感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

下肢MRIで筋膜炎所見あり、どうするか?

2013-02-07 | 免疫
2年間くらい右ふくらはぎ痛が断続的に続いている方。MRI検査にて腓腹筋周辺の筋膜に異常信号あり整形外科から紹介。どうのように精査を進めていけばいいか? 好酸球性筋膜炎がまず浮かぶがこの例はあいにく末梢血好酸球は増多なし…。

文献では病理的な疾患定義の範囲がはっきり理解できず。様々な疾患や悪性腫瘍関連でも同様の病理像を示すらしい。
peau d’orange skin、フランス語でオレンジの皮のような皮膚とのことで、あのセルライトCelluliteといっている所見らしい。
 (上記写真は文献から引用で、本症例とは関係ありません)。



概論

・1975年に、Shulmanは、様々な好酸球浸潤 and/or 末梢血好酸球増多を伴う、皮下脂肪と筋膜の線維性肥厚を伴う症候群を報告し、その後、好酸球性筋膜炎(EF)と呼ばれた。
・しかし好酸球増多と高ガンマグロブリン血症のない様々な疾患患者においても、同様の組織学的特徴がしばしば見られている。 
・同様の組織学的特徴は、 孤立性深在性強皮症morphea profunda、ループス脂肪織炎、毒性オイル症候群、L-トリプトファン誘発性好酸球増多筋痛症候群、移植片対宿主反応、放射線照射後損傷、脂肪皮膚性硬化症などの皮下筋膜線維症、感染症、癌、などで見られる。
・1992年にNaschitzらは、好酸球性筋膜炎に類似した臨床および組織学的特徴を持つ患者の一連を報告し、筋膜炎-脂肪織炎症候群(FPS)との用語を造った。
・好酸球性筋膜炎は、多くの著者によって強皮症疾患の広いスペクトルに分類されてきた、筋膜炎関連の脂肪織炎は、組織学的に区別され、好酸球性筋膜炎、限局性強皮症および深在性エリテマトーデス(ループス脂肪織炎)、などと記載されてきた。
・"筋膜炎脂肪織炎症候群"は、全身性硬化症のものとは対照的で、臨床所見、疾患の経過、および組織学的特徴が異なっている。


臨床症状

・好酸球性筋膜炎(EF)は主に四肢に影響を及ぼし、皮膚の腫脹(初期段階で)と線維症(高度の段階で)により臨床的特徴づけ。
・強皮症とは異なり、レイノー現象、指先潰瘍、毛細血管拡張症、内臓疾患はまれ。
・臨床症状からまず蜂窩織炎などの感染症、軟部組織腫瘍、深部静脈血栓症、粘液水腫などと混同されることがある。

・EFや筋膜炎-脂肪織炎症候群(FPS)の臨床症状は、皮膚や軟部組織の基礎となる痛みを伴う腫脹と硬結が含まれる。典型的には前腕やふくらはぎに限定される(sleevelike distribution)が体の他の領域が関与するもある。通常、顔面、指は免れる。
・EFは、病変四肢の浮腫から進行しその後、色素沈着性の皺を伴う橙皮状皮膚peau d’orange skinに至り、皮膚のツッパリ感と木質の硬結を呈示する。 初期浮腫期は、早期の強皮症の皮膚変化と区別がつかないかも知れない。
・EFの 不規則で木質の橙皮状皮膚の質感は、全身性硬化症または限局性強皮症患者に見られる滑らかな、光沢のある皮膚表面とは異なっている。
・患肢の挙上は、膨張した静脈圧を低減し、表在静脈のコースに沿って溝が観察できる。" groove sign溝サイン"と呼ばれるこの物理的な知見は、おそらく静脈の残り周囲の結合組織の相対的な不動性伴う線維化過程によって、表皮と真皮の表面的な相対的な温存のため。
・FPS硬結皮下病変は二つの典型的なパターンのいずれか: 一つ目は大型円周病変で1つ以上の四肢に出現。二つ目はプラークで、円形、楕円形または細長い形で、単一または複数で、体の任意の領域を含む
・皮膚外症状は患者の5%~15%で発生し、関節炎、肝炎、心膜炎、大腸炎、胸膜炎、肺線維症、食道障害、甲状腺疾患、シェーグレン症候群、レイノー現象を含む。

・主な臨床的鑑別は、強皮症関連所見としてのレイノー現象、毛細管顕微鏡所見などのチェック、 抗核抗体などSLEの検討、毒性オイル症候群やL-トリプトファンなどの摂取歴などによる好酸球増加筋痛症候群。
・例えば、指(手指硬化)やつま先の皮膚硬化変化、と爪床毛細管の顕微鏡所見は、全身性硬化症の多くを示唆

・EFとFPSのわずかな割合で、悪性腫瘍に関連付けられる、悪性血液疾患が最も一般的。
・深在性エリテマトーデスは、真皮と皮下組織に影響を与え、好酸球性筋膜炎と組織学的に類似しているループスバリアントだが、明瞭な皮下結節を呈し、圧痛はない。


病理

・好酸球性筋膜炎EFは、主に四肢に影響を与え、筋膜、皮下組織、真皮の対称的な、通常は広範囲の炎症と硬化によって特徴付け。
・皮膚の病理組織学的検査は、筋膜の肥厚を示し、真皮深部の線維化および浸潤が主にリンパ球、形質細胞、好酸球で構成される。
・表皮は組織学的に正常で、萎縮はめったにきたさない。
・真皮深部には、炎症性浸潤、筋膜肥厚、線維隔壁が見られ、時折、好酸球の様々な数で浸潤する多形性炎症を起こす。 浸潤した好酸球は筋肉繊維に広がる可能性がある。
・浸潤好酸球の筋膜における局所的脱顆粒は、毒性および潜在的線維形成特性を有するカチオン性顆粒タンパク質の放出および組織蓄積の結果である。 肥満細胞脱顆粒およびその生産物ヒスタミンは、同様に影響を受けた組織で発見。
・筋膜由来の線維芽細胞は、隣接する真皮由来の線維芽細胞と比較して増加したコラーゲン遺伝子発現を示す

・筋膜炎-脂肪織炎症候群FPSは、皮下中隔と筋肉筋膜のネットワークの慢性炎症や線維化によって引き起こされる皮膚硬結を特徴とする


検査

・EFは、好酸球増多、高γグロブリン血症、および赤血球沈降速度増加が、主な検査所見
・筋肉の酵素は、EFで一般的に正常であり、CKまたはアルドラーゼの著しい上昇は、筋炎および/または強皮症/筋炎の重複障害を示唆

・MRI検査は非常に特徴的な徴候を示す非常に重要な診断ツール。 またMRIはガイド下の筋生検に有用。
・皮膚生検が診断確定に行われるべき。 深部皮膚生検、 皮膚から筋膜まで含み深部筋肉まで一塊 en blockにして生検する。 皮膚と皮下組織の楕円形の全厚切開生検シャットダウンが必要。


治療

・EFは最前線の治療は、副腎皮質ステロイド。 通常、プレドニゾン1 mg / kgを一日に相当する用量で開始。
・初期の報告ではEFはコルチコステロイドへ良好な反応を示唆。しかし普遍的に検証されていず、良好な応答は患者の3分の2未満ともされている。
・他の薬剤、アザチオプリン、 D-ペニシラミン、クロロキン、シメチジン などが、試されている。
・コルチコイド温存として、同様に免疫抑制療法(シクロスポリン、シクロホスファミドおよびアザチオプリン)、ヒドロキシクロロキン、ダプソン、または免疫グロブリン効果的に、単独で、または組み合わせとして。

・筋膜炎脂肪織炎症候群FPSの初期治療はシメチジン、二次治療はシメチジンとプレドニゾンで、初期または二次治療に反応しない患者のため、プレドニゾン、メトトレキサート、およびシメチジンの併用が使用される。

・特発性EFとFPSは通常、コルチコステロイド応答性であるものの、腫瘍随伴性EFとFPSは一貫してステロイドで改善されていない。 好酸球性筋膜炎とFPSは腫瘍治療の成功後に寛解することがある。

・晩期合併症(筋萎縮、神経絞扼、または関節強直が含まれる)
・難治性EFでの2人の患者の報告。限局性強皮症様の皮膚病変を有するEF患者は、これらの病変のない患者よりも永続性線維症を発症する可能性が1.9倍。


文献
Patholog Res Int. 2010 Dec 1;2011:716935.
Rheum Dis Clin North Am. 2011 Nov;37(4):573-92.
Medicine (Baltimore). 1996 Jan;75(1):6-16.
Ann Rheum Dis. 1990 Oct;49(10):788-92.
Clin Rheumatol. 2007 Sep;26(9):1445-51.
UpToDate: Eosinophilic fasciitis:Literature review current through: Dec 2012. | This topic last updated: 9 14, 2012.

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
慢性、局所? (motoyasu)
2013-02-07 17:13:27
好酸球の増加がないタイプの筋膜滑膜炎もあるようですが、アルドラーゼはいかがでしょうか。皮膚筋炎やサルコイドーシスなどは先生方の診療の範疇ですし、生検ができればよいのでしょうが。難しい症例が多いですね。大変勉強になるブログで感謝しています。
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アルドラーゼ (志智大介)
2013-02-07 22:13:24
コメントいただき有難うございます。好酸球性筋膜炎でCPKは正常範囲でもアルドラーゼ上昇し、活動性指標となるとの報告もあるようですね。一応、検査中です。
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筋膜炎脂肪織炎症候群 (志智)
2013-06-25 13:00:50
報告が遅くなりましたが、3月に皮膚生検施行し、脂肪組織に巣状の炎症細胞浸潤、一部で膠原線維性変化あり、やはり筋膜炎脂肪織炎症候群が疑われました。血清アルドラーゼは正常でした。タガメット処方開始にて、疼痛は消失し、皮膚硬化もやや改善した印象です。
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