感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

ESBL産生大腸菌治療にβラクタマーゼ配合βラクタム剤 :前向きコホートの事後解析

2012-09-10 | 感染症
ESBL産生大腸菌感染症の治療薬として、ß-lactam/ß-lactamase阻害剤(BLBLI)はカルバペネムの代わりとなるのか。 
臨床的条件を揃えればピペラシリン/タゾバクタム(PTZ)は使えるかも(まず大腸菌で、非重症例、尿路感染や胆道感染のように菌量負荷が少なめ、MICが感受性領域、通常量より多い用量(4500mg/ 6時間毎)、地域としてCTX-M型優位でAmpC型はほとんどないこと)。 ESBL産生クレブシエラではPTZの感受性は劣るようだ。アンピシリン-スルバクタムもよく使用されるBLBLIだが、スペインではESBL-ECのほとんどは耐性だからか本文献で吟味ない。Vitek自動化システムは、特にCTX-M-15とOXA-1産生大腸菌の場合に、PTZの抵抗を検出するために失敗する可能性があるので注意とのこと。




・著者は6つの公表された前向きコホートからESBL産生大腸菌(ESBL-EC)による血流感染症の患者の事後解析post hoc analysisを行った
・感受性のあるBLBLI(アモキシシリン-クラブラン酸[AMC]およびピペラシリン-タゾバクタム[PTZ])またはカルバペネムで治療された患者の死亡率と入院期間は2コホートで比較:経験的治療コホート(ETC)と根治治療コホート(DTC)
・交絡を多変量解析によって制御
・ETCは103人(BLBLI、72;カルバペネム、31)、DTCは174人(BLBLI、54;カルバペネム、120)。 BLBLI対カルバペネムで治療した患者の30日目の死亡率はそれぞれ、ETCの9.7%対19.4%、DTCの9.3%対16.7%(P>0.2、log-rank検定)
・交絡因子を調整した後、BLBLIによる経験的治療(補正ハザード比[HR]1.14; 95%信頼区間[CI]0.29-4.40 ;P =0.84)、根治治療(調整HR0.76; 95%CI、0.28-2.07、P =0.5)、死亡率増加、のいずれもの間に関連付けはなし

ディスカッション

・粗死亡率は、経験的にカルバペネムで治療を受けた患者で高かったが、これらの患者はBLBLI治療群よりより重症であったかもしれないことを示唆
・BLBLIの潜在的な有効性に関していくつかの疑問が生じる。細菌の高い接種量を使用した場合、ESBLのさまざまな種類を生産する大腸菌に対するPTZの活性がin vitroで著しく低減される
・Zimhonyらは、PTZ治療中に耐性の発達に起因したCTX-M-2、OXA-2産生K.の肺炎による人工弁心内膜炎患者で治療の失敗を報告
・ESBL産生腸内細菌は、TEM-1またはSHV-1の過剰生産などの追加耐性メカニズム、OXA-1の産生の結果 (大腸菌クローン群で頻繁にみられるST 131 CTX-M-15産生)、ポーリン損失(カルバペネムも影響を与える可能あり)などでBLBLI耐性かもしれない
・Pitoutらは、Vitek自動化システムは、特にCTX-M-15とOXA-1産生大腸菌の場合に、PTZの抵抗を検出するために失敗する可能性があると報告、代替の感受性テスト手段を使用することをお勧め
・分離株のMIC とBLBLI投薬用量。確率モデルは、ESBL産生菌に対するPK/PDターゲット(time above the MIC, >50%)を達成するため、4500mg/6時間の使用で、分離株のMIC 16 mg / Lであるときわずか57%の確率と比較して、MICは≤8 mg / Lであるとき99%の確率を示している。
・PTZの高いMICの死亡率の増加を示した
・本研究でPTZの最も頻繁な投与法は4500mg/ 6時間毎であったのに対し、多くの国ではPTZの通常用量はすべて3375 mg/6~8時間毎である
・AMCのための同様の研究ないが、我々のデータは、1200mg/ 8時間毎を各投与量1時間かけた投与で、ほとんどの患者のために適切であることを示唆
・BLBLIを経験療法として使用できるかどうか決定する際は、これら薬剤のローカルの分離株の感受性を考慮に入れるべき。 世界のさまざまな地域のESBL産生-大腸菌でPTZに対する感受性は62%-87%の範囲、一方ESBL産生肺炎桿菌のは26%-47%の範囲
・スペインの最近の全国調査では、ESBL-EC分離株の69%はAMCに感受性であるが、分離株の大部分はアンピシリンスルバクタムに耐性
・本研究の結果は、ESBL-ECによるBSIS、特に尿路及び胆汁管に起因する原因(患者の2/3の感染源)でのみ適用される。 より多くのデータが肺炎などの他の多くの治療が困難な感染症、又はその肺炎桿菌などの他の細菌のために必要。

コメント論文(Clin Infect Dis. 2012 Jan 15;54(2):175-7.)から

・PTZ治療群では、薬物に対するESBL産生大腸菌のMIC≤2mg/Lのとき、感染症に起因する死が発生しなかった
・なぜこれまで、MICが感受性を示す場合でも、ESBL産生菌感染症の治療にBLBLI配合剤の使用して避けてきた?
・まず、細菌の接種量が107コロニー形成単位/ mLに達すると、ピペラシリン/タゾバクタムMICの増加が懸念されている
・さらに菌株によって、AmpC型酵素のような他のβ-ラクタム耐性機構の存在(例えば、CMY-2、FOX-5、ACT-1)、非ESBL酵素の過剰生産と特異的変異(例えば、SHVやTEM)、または、BLBLIsの活性を低下させる他のESBLs
・PK/PD試験では、BLBLIsの従来の用量が十分な成果に関連付けられた"目標"に達成しないことを示している
・ESBL産生菌感染症の治療へのBLBLIs使用に関する出版された文献は限られ、品質もバラバラ

・本研究はBLBLIsで治療した患者のコホートでは、菌血症であるが、むしろ肺炎など高い接種菌量による感染より、主として低接種菌量感染症(尿路の場合)、または外科的介入によって接種菌の減少は達成される可能性のある感染症(胆管の場合)である。 またスペインではESBLsの間で、CTX-Mの優位性(72%)あり、AmpC型酵素の率ははるかに低い(<5%)。よってPTZとAMCはそれぞれESBL産生大腸菌への感受性は89%、69%と保たれている。さらに、本研究者はピペラシリン/タゾバクタムの高用量を投与に気を付けている(4.5gIV、6時間ごとに)
・最後に、本研究は、ESBL産生大腸菌感染症における臨床転帰にMICと抗菌薬投与量の関連を認識している。 MICが&#8804;4 mg / Lであった場合は、経験的にピペラシリン/タゾバクタム4.5gIVを6時間毎で治療された患者の30日目の死亡率はわずか4.5%で、MICが> 4 mg / Lであった場合は23%だった
・薬感受性試験の自動化システムが確実にESBL産生大腸菌でピペラシリン/タゾバクタム耐性を検出しないことがあり、PTZ療法のための前提条件として、MICの決定のためのマニュアルの必要性を課す


参考
Clin Infect Dis. 2012 Jan 15;54(2):167-74. Epub 2011

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