感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

自己免疫疾患関連血球貪食症候群

2016-10-13 | 免疫

久々にブログの更新です。その間もいろいろ臨床的な疑問と興味深い知見はあったのですが、なかなかブログ記事が書けませんでした。家族に重大な病気が見つかり時間的にも心身的にも大変でした。また久しぶりの学会発表もあり準備にも追われました。

今回は自己免疫疾患関連血球貪食症候群についてまとめました。不明熱例の一部に血球減少や血清フェリチン値上昇などから血球貪食症候群を疑い骨髄穿刺検査をすることがあります。真っ先にEBVなどのウイルス感染を疑うと思いますが、この症候群発症をきっかけにSLEと診断したケースがありました。文献からは特徴はどうでしょうか。

 

 

まとめ

 

血球貪食症候群(HPS)、または血球貪食リンパ組織球症(HLH)は、細網内皮系において顕著な血球貪食と組織球の活性化を特徴とする重症で生命を脅かす疾患。

・1979年にRisdallらが最初に 組織球増殖症、血球貪食症および血球数低下を伴う明確な臨床的症候群を記載し、その後それはHPSとして認識された。

・血球貪食症候群は、原発性(遺伝性)または二次性(獲得性)のどちらかの根本的原因に応じて分類することができる。二次性HPSは、感染性、悪性疾患、自己免疫疾患、特定の薬物投与に関連して発生する。

・家族性HLHの診断はHLHの家族歴や、perforin遺伝子の突然変異などの遺伝的変異の存在のいずれかが必要

・HPS発生に関連する感染症は、ウイルス(特にEBVおよびCMV)、細菌、寄生虫(リーシュマニア症)、真菌。 関連する薬物療法は、メトトレキサート、スルファサラジン、および抗TNF-α製剤(エタネルセプト、インフリキシマブ)など

・自己免疫疾患の設定においては、反応性HPSは、疾患自体により誘発された免疫調節不全、または 活動性感染(これは多くの場合、免疫抑制治療の合併症で)、のいずれかに関連付けることができる。

・30年前、Hadchouelらは二次性のマクロファージ活性化によって誘導された若年性特発性関節炎の重篤な合併症を報告。さらにWongらは活動性全身性エリテマトーデス(SLE)患者での骨髄中の反応性血球貪食を報告した。彼らは新規にこの病態を提案し急性ループス血球貪食症候群としても知られている。それ以来、種々の自己免疫疾患は反応性血球貪食症候群のベースにあることが報告された。

・マクロファージ活性化症候群(MAS)と呼ばれる二次性HLHは、リウマチ性疾患の中では全身型若年性特発性関節炎(sJIA)で最も頻繁に発生する

 

 

疫学

・日本の最近の研究では自己免疫関連血球貪食症候群(AAHS)の発生率は、血球貪食症候群の全症例のうち、約10%であることが示唆された。[Int J Hematol. 2007 Jul;86(1):58-65.]

・Kumakuraらは自己免疫関連血球貪食症候群(AAHS)を有する成人の、文献のレビューを通じて同定し、その116人の患者のうち基礎疾患は52.3%で全身性エリテマトーデス(SLE)、26.7%にて成人発症スティル病(AOSD)、6.9%にて皮膚筋炎だった。その他は、関節リウマチ(4.3%)、Evans'症候群(3.4%)、サルコイドーシス(1.7%)、全身性硬化症(0.9%)、混合性結合組織病(0.9%)、血管炎症候群(0.9%)、シェーグレン症候群(0.9%)、および強直性脊椎炎(0.9%)。

・Atteritano らのリウマチ患者における血球貪食症候群の系統的レビューでは、SLE、JIA、成人スティル病例が多かったが、RA、DM、川崎病、SCC、ベーチェット病、PN、SpA、MCTD、サルコイドーシス、SjS、GPAなどでの報告例もあった。

・別の研究では、全身性自己免疫疾患に関連したHPSの30例をレビューし、SLEは最も頻繁にHPSの基礎疾患として記載されている。[Rheumatology (Oxford). 2008 Nov;47(11):1686-91. ]

・いくつかの研究は、感染症またはSLEフレアなどの他の要因に関連したHPSを含め、SLEにおいてのHPSの有病率が0.9〜2.4%であることを報告している。[Medicine (Baltimore). 2006 May;85(3):169-82.][ J Rheumatol. 2012 Jan;39(1):86-93.]

・QianらはHPSとSLEの共存を報告した英語文献の38例を検討し、60.5%はSLE増悪時のHPS発症、21.1%は感染症に関連して、13.2%はSLE増悪と感染症の両方に関連していた。8例が死亡し全体的な死亡率は21.1%。[Clin Rheumatol. 2007 May;26(5):807-10.]

・Kumakuraらは自己免疫関連血球貪食症候群(AAHS)と呼ばれる疾患実体を提案した。[Mod Rheumatol. 2004;14(3):205-15.]

 病原性の提案されたメカニズムは、

1)造血細胞の自己抗体媒介性貪食作用、

2)骨髄造血細胞への免疫複合体の堆積、および

3)サイトカインの過剰分泌(すなわち、IL-1、IL-6、IFN-γ、およびTNF)による一次性の非制御T細胞の活性化

 

臨床的特徴

・HPSの一般的な臨床的特徴は、発熱、血球減少症、肝脾腫、肝機能検査異常、凝固・線溶系応答亢進、高フェリチン血症、および高トリグリセリド値

・症状は、発熱86.8%、リンパ節腫脹41.0%、肝腫大41.8、脾腫45.5%

・KumakuraらのAAHSの文献レビューでは、CRP値は平均7.7 mg/dl、フェリチン値は平均15,334.1μg/l、中央値2,949 μg/l、しかし

・Uedaらの急性ループス血球貪食症候群(ALHS)の54例分析では、44.2%はSLE診断と同時にHPSを発症、2例のみはALHSで死亡、3例のみがALHS発症時に無熱、96%が汎血球または2系統の血球減少を示した、92%で高フェリチン血症を示した、CRPはほとんど上昇し29%は正常範囲内、低補体価もよくみられたが24%は正常または高レベル

・TsujiらはSLE患者における肝障害を検討した。肝機能検査(LFT)上昇への可能な病因としては、薬剤性、感染症、HPS、脂肪肝、筋炎、溶血性貧血などが検討されたが、HPS例では平均ASTレベルは他の原因群と比較して高かった(494.4 U / ml) [J Rheumatol. 2002 Jul;29(7):1576-7.]

 

診断

・HPSは組織球学会研究会が開発した臨床基準を用いて診断する必要がある :HLH2004診断基準

以下の1、 2のいずれか一方が満たされた場合HLHの診断を確立できる

 1。HLHと一致する分子診断

 2。HLHの診断基準(下記8項目のうち5項目を満たす):

•発熱

•脾腫

•血球減少症(末梢血中≥2系統以上に影響):

•ヘモグロビン値< 90 g/l   (in infants < 4 weeks: hemoglobin < 100 g/l

•血小板数 

•好中球数 

•高トリグリセリド血症 および/または 低フィブリノゲン血症:

•空腹時トリグリセリド値 ≥265 mg/dl

•フィブリノーゲン ≤1.5 g/ L

•骨髄または脾臓またはリンパ節における血球貪食症

•低または無NK細胞活性

•フェリチン値 ≥ 500 μg/L

•可溶性CD25 ≥ 2400 U /L

 

治療

・Kumakuraらの文献レビューでは、最も一般的に使用された治療は95.7%に投与されたコルチコステロイドで、当初57.7%が反応した。

・単独コルチコステロイド治療よりも、他の免疫抑制剤との併用でより高い応答率が見られた(それぞれ52.9% 75.0%、p <0.05)

・コルチコステロイド難治の患者ではシクロスポリン、シクロホスファミド(IV CYC)、または免疫グロブリン(IVIG)が使用され、通常IV CYCは非常に効果的であった。(応答率 IV CYC 91.6, CyA 35.7, IVIG 8.3%)

・Uedaらは急性ループス血球貪食症候群(ALHS)の54例を分析し、グルココルチコイド単独治療は28%にて成功し、16例はIVCYを含むレジメンで治療され制御されたことを報告。IVCYとコルチコステロイドの併用療法は重症または難治性ALHS(汎血球減少症と高フェリチン血症の持続)を治療するのに有用である可能性が示唆。

・対照的にIVCYは、重篤な感染症の危険因子であることが知られている。Uedaらの報告では血小板減少、および/または肝酵素の上昇を合併しいくつかCMVの再活性化を開発した。文献レビューでは1例がALHSの改善にもかかわらず、感染症で死亡した。

・ミコフェノール酸モフェチル(MMF)が代替手段。MMFを使用したALHS の2症例報告あり 。[Am J Hematol. 2012 May;87(5):529-30. ][ N Engl J Med. 2012 Jun 7;366(23):2216-21. ]

 

予後

・これまでの報告は、1例または複数例のシリーズを記載し、これらの高い生存率は出版バイアスを反映している可能性がある。

・Kumakuraらの文献レビューでは、死亡率は12.9%。男性、皮膚筋炎、貧血が死亡率に関連する因子として同定された。

 

 

参考文献

Arthritis Rheumatol. 2014 Aug;66(8):2297-307.

Clin Rheumatol. 2014 Feb;33(2):281-6.

Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2012 Oct;16(10):1414-24.

 


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