
全身性エリテマトーデス(SLE)にてずっと通院中の方でこのところ断続的に嘔吐下痢腹痛を起こすようになり検査中です。それぞれ数日くらいで自然軽快し冬場でもありウイルス感染なども考えていたのですが、3エピソード目となりループス腸炎も考え、腹部CT検査を行いました。SLEにおける急性腹症はまず鑑別が必要で、急性胃腸炎、消化性潰瘍、急性膵炎、腹膜炎など他の原因は除外されるべきです。また免疫抑制療法の強化はサイトメガロウイルス(CMV)大腸炎や他の感染症と関連し得るためこれらも念頭におく。なかなかループス腸炎に関してまとまった文献はなく、症例報告が多いのですが、文献をまとめてみました。興味深かったのは、病理学的観点から病名は、ループス腸間膜血管炎(LMV)としている文献が多いこと、最も一般的に使用されるSLE疾患活動性指数のSLEDAIが急性腹痛を有する患者において基礎となるLMVの予測因子としての有用かどうか不明とのあたりでした。
まとめ
・腹痛は、全身性エリテマトーデスと診断された患者において頻繁な症状
・胃腸症状は、SLE患者において一般的であり、それらの半数以上は、薬物およびウイルスまたは細菌感染に対する副作用によって引き起こされる。
・膵炎、腸偽閉塞とループス腸間膜血管炎(LMV)などのより疾患特異的な病態だけでなく、免疫抑制治療に関連した感染性合併症にも注意する必要がある
・胃腸管におけるLMVの正確な発生率は不明である。SLE患者におけるLMVの有病率は0.2から53%の範囲であると報告されている。
・SLE関連の胃腸病変ではLMVが最も一般的な原因で、 蛋白漏出性腸症、腸偽閉塞、急性膵炎などセリアック病、炎症性腸疾患のような他の稀な合併症が続く。
・SLEにおける腸管血管炎は、食道から直腸までGIの任意の部分を含むことができるがしかし血管炎は上腸間膜動脈分布に影響を与える傾向がある。[Am J Gastroenterol. 1981 Nov;76(5):460-3.]
・命名法は、ループス腸炎、腸間膜動脈炎、腸血管炎、腸内血管炎、腸間膜血管炎、 ループス腹膜炎と腹部漿膜炎と、混乱している
・組織学的に、小型の血管の動脈炎と静脈炎の両方が記載されている。 [Rheumatology (Oxford). 1999 Oct;38(10):917-32.]
・血管外膜と中膜の免疫組織化学所見は 免疫複合体、C3補体およびフィブリノーゲンの沈着を示し、びまん同心円状線維症につながる。影響を受けた血管の血栓症およびその後のフィブリノイド壊死を起こす。
・BILAG2004年には、LMVは、病気の広いスペクトルを強調し支持する画像および/または生検の所見で、血管炎または小腸の炎症のいずれかとして定義
・病理は、免疫複合体の沈着、かつ補体活性化、そして粘膜下浮腫、および白血球破砕性血管炎、血栓形成を伴う。これらの変化のほとんどは小さな腸間膜血管に限定される。
・胃腸の血管炎の中で最も代表的な病理学的変化は、 中型腸間膜動脈よりむしろ、腸壁の小血管で起こる。
・様々な異なる要因で急性腹症を来しうるのでSLEにおける腹痛の鑑別診断は課題となっている。またコステロイド療法の存在下ではLMVの徴候は明白でないかもしれない。
・鑑別診断には、腸穿孔、細菌性腹膜炎(免疫抑制療法下の可能性が高い)、胃腸虚血が含まれている。さらに、クローン病、潰瘍性大腸炎、結核性大腸炎、蛋白漏出性腸および胃腸管のサイトメガロウイルス感染は急性腹症、潰瘍および大量出血につながる可能性がある。
診断
・残念ながら、リウマチ学、放射線医学や消化器学のいずれかの国際社会に受け入れられるループス腸炎の診断基準は、正式に確立されていない。
・リン脂質および内皮細胞に対する自己抗体の存在がループス腸炎の再発の可能性に関する情報を提供するかもしれない。
・炎症性腸疾患のSLEとの関連は珍しい。
・LMVで頻繁に遭遇する低補体血はこの疾患の発生における免疫複合体媒介性血管炎の結果であるかもしれない。
・SLE関連胃腸病に関連するものとして識別されている具体的な自己抗体はない。
・臨床症状や検査値で固有なものはなく、腸標本が常に利用可能ではないため、LMVの診断は腹部コンピュータ断層撮影(CT)スキャンに依存している。
・CTスキャンは、ループス腸炎の診断のためのゴールドスタンダードとなっている
・LMVの典型的な特徴は、焦点またはびまん性腸壁の肥厚、腸拡張、異常な腸壁の増強(target sign)、拡大して目視できる腸間膜血管数の増加(comb’s sign)と腸間膜血管の充血、腸間膜脂肪と腹水の増加減衰、と腹水を含む。
・腸壁病変はほとんどmultisegmentalで空腸と回腸は最も一般的な病変部位である、そして単一の血管領域に限定されない。
・腹部超音波検査では小腸壁の浮腫・肥厚や腹水を確認するためのエレガントなツールである。臨床診断と臨床的回復を肯定するためにフォローアップで確認するのに有用である可能性がある。
・典型的な病理学的変化は小血管で起こるので、ルーチンに実行した場合の腸間膜血管造影はあまり有用ではない
・Kimらの研究では、腸管壁の厚みが9mmよりより大きい場合は通常、再発性LMVの存在を示唆し、 および再発のための高リスク要因と考慮すべきことが分かった。彼らは再発のリスクが高い患者には、免疫抑制剤は可能な限り早期に開始すべきであることを示唆した。[Ann Rheum Dis. 2006 Nov;65(11):1537-8.]
・Buckらは高い活動性疾患(SLEDAIスコア>8)と急性腹痛患者のみがLMVと診断されたことを発見したがしかし、Leeらは175名のループス患者において、LMVと他の腹痛の原因の間にSLEDAIスコアの差がなかったことを見つけた、これからはSLEDAIスコアは活動性ループスで腹痛の原因の鑑別には適していないことを示唆している。[ Ann Rheum Dis. 2002 Jun;61(6):547-50.]
・Kwokらは臨床研究期間においてSLE患者のうち、87名が急性腹痛のため入院し、うち41名でLMVが同定された、その臨床的特徴を分析した。血清抗内皮細胞抗体anti-endothelial cell antibody(AECA-IgG)の力価は、他の症状または健康なコントロールと比べてLMV患者で有意に高かった(P =0.040、P <0.001) また 13名の再発患者のうち4名は既存の抗リン脂質症候群(APS)を有していた一方で、 28名の非再発患者のうちのわずか1名が既存のAPSを有していた (p=0.028) [Lupus. 2007;16(10):803-9.]
治療
・この疾患に関する文献は完全に症例報告やケースシリーズから構成されており、治療にてはRCTなど臨床研究がまだ利用できない。
・コルチコステロイドは、ループス腸炎の第一選択治療であるように思われる。
・治療は、高用量ステロイドの静脈内注入と完全な腸管安静
・ステロイドへの適切な応答を持っていないおよび再発性LMVの患者では、静脈内シクロホスファミドが開始されるべき
・胃腸の血管炎および血栓症は生命を脅かす虚血、穿孔および梗塞につながる可能性があることには注目すべき
Janssensらの臨床的特徴の分析
・Janssensらは、以前に発表された143を含めた150症例の特徴を分析している。[Orphanet J Rare Dis. 2013 May 3;8:67.]
・組織学的に血管炎が確認されていたのは9例(6%)のみ。
すべての患者はファーストライン治療としてコルチコステロイドを受け、免疫抑制剤の追加投与は、最初のエピソードからまたは再発の場合のみ(再発率:25%)にてのいずれかで受けた。
・SLEの診断および腸の最初のエピソードが同時だったのは146の患者のうち19名(13%)。
・腸炎発症時すでにSLEと診断されていた患者(N=126)で、SLE診断から腸炎の最初のエピソードまでの期間の中央値は60ヶ月であった (範囲:5か月~20年)
・最も頻度の高い症状は焦点性またはびまん性腹痛(146/150; 97%)、腹水(71/91: 78%, clinical or radiological), 悪心(36/74; 49%),嘔吐(31/74; 42%),下痢(24/74; 32%) 、発熱(15/74; 20%)、であった。(表2)
・腸炎が報告されたときすでにSLEの長期治療中(89症例)患者は、低用量コルチコステロイド(median dose of equivalent prednisone: 10 mg per day, range 5–15 mg)投与量であった。
・貧血(52%)(3正クームス試験を持っていた)、白血球減少および/またはリンパ球減少症(40%)および血小板減少(21%)を含む血液学的な異常を示した。
・低補体血症が30〜34の症例(88%)に報告された。
・最も頻度の高い画像異常は、腸壁浮腫(161/176, 91% of all episodes; 151/159, 95% of CT images)、 異常な腸管壁の造影強化(double halo or target sign)(68/96,71%)、腸管腔の拡張(43/176,24%) であった。
・腸間膜血管の充血、目視できる血管数の増加(combサイン)、および腸間膜脂肪の増加などの腸間膜異常は68/96(71%)に存在した。
・腸の病変の分布は、記録されている上では、 空腸および回腸(83および84%、それぞれ)が最も頻繁に関与し、続いて 結腸(19%)、十二指腸(17%)および直腸(4%)であった。
・全ての患者は、初期治療として静脈内(IV)または経口(PO)のいずれかのコルチコステロイドを受けた。
・初期治療として選択されたとき、プレドニゾロンは20mg/日から2 mg/kg/日の範囲の用量で使用された 、そして数ヶ月に数週間かけて 5mg/日の中央値の維持量に漸減(範囲は5〜20mg)。
・患者の6%は付随する重度の臓器病変(中枢神経系病変、ループス腎炎)により初期治療に免疫抑制が追加されCYCが 500 mg/m2から 750mg/m2使用された。
・プレドニゾロン後の長期維持療法はHCQ(n =7)、MMF(n =3)、アザチオプリン(AZA)(n = 2)、経口chlorambucil(n =1)からなっていた。
参考文献
Orphanet J Rare Dis. 2013 May 3;8:67.
World J Gastroenterol. 2010 Jun 28;16(24):2971-7.
Lupus. 2007;16(10):803-9.
Nat Rev Rheumatol. 2009 May;5(5):273-81.