くろにゃんこの読書日記

マイナーな読書好きのブログ。
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赤木かん子 SFセレクション3 宇宙の孤独

2006年09月15日 | SF 海外
フレデリック・ブラウン「ミミズ天使」が読みたい。
すご~く読みたい。
と思って図書館検索をかけたところ、ナイ!
こうなったら、ブラウンなら何でもいいよ。
検索ページに表示されたリストとしばしにらめっこ。
「緑の地球」
なんか、惹かれる。
え?
児童書?
アンソロジー?

このシリーズは、SFというジャンルが映画やコミックに浸透しているのに対して、活字というところでは、子供が読めるような純粋なSFがなくなりつつあるということをかんがみ、編まれた児童向けのSFアンソロジーのようです。
児童書だからといって、馬鹿にしちゃいけません。
訳が子供向けに簡単になるとか、そういったことは一切なく、強いて言うならば文字が大きくてフリ仮名がふってあるくらいでしょうか。
この3巻では、「宇宙の孤独」というテーマにそったものを集めていますが、それと同時に全ての短篇がスペース・ホラーでもあるのです。
いったいどんな短篇が集められているかって?
収められているのは5編。

手塚治虫「安達が原」
最近の骨太のSFコミックというのは、大人向けといった感があるのは否めません。
昔は少女マンガでさえSFを題材にしたものがあったのになぁ。
手塚治虫といえば、最近では小学校や中学校の図書室にさえも「ブラックジャック」や「火の鳥」が置かれているというぐらい、文化的価値が認められていますよね。
図書室にコミックなんて私の時代には考えられませんでしたが。
「安達が原」は、能の「黒塚(安達が原)」を下敷きにしていまして、伝統芸能である能とSFとマンガというコラボレーションが絶妙です。
安達が原の鬼についての詳細はこちらをご覧下さい。
ーあさましや はずかしや わがすがたー
老いた魔女となった女と若いままのユーケイ。
能にしてもマンガにしても、どちらも殺されることが救いになるというのが哀しいです。
情緒にうったえられる1作。

ジョン・ウィンダム「強いものだけが生き残る」「時間の種」創元推理文庫 訳)大西尹明
ジョン・ウィンダムといえば「トリフィドの日」ですが、私は不勉強ものですので未読です。
「強いものだけ生き残る」はおとなしいお嬢さんとして育てられた娘が、新婚の夫について火星に行くわけですが、宇宙船に乗り合わせているのは彼女を除いて全て男性で、宇宙というのがいまだ開発途上であることをうかがわせます。
火星に向かって航行していた宇宙船がトラブルに見舞われ、操縦不可能になります。
主力エンジンに衝撃を与えることで、火星軌道に宇宙船を乗せることには成功しましたが、乗客及び乗務員は救助が来るまで宇宙船に缶詰です。
嵐の山荘ですね。
救援隊は火星からでなく地球からやってくるということもあって
数ヶ月間は宇宙船で過ごさねばなりません。
食料が乏しくなってくると、人間というのは恐ろしいことを考え出すものです。
そのなかで、お嬢さんとして育てられた娘がどうなってしまったか。
妊婦であるとわかった時点で、なんとなく結末も想像がつきますが、「うまうまよ!」という言葉には、背筋がぞっとしました。

クライブ・ジャクソン「ヴァーニスの剣士」「SFカーニバル」創元推理文庫 訳)小西宏
これね、フツーに読めば何これ~~ってなショートショートなんだけど、
バロウズの火星シリーズを知っていると笑えるんですよ。
今の子供たちは「火星のプリンセス」なんて読まないのかなぁ。
このショートショートが発表されたのが北アイルランドの同人誌で、作者の来歴がわからないことから、アマチュアなのかもしれないと編者は言っておられますが、そうだとすると今頃こうやって日本の児童向けアンソロジーに作品が収録されると知ったら、さぞ驚かれることでしょうね。

ロバート・リード「棺」「90年代SF傑作選(下)」早川書房 訳)中原尚哉
「地球間ハイウェイ」はタイトルだけ知ってます。
ホントに不勉強者だわっ。
ある男がニューマーズ星に向けて星間船で出発します。
星間船というのは、ライフスーツを満載した装甲つきの砲弾のようなもの(本文から抜粋)。
ライフスーツというのは個人向けの半永久的な生命維持システムのようなもので、乗客の生命に危険がないか監視し、冷凍睡眠と覚醒のサイクルを調節したり、乗客が退屈しないようにライブラリ(音楽や本、映像娯楽など)を搭載しているけれども外見は「棺」。
男の乗った星間船が彗星に接触。
男はライフスーツごと宇宙に放り出され、宇宙を彷徨うことになりました。
半永久的に。
男とライフスーツのコンピュータは次第にパートナーとしての絆が強くなっていきます。
いくら優秀な生命維持システムがあるとはいっても寿命はきます。
男とコンピュータのとったある計画とは。。。
こういう夢想は好きですね。
それにしても、ジョークを理解するコンピュータってすごくない?

フレドリック・ブラウン「緑の地球」「宇宙をぼくの手の上に」創元推理文庫 訳)中村保男
「緑の地球」というタイトルですが緑の地球は一度も姿を見せません。
菫色の空、真っ赤な大きな太陽、褐色の茂みに褐色の平原、そして赤い密林。
想像するだけでも気が狂いそうなその星に宇宙船の墜落という不運によって
唯1人の住民となって長いマックギャリー。
そこに一隻の宇宙船がやってくるのですが。。。
さすがブラウン、サイコです!
常軌と狂気の入れ替わりが素晴らしい。

児童向けのアンソロジーですが、新しい作品は一つだけで、ほとんどが過去の作家。
私達のような親の世代が馴染みのある古いものが多く、訳もそのまま。
有名なものというよりは、ちょっとマイナー系ですよね。
そういったところが、編者のマニアぶり、、、じゃなかったセンスを感じます。
子供と一緒に、昔SF好きだったお父さん、お母さんも楽しんでみては如何でしょうか?

宇宙の孤独





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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こ、このシリーズは…… (Takeman)
2006-09-15 17:14:38
子供たちにトラウマを与えてやろうというような編者の邪悪な意志が感じられるアンソロジー集でしたね。

どのシリーズにも救いのない話が一つは収録されているというとんでもないシリーズなんですが、特に「SFセレクション 5 地球最後の日」のセレクションは素晴らしすぎて感動しました。

もっとも私が子供の頃読んだSFはこんな毒のある話ばかりだったので、このくらいの毒があるほうが楽しいんですけどね。

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救いがない! (くろにゃんこ)
2006-09-16 00:49:05
あはは。

そうですね。

このシリーズ3なんて、どれ一つとして救いがない。

私も最初は、これを子供に読ませるのか、、、と思いましたが、考えてみれば昔私達が読んだSFというのは、こういうものが多かったような気がします。

「夏への扉」がいつまでも人気があるのは、未来への希望をアメリカ的に能天気なほどに信じているところかと思いますが、こういう人間の根深いところを子どもたちに教えておくのも、また必要なのではないでしょうか。

いいところばっかり教えるのは、やはり片手落ち。

編者は児童文学にも通じているようですし、そういうこだわりもあるのではと勘ぐったりして。
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戦慄のアンソロジィ (迷跡)
2006-09-16 07:24:01
子供向けのアンソロジィにマニアックな「ヴァーニスの戦士」!

でも、案外スター・ウォーズのパロディとして楽しむことができるのかもしれませんね。最近では「”星シリーズ”と”レンズマン・シリーズ”が共に創元SF文庫から復刊されて懐かしかったです。

それにしても手塚「安達が原」もけっこうグロテスクだったような…。戦慄のアンソロジィですね。
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そうかスターウォーズってのもあったか (くろにゃんこ)
2006-09-16 23:44:47
「安達が原」、グロテスクではありますが、魔女を絶対悪とはせずに、能における鬼の哀しさを捉えていて凄いなぁと思いました。

ロマン主義の香りがちょっとします。

このアンソロジーでは、一冊のなかに一つはコミックがありまして、1集『時空の度』では佐藤史生「金星樹」が入っています。

これまた編者のこだわりを感じます。

そうそう、2集『ロボットVS人類』では、古田足日「アンドロイド・アキコ」も入っているんですよ。

子供が読んで面白いと思ってくれるかどうかわかりませんが、大人の方がおおっとくるアンソロジーではありますね。
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テーマ別 (kazuou)
2006-09-17 00:12:43
懐かしの1940~50年代の名作SFばっかりを集めたアンソロジーなのかと思いきや、ロバート・リードの作品なんかも入っているところが、なかなかいいですね。

このシリーズ、詳細はよく知らないのですが、それぞれの巻はテーマ別なんでしょうか? かっての福島正実編のテーマ別アンソロジーシリーズが大好きだった身としては、ちょっと興味が湧きますね。

ちなみに〈宇宙の孤独〉で思い浮かべる作品といえば、やっぱりトム・ゴドウィンの『冷たい方程式』でしょうか。あと個人的に思い入れがあるのは、ジェイムズ・イングリス『夜のオデッセイ』という作品。人間は全く登場せず、宇宙空間を漂う探査挺だけが淡々と描写される作品ですが、何やら寂寥感漂う名作だと思います。
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そうです (くろにゃんこ)
2006-09-17 10:52:11
全7巻で、4集『科学者たちの陰謀』5集『地球最後の日』6集『変身願望~メタモルフォーゼ』7集『未来世界へようこそ』と続きます。

海外作家ばかりでなく、日本の作家、それもSFジャンルにこだわらずに小川未明、大海赫なども取り上げられていて、面白いセレクションです。

図書館には全てありますから順番に読んでいこうかと思ってます。

宇宙というのは、隔絶された究極な状態を作るのにうってつけの場所。

私が思い浮かべる宇宙の孤独&スペース・ホラーはレム「テルミヌス」でしょうか。
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ご存知かもしれませんが・・・ (つな)
2006-09-24 22:32:29
連投、失礼致します。

私、フレドリック・ブラウン自体は未読なのですが、坂田 靖子、橋本 多佳子、波津 彬子の三名の漫画家が、漫画化した「フレドリック・ブラウンは二度死ぬ」という本を読んだ事があります。

この中に「ミミズ天使」が載せられていて、おもしろーい!、と思ったのでした。その他、この漫画本の中に載せられているものとしては、へんてこ惑星を舞台にした、「プラセット」が面白かったです。

いつか、元本を読んでみなくては、と思いつつ、未だ果たせておりません・・・。
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いえいえ、何度でもOKですよ (くろにゃんこ)
2006-09-24 23:45:57
「フレドリック・ブラウンはニ度死ぬ」は私も読んでいます。

面白いですよね~~。

私が一番印象に残っているのは、やはり「ミミズ天使」。

ミミズに羽が生えていてワッカがついているなんて、、、素敵すぎます。

あるブログで、この話題になり、急に原作が読みたくなりました。

私も果たしていませんが(泣)

いつかきっと、読める日が来るさっ!
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Unknown (今時めずらしいSF好き高校生)
2013-01-18 18:28:27
懐かしいなぁ…

この本は小学生の時に図書室で読んでそれからというものSFにどっぷりですねw
幼い頃からたくさん映画を見ていたんですが、本はあまり読んだことがなく感動したもんですw
感動と同時にトラウマにもなったんですけどねw
こういう内容って怖いけど中毒性があります

久しぶりに読んでみたいと思い図書館で探すんですが全然見つからない…
ということで短編をバラバラに探してなにがなんでも全部よみなおしてやる!と思い作者を調べるのにここにたちよったのですが結局見つからなかったです…ガクリ
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