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月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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コル・カロリ

2013-01-23 07:23:04 | 詩集・瑠璃の籠

月の岩戸の中はとても静かだ
ひとりでいることは心地よい
プロキオンは 必要のないときには
決して鳴かない
きっと 今のわたしには静けさが必要だと
考えているのだろう

などということを思っていたら
何かしらにぎやかな歌が聞こえる
ずいぶんと楽しそうだと
小窓を振り向いたら
一つの星がもう中に入ってきていた
星はさもおかしそうに言ったものだ

やあ チャールズの心臓が
ダイアナのところにやってきた

星は この冗談が
言いたくてたまらなかったらしい
自分で言って 自分で笑っていた
ついでに冗談の解説もしてくれた
星の名は コル・カロリといい
それは「チャールズの心臓」という意味なのだそうだ
そしてダイアナは月の女神だから
月の岩戸に住むわたしのことを言うのだという

ああそういえば わたしは女性だった
ひとりでいると うっかり忘れそうになる
コル・カロリは小さな首飾りをもってきてくれた
それは透き通った小さな石を編んで作ったもので
もっているだけで わたしの傷んだ骨にきくという

わたしが礼を言って受け取ると
コル・カロリはうれしそうに言った
女性に贈り物をするというのはいいですねえ
きょうはじめて 
あなたのこの世の仮の姿を見たけれど
ほんとうにかわいいな
なにかしてあげたくなるなあ
いえね わたしはあなたの
本当の姿を知っているけれど
そんなに小さくてかわいくないんですよ
こんなにかわいいあなたなんて 信じられない
ほんとに信じられない

コル・カロリはおしゃべりだ
わたしは 何度もかわいいといわれるのを
少し不快に感じたが なんとなく 
何かがわかるような気がしたので いった

そういうあなたは まったくかわらない

いやまったく とコル・カロリは笑いながら言った

女性というものは いいものだ
と コル・カロリは言った

なんでも いいことをしてあげたくなる
それだけで 幸せになる
女性もまた いいことをしてくれますからねえ
とはいいつつも あなたは
ちっとも女性らしくない女性ですが

よくおわかり とわたしは言った

チャールズも ダイアナを
もっと大事にすればよかったのに
そうすればいいことがたくさん
おこったのに

コル・カロリが ふと声を低くして言ったので
わたしは深くうなずき
まったくそのとおり と言った

にんげんのおとこに
教えてあげたいことがありますよ
おとこがなんとかやっていけるのは
女性がすべてを愛で許してくれているからだと

コル・カロリは言った
そして悲しげな微笑みを見せた

彼は岩戸にいる間
ずっとわたしに楽しい思いをさせてくれた
冗談をたくさん言って
わたしのいろんなところをほめてくれて
あいしている だいすきだと
言ってくれた
本当に まるで恋人のように

プロキオンがいなければ
彼はわたしを抱きしめさえしかねなかった

おかげで 彼がいなくなると
岩戸は急にさみしくなった
するとプロキオンが静かに歌いだした

ああ こうして
みなが わたしをだいじにしてくれる
ということは わたしは今
そうとう大変なことになっているのだな



コメント (1)
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