岩戸の中は 狭いが暖かい
小さな窓が ひとつきりあって
窓辺には
星の入った小さな鳥籠をつるしてある
星はときどき ちるちると歌って
私のわれた頭骨の割れ目を
丁寧につくろってくれるのだ
ああ よく見れば
ほんとうにわたしは
たくさんのところが
壊れている
指は溶けてなくなっているいし
手や足の骨はやせ細って葦の茎のようだ
赤い心臓には 氷の棘が無数に刺さっている
棘をとらなければいけないなと思いつつ
書き物などに夢中になって放っておいたら
ある日 窓のガラスをたたく音がした
青く光るものがやってきて
わたしはリゲルだと名乗った
小窓に行くと リゲルはちらちらと光りながら
不思議な旋律を一節歌って 言ったのだ
薬の歌を 琴に教えておきましたから
琴を鳴らしてください
苦しいときは 琴を鳴らしてください
そういうと 青いリゲルは静かに空に去って行った
わたしは琴を鳴らしてみた
すると琴は 不思議な旋律を奏でた
それを聞いていると
遠い遠い昔 黒い鶏の子宮の中で
縛られて動けなかった
子供のころのことを思い出した
悲しみが涙に溶けて
黒い油のようにぼたぼたと床に落ちた
すると心臓の棘が一本抜けて
それは一輪の赤い椿の花に変わったかと思うと
すぐに消えていったのだ
少しずつ 直していきましょう
わたしに語りかけるのはどなただろう
一本ずつ 棘を抜いていきましょう
あなたは 大切な人
あなたは
また 窓辺で音がした
急いで小窓にとりつくと
青い百合が一本 おいてある
もうだれも あなたを傷つけはしない
百合は風となって姿を見せてはくれない人のことばを
確かにわたしに伝えてくれた