記念写真がある。ディアギレフがニジンスキーの肩に親しげに手をのせ、破顔一笑。周りにはカルサヴィナ始め、かつての仲間たちという、関連書籍によく転載される有名な写真である。ディアギレフはかつてニジンスキーの才能を見出し、愛人にし、自身が率いるロシアバレエ団の花形ダンサーに育てたわけだが、ニジンスキーはいつしか関係に嫌気がさし、ディアギレフの知らない間に結婚してしまう。怒ったディアギレフはニジンスキーをバレエ団から即座にクビにする。そこまでされるとは思っていなかったニジンスキーは、あわてただろうが後の祭り。ディアギレフという優秀なプロデューサーから見捨てられ、踊る機会も次第に少なくなり、ついに精神に変調をきたし、喋ることすらなくなっていく。それから何年も経ったある日の写真である。ディアギレフは相変わらずダンサーを愛人にしスターにするということを繰り返していたのだが、とはいえ、昔のことはとっくに水に流した、といわんばかりのディアギレフの笑顔は嘘くさいと思っていたのだが、入手したロシアバレエの写真集『MEMENTO ALBUM』のなかに、興味深いカットがあった。連続して撮られた別カットである。それを見ると、お前が狂おうが時間がたとうが許すことはない、という顔に私には見えるのである。


01/07~06/10の雑記
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