感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

HIV関連の腎障害: HIVにおける腎生検

2012-09-21 | 感染症
昨日のブログの続き。件の患者さんは血清Pが低く、尿中P排泄率が亢進しており、いよいよ近位尿細管障害とFanconi症候群を疑っている。尿中RBPは測ろうと思うが、HIVでは様々な腎障害を鑑別しないといけないし、腎生検も検討すべきなのかどうか、この文献を読んだ。 HIV患者で腎生検所見で頻度が多いのはHIVAN、高血圧性腎症、FSGS 、AINとのこと。AINは臨床所見だけだだめで腎生検で分かることも多い。


まとめ

・腎臓病の原因を評価するときには、HIV関連および非HIV関連疾患を区別することが重要
・HIV関連腎症(HIVAN)は近年減少し、HAART療法の普及によるもの
・患者の高齢化により非HIV関連腎疾患、とりわけ糖尿病や高血圧によるCKDが問題に
・その他CKDの危険因子は、腎臓病の家族歴、アフリカ系アメリカ人の人種、C型肝炎ウイルス(HCV)の重複感染、いくつかの抗レトロウイルス薬や抗生物質を含む腎毒性薬の使用歴、など

・米国感染症学会で発表されたガイドラインでは すべての患者は、HIV診断時に既存の腎臓病のために評価されることを勧める。 dipstick上の1 +以上の蛋白尿を有する、またはeGFR<60 mL/min/1.73㎡では、腎生検の検討を含め、更なる評価のための腎臓専門医に相談を勧めている。(Clin Infect Dis 40. 1559-1585.2005)
・定量的な手法での蛋白尿の評価は、潜在的な腎臓病の初期の識別を可能にするために奨励されるべき

HIVウイルス特異的糸球体疾患

・ウイルス特異的な腎臓の損傷は、HIVで腎上皮細胞の直接感染、ウイルス抗原-抗体複合体から成る免疫複合体の沈着、およびHIV関連の血栓性微小血管症(TMA)によって引き起こされる場合がある
・糸球体疾患の鑑別診断は、多くのHIV非固有の原因がある: DM腎症、アミロイドーシス、膜性腎症、微小変化型、IgA腎症など
・抗核抗体に加えて、抗好中球細胞質抗体、抗糸球体基底膜、タンパク質電気泳動、補体レベル、肝炎検査、およびクリオグロブリンのレベルを含む血清学的評価、などは決定的ではないが診断を示唆

・HIV関連腎症(HIVAN) :HIVは、糸球体、尿細管、集合管など、ネフロンのいくつかのセグメントの上皮細胞に感染。"古典的"徴候は重度蛋白尿(しばしば蛋白>3 g /日)、>2 mg / dLの血清クレアチニン値、および進行性の腎不全。浮腫や高血圧は稀。治療は、HAART療法、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、およびグルココルチコイド。コホート分析でネフローゼ域蛋白尿とHIVAN患者は非HIVAN腎疾患とのそれらと比較してT細胞CD4数が有意に低かった。HIV-1 RNA量が400コピー/ mL未満でHIVANの可能性が低いのとの研究。

・HIV関連免疫複合体病 :糸球体病変のパターンは4つのカテゴリーに: 免疫複合体介在性糸球体腎炎、免疫グロブリンA(IgA)腎炎、混合硬化性/炎症性疾患、およびループス様疾患。 IgA腎症の臨床症状は血尿、通常は2g/ dより少ない蛋白尿。

・HIV関連TMA :血栓性血小板減少性紫斑病と溶血性尿毒症症候群が含まれており、血小板減少、微小血管症性溶血性貧血を特徴とする。腎障害は、一般的にAKIと蛋白尿と血尿。 サイトメガロウイルス感染がTMAの病因に関与か。 治療は、血漿交換療法、コルチコステロイド、脾摘、免疫グロブリン点滴、抗血小板剤などが使用。 ウイルス抗原のレベルを下げるためHAART療法を開始。

薬剤関連腎疾患

・薬剤性急性間質性腎炎 :血清クレアチニン値増加と、発疹、発熱、末梢血好酸球増多といったいわゆるAINの古典的三徴は最初メチシリンで報告されたが、非メチシリン薬剤ではそう多くない(それぞれ50%前後)。したがって、腎不全があって臨床的な手がかりがない時この病態も提起するべき。
HIV感染症患者の1つの腎生検の研究では、AINは、HIVAN、高血圧性腎症、およびFSGSに続いて4番目に最もよくみられる所見であった。
頻回に原因となる薬剤は、ペニシリン系、セファロスポリン、サルファ剤含有薬、キノロン、プロトンポンプ阻害薬、およびNSAID、がある。
AIN疑い例の最も一般的な治療法は、被疑薬の中止である。薬剤中止後も継続する腎不全では、腎臓生検のメリットがある。
より早期の原因薬剤の中止は、ベースライン腎機能への復帰のための希望をもたらす。なぜなら尿細管萎縮、間質性線維症は、早ければ薬物暴露後の2週間以内に発生する可能性がある。
コルチコステロイド(prednisone, 1 mg/kg, for 2 weeks with a taper)は腎不全が原因薬剤の中止後数日から1週間程度以内に改善しない場合に考慮することができる。

・結晶性腎症 :インジナビル、アタザナビル、スルファジアジン、シプロフロキサシン、およびアシクロビル静注を含む様々な薬は、薬物の結晶の析出が原因で尿中に不溶性薬物が発生して尿細管腔で結晶化することがある。 たとえば腎疝痛を発症したアタザナビル投与中患者ではアタザナビル腎結石の可能性を考慮する必要がある。 腎機能障害を持つHIV感染患者ではボリューム不足ある人、および尿pH>6.0を持つものは、この病態の危険性にさらされている。

・テノホビル毒性 :HIV感染集団では、そのより広範な使用と、AKIとファンコニ症候群の両方が報告されている。 テノホビル関連AKI持つ27人の患者の研究では、16人(60%)がファンコニ症候群を持っていた。ファンコニ症候群は、テノホビルの中止を持つすべての患者で解決; しかし、5人の患者は、テノホビルの中止後腎機能の不完全回復を持っていた(平均フォローアップ7.5ヶ月、範囲は3~20ヶ月)。
テノホビル毒性では、腎生検は通常、糸球体や間質の変化なしで急性尿細管壊死を示している。

他のHIV非関連の腎疾患

・HCV関連腎疾患 :HIV、HCVの重複感染患者における重要な考慮事項。 HCV抗原と免疫複合体形成は、膜性糸球体組織病理学的状態を伴うHCV関連糸球体腎炎および/またはクリオグロブリン沈着につながる。 補体価レベル減少と循環クリオグロブリンの存在。 インターフェロンベースの治療レジメン。

・感染後糸球体腎炎 :血尿やAKI、蛋白尿のレベルは様々でネフローゼ範囲を呈することも。抗ストレプトリジンO価(ASO)高値や低補体価レベルが病態を示唆。 成人ではレンサ球菌感染症では17%~40%、ブドウ球菌感染症で12%~25%に関連する。


参考:
Am J Kidney Dis. 2008 Mar;51(3):504-14. Epub 2008 Feb 7.

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。