感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

リウマチ性多発筋痛症の治療管理のためのACR/EULAR勧告2015

2016-01-28 | 免疫

これまでもこのブログでなんども取り上げてきましたリウマチ性多発筋痛症(PMR)ですが、昨年10月にこの疾患の治療管理のための勧告がでていました。この疾患に対して国際的な治療ガイドラインの形でまとめられたのはこれが初めてのようです。

流れは、模倣疾患を除外した慎重な診断、ステロイド関連副作用のリスクになりそうな因子を列挙、再発因子、専門家への紹介の条件、ステロイド治療の具体的な方法、筋注メチルプレドニゾロンとMTX、そして生物学的製剤の位置づけ。

しかし大筋での記載ですので、やはり細かいところは当ブログの過去記事もご覧ください → 「リウマチ性多発筋痛症の治療が難渋したらどうするか – その1」、「EULAR/ACRのリウマチ性多発筋痛症分類基準2012

 

PMR管理のための包括的原則

 

A.安全かつ具体的なアプローチの採用

模倣疾患の鑑別除外を(巨細胞性動脈炎、関節リウマチ、薬剤性、内分泌、感染症、悪性疾患など)

 

B.治療前の評価

基本的検査: RF、ACPA、CRP、ESR、血算、Glu、Cre、LFTs、Ca、ALP、尿検査。 付加的には、蛋白電気泳動、TSH、CK、VitD。 より広範な検査として、ANA、ANCA、結核検査など。また胸部X線検査。

併存疾患(特に高血圧、糖尿病、耐糖能障害、心血管疾患、脂質異常症、消化性潰瘍、骨粗しょう症[特に最近の骨折])、 白内障や緑内障(危険因子)の存在、 慢性または再発性感染症の存在、 およびNSAIDとの併用薬剤、他の関連の薬剤とステロイド関連の副作用の危険因子、 の決定。

再発/長期治療の危険因子の役割はまだ明らかではないが、研究にて関連した要因は: 女性、 高ESR(> 40mm/h)、末梢の炎症性関節炎。

 

C. 専門家への紹介:

非定型プレゼンテーション(末梢性の炎症性関節炎、全身症状、低い炎症マーカー、年齢<60歳など)、治療に関連する副作用の経験または危険性が高い、PMRのGC療法に耐性、および/または再発/長期治療、のとき。

 

D.PMR治療は、患者と治療する医師間の共有の決定に基づく。

E.患者は個別のPMR管理計画を持っている

F.個別に合わせた運動プログラム、教育へのアクセスを持つ

 

G.治療中のモニター

ステロイド関連の副作用の危険因子と証拠、 併存疾患、その他の関連する薬、再発/長期治療のための証拠とリスク要因

フォローアップ受診は、最初の年は4〜8週間ごと、 2年目は8〜12週間ごと

H. 疾患再燃や副作用などの状況を報告する医療者への迅速かつ直接的アクセスを持つこと。

 

PMR管理のための具体的な推奨事項


1. PMRの患者では、NSAIDではなくステロイド(GC)を使用することを強く勧める

2. PMR患者におけるGC療法の最小の有効な個別の期間での使用を強く勧める

3. PMR初期治療として12.5~25 mg(プレドニゾン同等)の範囲内で最小の有効なGC用量の使用を勧める。 この範囲より高い初期プレドニゾン用量は、再発のリスクが高い、または有害事象のリスクが低い患者で考慮できる。 関連併存疾患(例えば、糖尿病、骨粗しょう症、緑内障など)、およびGCに関連する副作用のための他の危険因子を有する患者において、より低い用量が好ましい場合がある。 条件付きで≤7.5mg /日の初期用量の使用を推奨。

4.患者の疾患活動、検査マーカーと有害事象の定期的なモニタリングを前提とした、個別化した用量漸減のスケジュールを強く勧める。GC用量漸減の原則は

初期の漸減:4-8週間以内に10 mg /日のプレドニゾンと同等の経口投与に用量を漸減。

再発治療:再発前の用量に経口プレドニゾンを増やし再発が発生した用量に(4-8週間以内)を徐々にそれを減少させる。

寛解が達成された後の漸減(初期および再発治療後に): 4週間ごとに1 mg /日の経口プレドニゾンを漸減。 (または1.25mgごとに、例えば10 / 7.5 mgの隔日などスケジュールを使用して)寛解が維持されたと考え中止されるまで。

 

5.条件付きで、経口GCに代わるものとして、筋注(IM)メチルプレドニゾロンを考慮。選択は治療する医師の判断で。(1つの臨床試験では、120 mgメチルプレドニゾロンIMの開始用量で注射3週間毎が適用された)

6. PMR治療のための経口GCは、1日用量分割法よりむしろ単回で投与を勧める。著明な夜間痛のような特殊な状況を除いて。

7.条件付きで、GCに加えてメトトレキサート(MTX)の早期導入検討を勧める。特に、再発および/または長期治療のリスクが高い患者、そしてGC関連の有害事象が発生する可能性が高いリスク要因、併存疾患および/または薬の併用例。(MTXは、臨床試験で7.5~10mg/週の経口用量で使用されている)

 

8. PMR治療のためにTNFα遮断薬を使用しないことを強く推奨する

9. PMR患者のための個別運動プログラムを考慮する

10.中国の漢方薬YangheとBiqiカプセルを使用しないことを推奨する

 

 

コメント

 

・現在利用可能な診断または分類基準により臨床医の診断に基づいてPMRを持つとされた患者にこのアルゴリズムは適用される。 分類基準には、Birdらの基準 [Ann Rheum Dis. 1979 Oct;38(5):434-9.]、Chuang らの基準[Ann Intern Med. 1982 Nov;97(5):672-80.]、Healeyの基準[Semin Arthritis Rheum. 1984 May;13(4):322-8.]、2012年のEULAR/ACR基準[Arthritis Rheum. 2012 Apr;64(4):943-54.]、などがある。(この勧告ではいずれかを指定していない)

 

・臨床的改善は2週間後に留意されるべきであり、ほぼ完全な応答は4週間後に期待することができる。応答基準の定義はこのプロジェクトの範囲を超えている。応答の定義はDasguptaらに提案された [Ann Rheum Dis. 2012 Apr;71(4):484-92. ]

・最初の応答の欠如(例えば、2週間以内に症状の不十分な改善)で25mgのプレドニゾン等量に経口投与量を増加させる。メチルプレドニゾロン筋注例では経口GCへの切り替えを検討する。

 

・MTXの用量調節についての勧告を行うことはできない。

・寛解と再発のための基準の定義はこのプロジェクトの範囲を超えている。臨床研究で使用された寛解および再発の定義はDejacoらに要約されている  [Ann Rheum Dis. 2011 Mar;70(3):447-53.]

・治療の最小/最適期間のための勧告を行うことはできない。GCs +MTXの併用治療例ですでにGCsが中止できている場合はMTXの中止も考慮できる。

 

・TNFα遮断薬以外のいずれの生物学的製剤についてもなんらかの勧告はできない。現在PMRにおける1つの無作為化でトシリズマブtocilizumab使用に関する研究と、secukinumab, canakinumab とGCsを比較する別の3アーム試験が進行中で、これらの研究の結果は、この勧告の変更につながる可能性がある。

 

 

参考文献

 

Arthritis Rheumatol. 2015 Oct;67(10):2569-80. 


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