人々よ
春の次に 秋が来る
炎の竜が 夏の帳をひき
無理矢理時の向こうへ飛ばしてしまった
しかし 秋の向こうの冬はやってくる
氷の棘の鎧をまとい 水晶の剣を持ち
燃えるような紅葉の木かと思ったら
それは炎に燃え上がる林檎の木であった
竜はその燃える林檎の実をとり
人々に食えという
それを いやといってはならない
にげてはならない
無理にでも 飲み込むのだ
林檎はおまえの喉を焼き
胃の腑にミミズの群れのような赤いケロイドを作る
その痛みはいかなるものであろう
だが人々よ その林檎は飲まねばならぬ
人々よ
彼 炎の竜は
おまえたちに
「馬鹿めらが」というだけで
お前たちを砕くことができる
人々よ それを信じざるを得ない光景を
いずれあなたがたは見ることであろう
ああ その驚きと痛みを思う時
わたしは苦しむ
だが 鞭の愛は君たちを導いてゆくことだろう
正しき道へと
炎の竜はやってくる
だが今からでも遅くはない
神の前に頭を垂れ
自らの過ちを悔み
許しを請いなさい
(『炎の竜』 詩・篠崎什)
*
篠崎什、詩人、年齢不詳。相当な年齢のはずだが、姿は若く見える。年を経るに従い、美しくなり、もはや外見だけでは性別を判断できなくなった。あれは人間ではないと、ささやく者もいる。彼の名は詩人として国内外で多くの人に知られるようになったが、それは詩の美しさもさながら、彼自身の美しさのせいでもあった。本人はそれを知らなかった。そして、静かにも詩作にひたる自分の単調な生活が、影の血脈で、どのような恐ろしい嵐とつながっているかも、知らなかった。彼はそこに生き、存在しているだけで、強烈な霊圧差を地球上に生み、地球世界の霊的虚偽を猛烈に浄化する嵐を起こしていた。生きているだけで彼は地球に奇跡を起こしているのだ。
そして彼の発表した詩集もまた、静かな魔法を地球上に起こし始めていた。何もかもがはっきりと現実に見えてくるのは、たぶん、篠崎什が死んでからだろう。
なお、るみは、篠崎什の母親が亡くなった年に、布団を一組と、大きなカバンを二つ持って、篠崎家に乗り込み、そのまま住みついた。押しかけ女房という形だが、その日以来家事一切を引き受けてくれるるみに対し、とうとう什も折れて、籍を入れたそうだ。
彼らの結婚生活に関しては、いろいろと面白いエピソードがあるのだが、煩瑣になるので省く。想像してみると、よくわかると思う。