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月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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エルナト

2013-01-20 07:28:09 | 詩集・瑠璃の籠

ある日 わたしが
表の部屋で相変わらず
書き物に熱中していると
誰か声をかけるものがいた
ふりむくとまた 星がいて
自分はエルナトだと名乗った

エルナトは言った
自分はおうし座とぎょしゃ座の
両方にいるのだが
一応おうし座の星ということになっている
けれどもわたしがいないと
ぎょしゃ座の宮の人手が足りないので
こうして定期的に
おうし座の宮とぎょしゃ座の宮との間を
往復しているのだという
今日はその移動の途中で
たまたま月の岩戸の近くを通り
見舞いに訪れたのだという

それはそれは 大儀にありがとう
わたしは言った
エルナトはわたしの姿を見て
ため息をつきながらしみじみと言った

ずいぶんと人間にやられましたねえ

そうですか とわたしは答える
別に そう痛くはありませんよ
するとエルナトはだまりこみ
一粒の沈黙に目を沈めて言った

どうしてそこまで 人間のためにやるのですか

わたしはわらって答えた
ずいぶんと昔のことですが
こういうことがありました
わたしはまじめですなおで
生きるたびにいいことをたくさんしてきたので
神さまが ひとつだけ
願いをかなえてやると おっしゃったのです
それでわたしは言ったのです

それならば どうか 人類を助けてください


それを聞いたエルナトは
まるであんまりだというように
目を見開いて
複雑な笑いをしながらわたしを見つめた
わたしはつづけた

神は約束をたがえませんから
必ず わたしの願いはかなうのです


あなたときたら
まるで少女のようだ

おや 彼の声がする
どこから聞こえてくるのだろう

そう思ったわたしは
小窓の方に行って外を見たが
誰の気配もなかった
ただ 窓辺にはやはり
一輪の青い百合がおいてある

ああ やはりあなただったのですね
そういいながら わたしは百合を手にとり
窓から首を伸ばして空を見ながら
どこかに彼の翼の音がありはしないかと
耳を澄ました

背中の方で エルナトが小さく何かをつぶやいて
ゆっくりと姿を消していくのが
気配でわかった



コメント (1)
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