感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

HIV感染症患者におけるテノホビル関連腎毒性: エビデンスレビュー

2012-09-20 | 感染症
HAART治療開始2年くらいのHIVの当科通院中の患者さんが、側胸部痛継続を訴え血清抗体検査などから“無皮疹性帯状疱疹”と診断し入院中です。昨年末からちょくちょく蛋白尿を認めていたのですが、最近尿糖も明らかとなり、使用しているTDFの腎毒性ではないかと、この文献を調べました。TDFの毒性ターゲットは近位尿細管であり、Cre値やeGFRより尿糖や尿蛋白、尿中リン酸排泄率、尿中レチノール結合タンパクなどに注目ということ。


まとめ

・多くの研究で、TDFは全体の毒性プロファイルは低く、推定糸球体濾過率にそれほど影響はないとされる。しかし腎毒性の主なターゲットは、近位尿細管であることが示され、深刻なケースでは腎ファンコニ症候群を発症することもある
・多くの研究で薬剤と腎障害との関係をみるのに血清クリアチニン、コッククロフト・ゴールトやMDRDを使用した推定GFRを使用している。しかしこれら式は真のGFRとずれることがあるし、クレアチニンはHIV患者では筋肉量の異常が出ることがあることなどを考えると、解釈に問題が出る。
・大規模コホート研究でTDF治療開始後の血清Creの変化が≥0.5または≥2 mg / dL以上の増加はそれぞれ2.2%、患者の0.6%に認められ、この薬による糸球体機能の深刻な障害がまれであることを示唆
・TDF腎毒性の主座は、近位尿細管と思われる。より深刻なケースでは、ファンコニ症候群(尿細管性タンパク尿、アミノ酸尿症、リン酸塩尿、糖尿、および重炭酸消耗 によって特徴付けられる [代謝性アシドーシスに至る])。尿蛋白クレアチニン比PCRの増加はこうした深刻な例のスクリーニングツールになる。
・レチノール結合タンパク質(RBP)は糸球体で自由にろ過され、受容体媒介性のアデノシン三リン酸(ATP)依存性エンドサイトーシスにより近位尿細管に取り込まれる。増加した尿中RBP-クレアチニン比(RBP:Cr)は、近位尿細管の輸送機能不全の信頼性の高いマーカー
・重度尿細管毒性の例は比較的まれであるが(大規模前向きコホートではファンコニ症候群<0.1%)、不顕性の尿細管の異常がはるかに一般的であることは明らか
・尿中RBP-Cr比は重度尿細管障害例よりははるかに低いがTDF暴露群はナイーブ群またはTDF以外のART治療群よりは高い。この値は、近位尿細管機能障害の定量的な評価となるかもしれない。
・N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)とCrの尿中比は、近位尿細管損傷の一般的に使用されるインデックスだが、ART投与群はナイーブ群より増加していたことが判明しており、TDF含有レジメンへの付加的価値はない (尿中NAG-Crの比の増加は、TDF毒性のために固有のものではないことを暗示)

・CD4数が低値、糖尿病、および他の腎毒性薬とプロテアーゼ阻害剤への暴露が、単変量解析で尿細管機能障害の危険因子
・大規模後ろ向きコホート研究では、TDF-曝露された患者は、(dipstick蛋白尿、糖尿、低リン酸血症、代謝性アシドーシス、低カリウム血症、低尿酸血症、のうちの ≥2として定義される)近位尿細管機能障害を示すことが多かった。 しかしこれら研究での尿細管障害頻度は 本研究より低く、本研究から、尿中RBP-Cr及びNAG-Crの比率がより敏感な尿細管障害マーカーであるといえる
・他の横断的研究では、TDFの曝露と β2-ミクログロブリンの尿中排泄量増加(B2M、別の尿細管性タンパク)の間の関連を示している。 しかし尿B2Mは、スクリーニングツールとしての欠点を有している、なぜならそのpH依存性と酵素による分解のため不安定性があるから
・慢性腎臓病のその後の発展を予測する上で無症候性尿細管性タンパク尿の意義は、現在のところ不明

・リトナビルは、MRP2の基質で、近位尿細管細胞からの放出阻害によりTDFの毒性を増強し、細胞内濃度を増加させる可能性が示唆

・TDF使用患者での腎毒性のための監視
・糸球体機能上のTDFの影響は軽度でeGFR測定またはアルブミン尿dipstick試験は、早期の腎毒性を検出するのに十分に敏感ではない
・TDFの毒性の主なターゲットは、近位尿細管であり、尿細管性タンパク尿の存在は、近位尿細管機能障害のための最も感度の高い試験であるといえる。尿中RBP:Cr比は、TDF関連の尿細管毒性のマーカーとして有用と信じているし、スクリーニングツールとして使用するための合理的な候補。 他の尿細管タンパク質としてはB2Mがあるが尿中B2Mはやや不安定かもしれない。
・リン酸尿と糖尿の増加排出は、近位尿細管機能障害のマーカーであり(尿細管性蛋白尿よりも感度は低いが)、スクリーニングしやすい

・米国感染症学会のHIV医学協会は以下を推奨している: (Clin Infect Dis 40. 1559-1585.2005)
TDF治療を受けており、以下の1~4の条件を満たす患者は、6ヶ月毎より頻繁に、腎機能(EGFR)と血清リン酸塩を測定すべきで、蛋白尿と糖尿について分析すること。[62]
腎毒性のために特定のリスク要因に基づいている基準は、次のとおり:
(1)GFR<90 mL/min/1.73㎡、(2)腎分泌で排除他の薬剤の使用(例えば、アデフォビル、アシクロビル、ガンシクロビル、またはシドフォビル)、(3)他の併存疾患(例えば、糖尿病や高血圧)、(4)リトナビルでブーストしたプロテアーゼ阻害剤療法の継続

・しかし我々は以下をアドバイスする
・すべての患者は、治療の最初の年の間に3ヶ月毎にスクリーニングし、そして、その後年2回のベースで、有害な傾向の慎重な評価をする
・低リン血症は、TDFの毒性における後期の合併症かもしれないので、我々はむしろ血清リン酸塩値単独よりも、リン酸の分別排泄FEPを測定することをお勧め
・TDFで無症候性尿細管機能障害を発症した患者は、おそらく安全に薬物治療をやめることができるが、腎機能と骨の状態に長期的影響を評価するために定期的なフォローアップの継続を


参考文献:
Am J Kidney Dis. 2011 May;57(5):773-80. Epub 2011 Mar 23.

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