感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

デング熱の臨床的診断

2013-02-01 | 感染症
当科研修医により2月の内科地方会で過去の当院デング熱数例をまとめて報告する予定。診断は血清学的検査が決め手となるが特に日本では迅速検査もないため急性期には役に立たない。渡航帰りの熱といってもマラリアや腸チフス、麻疹やインフルエンザなど類似症状で発症する疾患も多い。 問診や診察や簡単な血液検査でどこまで迫れるのか?
ここ数年の文献(50数文献)をざっとおさらいしレビューした。

まとめると

DFの予想は、

2009年のWHOデング熱分類基準のProbableデングの項目の、デング流行地滞在し、熱あり、以下のうち2つ:吐き気嘔吐、発疹、体の痛み、駆血帯テスト、白血球減少、警告サイン(後述)のいずれか。 諸文献からは、駆血帯テストは陽性なら可能性があがり特異度が良い。 血小板数減少(15万以下)がなければDFを除外しやすい。 また咳や咽頭痛などの呼吸器症状がないこともDFの可能性を高める。発疹(皮膚紅斑所見)もDFに特徴的で他の急性熱性疾患との高い陰性予測値ももつ。
年齢層による違いが多少あって、WHO症例定義は小児や高齢者では満たしにくくなる。 小児では血小板減少、咳欠如や発疹が、成人では、発疹、白血球減少症、咽頭痛欠如、筋痛関節痛が関連しやすい。 高齢者では筋肉関節痛、眼窩痛、粘膜出血など症状が少ない。

まとめ:発疹、上気道症状欠如、血算異常(WBCやPlt↓)、駆血帯テスト陽性は DFを想像しやすい。 眼窩痛や比較的徐脈も興味深いサインだが精度は書いていなかった。


重症化予想は、

まず2009年のWHOデング熱分類基準の警告サイン: 腹痛、持続的嘔吐、体液貯留、粘膜出血、倦怠感、肝腫大、血小板減少伴うヘマトクリット増加、 が大事。
デング出血熱DHFの予測は、臨床的出血の既往、血清尿素、血清総蛋白質が感度がいい。 著明な血小板数減少(5万以下)はDHFを予想する。 GPTなど肝酵素上昇、PT延長などの凝固系異常、ヘマトクリット上昇なども重症化予測因子。
出血症状は、陽性止血帯試験64.7%と、鼻出血23.5%。 半数以上で血小板数5万以下。
エコーは胸腹水などと胆嚢壁浮腫検出に感度がよく、出血(点状出血)の発症や、急性腎不全の進展を予測する。
胸水存在、ヘマトクリット上昇、低Na血漿、HCO3<18、凝固異常、GPT>40はデングショック症候群DSSの予測因子である。
早くから意識障害(≤24時間入院後)、低体温、大量消化管出血、DSS、肺水腫、腎/肝障害、くも膜下出血、桿状核球bandemiaの有意に高い頻度は 致死率と関連。

まとめ:腹部症状(嘔吐、腹痛)、エコー所見、著明な血小板数減少、Ht上昇、肝酵素上昇、は重症化を予想しやすい。 興味深いのは 白人、血液型(AB型)、などの因子。





一般論

・デングウイルス(DENV)は4つの血清型があり、感染は無症候性感染から、未分化型熱、デング熱(DF)、デング出血熱(DHF)までの範囲の臨床疾患の広いスペクトルを引き起こす。DHFは出血や血漿漏出により特徴づけられショックにつながる可能性がある。

・デング熱は、最初は未分化型熱として提示され、病気の後段階で症状はより特徴的になる。これは適時的な医療的介入を制限する。

・診断と管理のための1997年と2009年の両方の世界保健機関(WHO)のデング熱症例の分類基準あり。
・2009年の改訂症例定義で、警告標識warning signs伴うまたは伴わないデング熱、および重症デング熱に疾患を分類した。
 改訂版はより重症デング熱の診断に敏感。

・分類は
警告サイン(腹痛、持続的嘔吐、体液貯留、粘膜出血、倦怠感、肝腫大、血小板減少伴うヘマトクリット増加)を伴うか伴わないか
デング熱
デング出血熱(DHF)
デングショック症候群(DSS)
重症デング熱 (SD; デング熱重症の血漿漏出、重度の出血、臓器不全を伴う)。

  Probableデング:デング流行地滞在し、熱あり、以下のうち2つ:吐き気嘔吐、発疹、体の痛み、駆血帯テスト、白血球減少、警告サインのいずれか
  検査上デング : (血漿漏出サインは重要)

WHO出血熱DHFグレード: I~Ⅳ  (ⅢとⅣはDSS)

・デング熱が疑われデング熱検査陽性の小児の1/4は疾患ためのWHOの症例定義を満たさず。

・古典的デング熱(DF)とデング出血熱(DHF)または重症デング熱の区別はデング熱症例の分類の重要な側面。
・しかしDHFとデングショック症候群(DSS)の間に症状のオーバーラップがしばしば観察され、トリアージに影響を与える。

・止血帯テストtourniquet testは上腕で縛られた血圧計カフを膨張させ、その圧を収縮期と拡張期血圧の中間にまで5分間、かけることによって行われる。 1平方インチ(6.25cm(2))あたり20個以上の点状出血があるときテストは陽性とみなされる。

・一般的な症状は、発熱(100%)、発疹(80%)、筋肉痛(70%)、不穏(60%)と悪寒(60%)あたり。あと嘔吐(70%)、腹痛(60%)

・デング出血熱小児例の調査。すべての患者は、発熱や肝腫大あり。検査で32.4%に脾腫、17.6%に腹水、8.8%に胸水あり。一般的な出血症状は、陽性止血帯試験64.7%と、鼻出血23.5%だった。56%で血小板数が20000-50000の間。SGPT> 40 IU / Lが64.6%。 デング熱のIgM血清学的検査は68.5%の症例で陽性。
(Trop Doct. 2008 Jan;38(1):28-30.)

・臨床的類似 : 麻疹(血清学的交差反応もある)、レプトスピラ症(水との接触、筋肉痛、結膜充血)、 インフルエンザ、腸チフス、発疹チフス、恙虫病、Q熱、マラリア、チクングニア(臨床三徴:発熱、関節痛、発疹)、日本脳炎ウイルス、未定フラビウイルス、 などがデング熱様症候群から診断されている。


デング熱診断のための所見

・WHOの症例定義で定義されたDHFの90%以上でデング熱が確認。
出血および/または陽性の止血帯テストは、DHF患者の69.7%で発見され
血漿漏出は血液濃縮、胸部レントゲン(CXR)と超音波検査を用いて検出。超音波検査は血漿漏出の証拠を加えるための最も感度の高い方法。
(J Med Assoc Thai. 2011 Aug;94 Suppl 3:S74-84)

・probable デング熱のためのWHO1997年または2009年分類体系がコホートに適用されたとき、デング熱に関連した症状の率の違いは、高感度をもたらした。ただし場合により年齢層に層別化された。高齢者は、筋肉痛、関節痛、眼窩の痛みや粘膜出血などのような症状報告は 少なくWHO分類の感度低下をもたらした。デング熱早期臨床診断は、高齢者にはより困難。
(PLoS Negl Trop Dis. 2011;5(5):e1191.)

・多変数GEEモデルが示された デング熱検査陽性のオッズ増加は、 発熱、頭痛を伴う、眼窩痛、筋肉痛、関節痛、発疹、点状出血、陽性の止血帯テスト、嘔吐、白血球減少、血小板≤150,000cell/mL、乏しい毛細血管再充満、手足の冷えや低血圧。
推定オッズ比は、疾患初期段階に比べ疾患経過期での徴候や症状のために高い傾向にあった。
(PLoS Negl Trop Dis. 2012;6(3):e1562.)

・発熱したアジアの子供たちのこれまでの研究では、陽性の駆血帯試験(TT)および白血球減少の組み合わせは、他の熱性疾患からデング熱を区別することができることを示唆。 プエルトリコでの調査でTT陽性または白血球減少のどちらかの存在があれば、正しくデング熱患者の94%を同定した。  インフルエンザなど同時に急性熱性疾患の流行時には、陰性の止血帯テストと白血球減少の不在の組み合わせは、デング熱を除外に便利かもしれない。
(PLoS Negl Trop Dis. 2011 Dec;5(12):e1400.)

・インドの豪雨後の研究。レプトスピラや腸チフスなどの他の急性熱性疾患と比較して、めまい、腹痛、発疹、出血症状の4つの臨床機能が大幅にデング熱と関連。
(Infection. 2010 Aug;38(4):285-91)

・臨床的にデング熱が疑われる症例の研究で、73%が血清学的にデング熱が確認された、駆血帯試験が陽性であったのはすべての患者の 29.1%、 デング熱血清陽性患者の34.1%、デング出血熱の36.4%であった。 デング熱診断のGoldStandardをELISAとすると駆血帯試験の感度は33.5-34%、特異度は84-91%、陽性と陰性の予測値は、それぞれ85-90%、32.5-34%。
(Trop Med Int Health. 2011 Jan;16(1):127-33.)

・発熱、発疹、かゆみ、平均血小板数<150,000、白血球数<4000、嘔吐や腹痛の欠如、 は非デングからデングを区別するのに役立つ。
(Infection. 2008 Dec;36(6):570-4.)

・比較的徐脈とデング熱
(Emerg Infect Dis. 2008 Feb;14(2):350-1.)

・腹水、胸腔心嚢液貯留、胆嚢壁浮腫、傍胆嚢の液貯留の超音波検査上の証拠が、デング熱の迅速に入手できる非侵襲的マーカーであり、血清学的調査が利用可能になる前に役立つ。抗体陽性DFのため腹水と胆嚢壁浮腫は非常に感度の良いマーカー。
(Prehosp Disaster Med. 2011 Oct;26(5):335-41)

・急性デング熱の患者は、患者報告発疹や、家族や近所のデング熱歴を持っている可能性が高いが、非デング熱性疾患の患者と比較して、呼吸器症状、のどの痛み、黄疸を持っている可能性は低かった
(Med J Malaysia. 2010 Dec;65(4):291-6)

・旅行者の急性発熱、主にチクングニアと比較。関節痛は有意にチクングニアに多く、白血球減少、好中球減少症、血小板減少症はデング熱で有意に多かった。
(Am J Trop Med Hyg. 2008 May;78(5):710-3.)

・デング熱の患者は、他の熱性疾患患者よりも有意に低い血小板、白血球(WBC)および好中球数、および点状出血の高い頻度を持っていた。 筋肉痛、発疹、出血症状、嗜眠/衰弱、関節痛/関節痛の高い頻度と、高いhaematocritsは、成人患者で報告され、小児のデング熱では報告されなかった。
(Trop Med Int Health. 2008 Nov;13(11):1328-40.)

・急性デングウイルス感染症の診断に血小板減少の有用性を評価。血小板減少は、血小板数<150×10(9)/ Lとして定義。血小板減少の存在下で急性デングウイルス感染の尤度は2.52で、正常の血小板数の患者のデング熱感染を持っていない尤度は5.22。 血小板数は デング熱感染を診断するよりも除外する方が有用。
(Med J Malaysia. 2007 Dec;62(5):390-3.)

・年齢ベースの予測モデルの研究。 小児では、血小板減少、咳の欠如はデング熱感染と関連。成人は、発疹、白血球減少症、のどの痛みの欠如はデング熱感染と関連。 すべての年齢層で、眼窩の痛みretro-orbital painは、デング熱の感染と関連。
(Am J Trop Med Hyg. 2010 May;82(5):922-9.)

・小児では、発疹や年齢は、独立して検査室陽性デング熱感染と関連。 咳がない場合の発疹は小児のデングスクリーニングとして、100%の陽性予測値、82.4%の陰性予測値を有していた。 成人では、眼痛、下痢、上気道症状の不在が独立して検査室陽性デング熱感染と関連。しかし成人ではデング熱感染の早期に有用な予測因子は認められず。
(Trans R Soc Trop Med Hyg. 2009 Sep;103(9):878-84.)

・6つの臨床的特徴:  頭痛、体の痛み、嘔吐、眼窩痛、全身衰弱(スケール0-9)、皮膚紅斑(グレード1-5)、が評価のために選択。 すべての症状評価(カットオフ>= 5)および皮膚紅斑所見(>=グレード2)がDFの良い陽性予測値を持っていた。 紅斑は、他の短期間発熱疾患からDFを区別するために貢献し、最高の陰性予測値を持っていた。  紅斑、発熱、嘔吐、全身衰弱が継続したときに血小板数が有意に減少した。
(Trans R Soc Trop Med Hyg. 2009 Feb;103(2):127-31.)



予後不良の予測因子

・深刻なデング熱のための予測因子は、以前に確立されたものとして、白人人種、およびABの血液型を持つ人々に加えて、警告の兆候とWHOが推奨する共存条件、warning signs, and coexisting conditions, as is recommended by the WHOがある。
(Acta Med Indones. 2011 Apr;43(2):129-35)

・WHOの警告標識の少なくとも一つが認められたのは、 ND、DF、DHFグレードI、DHFグレードII、DHFグレードIII、DHFグレードIVの患者で 50、53.3、83、88.2、100、100%。 嘔吐と腹痛がNDとデング熱患者の両方で見つかった2つの最も一般的な警告の兆候。
(J Med Assoc Thai. 2011 Aug;94 Suppl 3:S74-84)

・デング出血熱DHFの成人例を予測するdecision tree algorithmの研究。最良の予測は、臨床的出血の既往、血清尿素、および血清総蛋白質から成る3つの枝を持っていた。この決定木は、感度1.00、特異度0.46、7.5%の陽性適中率、100%の陰性予測値を持っていた。決定木の全体の精度は48.1%であった。
(Trop Med Int Health. 2009 Sep;14(9):1154-9.)

・いくつかの初期の指標は、デング熱の重篤な症状と関連していた。  発熱後の頻繁な嘔吐(>=1日3回)、著明なリンパ球減少、血小板減少、そして3日目の肝酵素の上昇、は大幅に血漿漏出と胆嚢壁肥厚と関連。 3日目の血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ増加レベルは著しく内出血と関連。
(J Clin Virol. 2009 Aug;45(4):276-80.)

・致死的な患者は、早期の意識障害(≤24時間入院後)、低体温、消化管出血/大量の消化管出血、DSS、同時菌血症あり/なしショック、肺水腫、腎/肝障害、およびくも膜下出血、の有意に高い頻度を持っている。 コントロールと比較して致命的な患者の初期(到着)検査データから桿状核球bandemiaの有意に割合が高く、事前に著明な白血球増加と著明な血小板数減少。 事前に高度な血小板減少症(<20,000 /μL)の33.3%と、事前に高度なプロトロンビン時間(PT)延長の50%が大規模な消化管出血を経験した。 
(PLoS Negl Trop Dis. 2012;6(2):e1532.)

・腹水、胸腔心嚢液貯留、胆嚢壁浮腫の超音波検査上の証拠は、重症度を示すことがあり、出血(点状出血)の発症や、急性腎不全の進展を予測することができる。
(Prehosp Disaster Med. 2011 Oct;26(5):335-41)

・多変量解析で、APACHE IIスコアは独立して死亡率を予測する(odds ratio, 1.781; 95% confidence interval, 0.967-3.281; P = .048)
(J Crit Care. 2011 Oct;26(5):449-52.)

・血漿漏出症候群を発症した患者は、主に男性、高齢で、より頻繁に腹痛や咳を報告した。下痢やパラセタモール>60 mg / kgの入院前日に服用は、急性肝炎の発症と関連。
(J Clin Virol. 2010 Jun;48(2):96-9.)

・血漿漏出や血小板減少症は、WHO症例定義の特異性に寄与し、介入の必要なデング熱患者を同定する、2つの因子。DHFのWHO症例定義は、デング熱で介入を必要とする患者を同定するための、62%の感度と92%の特異度を実証した。出血傾向は確実にDFとDHFを区別しなかった。DF例では、血小板減少、出血が重症度と関連。
(Clin Infect Dis. 2010 Apr 15;50(8):1135-43.)

・合併症の予測因子であった変数は、腹水の存在(OR = 22.12; 95%CI: 5.00-97.87)、gingivorrhagia(OR = 7.35; 95%CI: 2.11-25.61)、吐血(OR = 7.40; 95%CI: 1.04-52.42)、血小板減少(platelets from 40,001 -60,000/mm(3)) (OR = 5.43; 95%CI: 1.58-18.72)、結膜充血(OR = 4.27; 95%CI: 1.37-13.28)、持続的嘔吐(OR = 3.04; 95%CI: 1.05-8.80)、鼻閉欠如(OR = 0.015; 95%CI: 0.0004-0.473)
(Rev Panam Salud Publica. 2009 Jan;25(1):16-23.)

・血小板減少症、ヘマトクリット値上昇、肝酵素上昇の三徴は、デング熱の血清学的検査を待たずに、デング出血熱の早期診断のために十分
(J Coll Physicians Surg Pak. 2008 May;18(5):282-5.)

・デングショック症候群DSSの予測因子。 出血症状、USG/ X線で胸水の存在、ヘマトクリット値>35%、WBC<4000/cumm、 NA<= 130meq/L、重炭酸塩濃度<18mmol/L、凝固系異常、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)>=40 IU  がDSSの予測因子
(J Trop Pediatr. 2008 Apr;54(2):137-40.)

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