ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

福島原発事故による妊婦・授乳婦への影響について

2011年03月21日 | 東北地方太平洋沖地震

****** 日本産婦人科医会ホームページより

http://www.jaog.or.jp/News/2011/sinsai/fukusima_0319.pdf

平成23 年3 月19日

日福島原発事故による妊婦・授乳婦への影響について

社団法人日本産婦人科医会
会長 寺尾 俊彦

3 月11 日に発生した東日本大震災で被災した福島第1原子力発電所の連続事故による、放射線被ばくを避けるために、その周囲20 キロ圏内の住民に避難指示、20 キロから30 キロの圏内の住民に屋内退避の指示が出ています。

このため、妊産婦や、授乳婦そして、新生児、乳幼児に対して、放射線被ばくを心配する声が上がっています。

しかし、放射線被ばくによる影響は、事故が起こった場所からどれだけ離れているかによって、異なります。

現時点で報道されている被曝線量では、原発のすぐ近くで大量に被曝した場合は別として、妊婦、胎児、授乳等には特に悪影響を及ぼさないレベルであると考えられます。

誤った情報や風評等に惑わされることなく、冷静に対応されますようお願い申し上げます

1. チェルノブイリ原発の大事故でも、避難距離は50 キロでした

レベル7であった史上最大のチェルノブイリ原発事故の時でも、約50 キロ離れていれば、健康を守るのに十分であったと記録されています。今回の、レベル5と判断された、福島原発事故では、50km 以上離れた地域での放射線による健康被害の可能性はほとんど考えなくてよいでしょう。また、現在、総線量100 ミリシーベルトを超えないように、避難・屋内退避などの指示が出されていることから、30km以上離れていれば、健康被害はないと考えられます。

2. 被曝線量は、数値だけでなく単位が大事です。単位を確認してください

報道の多くは、線量の単位として、人体への放射線の影響度を示す‘1 時間あたりのシーベルト(Sv/h)’を使用しています。

例えば、100 マイクロシーベルト/時間の放射線を10 時間被曝すると、総被曝線量は1,000 マイクロシーベルト(= 1 ミリシーベルト)になります。これに対して,産婦人科診療ガイドライン等は、放射線エネルギーの総量(吸収線量)を示すグレイ(Gy)を単位として使用しています。今回は、1 グレイ=1シーベルト であると理解してください。また、1,000 マイクロ = 1 ミリ です。

3. 100 ミリシーベルト(おおよそ100 ミリグレイ)以下では、被害はありません

胎芽・胎児への影響は、妊娠週数と被曝線量によりますが、器官形成期(妊娠初期)であっても100 ミリシーベルト(おおよそ100 ミリグレイ)以下の被曝線量であれば問題はありません。

一方、人体(妊婦・授乳婦を含む)は、年間およそ2.4 ミリシーベルトの自然放射線を被曝していますが、一度に数百ミリシーベルト以上を被曝した場合は人体に影響(急性障害:吐き気・嘔吐、リンパ球減少など)する場合があります。

防災体制の基準としては、原子力発電所で0.5 ミリシーベルト/時間(500 マイクロシーベルト/時間)以上の被曝が予測される場合に、緊急事態が宣言されます。その周囲については、総量10~50 ミリシーベルトの被曝が予測された時点で屋内待避、総量50 ミリシーベルト以上が予測された時点では避難となります。

国からの情報は、多くの機関から監視されており、正確な情報が伝えられていると評価されますので、上記の基準により、現時点での避難勧告等が出ているのです。

4. 万一被ばくした場合の被害

チェルノブイリ原発事故後20 年の経時的調査による国連のレポートによると、この事故により、子供の時にミルクを飲んで被曝した人たちの甲状腺がんが著明に増加しましたが、白血病や先天異常児等は増えなかったと報告されています

この甲状腺がん増加の原因は、放射性ヨードに汚染された空気を吸い込んだり、汚染された草を食べたりした牛のミルクに、放射性ヨウ素が多量に含まれていたためです。

5. 甲状腺がんの予防対策

原発事故等で、放射性ヨード等の放射性物質に暴露された場合は、甲状腺への放射性ヨードの取り込みをブロックできるヨウ化カリウムの予防投与が推奨されています。

具体的には、50 ミリシーベルト以上の被曝があった場合、妊娠中・授乳中の女性も含め、40 歳未満の人に、ヨウ化カリウム(50mg)丸薬を2錠、1 回のみの予防投与が勧められます。

副作用は、胎児や新生児ではヨウ化カリウムによる甲状腺機能低下症、成人ではヨウ素過敏(アレルギー反応)、甲状腺機能抑制などです。

ヨウ化カリウムの授乳への影響は、短期間であれば問題ありません。

******

なお詳細につきましては、日本産科婦人科学会ホームページに3 月16 日付で掲載の「福島原発事故による放射線被曝について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内(特に母乳とヨウ化カリウムについて)」を参考にしてください。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
妊娠6ヶ月目の者です。 ((投稿者名なし))
2011-03-23 12:13:19
大変ありがたい情報をいただきました。

現在、東京に職場で神奈川在住ですが大変安心いたしました。
返信する
はじめまして、石山と申します。 (石山和貴)
2011-03-25 00:16:09
情報が色々あり判断に迷い、
質問させて頂きます。
私には妊娠2か月(5週目くらいなのでしょうか)の妻がいます。まだ心拍の、確認はとれてない段階なのですが、松戸市に住んでおります。
放射能や問題の水道水等がどの程度、
妊娠初期に影響があるでしょうか。
真剣に関西に避難すべきか考えております。
宜しくお願いします。
返信する
日本産婦人科医会ホームページの情報および日本産... (管理人)
2011-03-26 08:51:08


****** 以下、抜粋

軽度汚染水道水を妊娠期間中(最終月経開始日より分娩まで)毎日(計280日間)1.0 リットル飲むと仮定した場合、妊娠女性がその間に軽度汚染水道水から受ける総被曝量は1.232 ミリシーベルトと計算されます。

胎児に悪影響が出るのは、胎児被曝量が50ミリシーベルト以上の場合と考えられています。

なお、日本産科婦人科学会では放射線被曝安全限界については米国産婦人科学会の推奨に基づいて50ミリシーベルトとしてきております。

一方、これら問題に関する国際委員会の勧告(ICRP84など)に基づいて安全限界を100 ミリシーベルトとする意見もあります。

この違いは他の多くの安全性指標と同様、安全域をどこまで見込むかという考え方の違いによるものです。

なお、胎児の被曝量は、母体の被曝量に比べて少ないとされています。胎児が100~500 ミリシーベルトの被曝を受けても胎児の形態異常は増加しないとの研究報告もあり、ICRP84 は「100 ミリシーベルト未満の胎児被曝量は妊娠継続をあきらめる理由とはならない」と勧告しています。
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 福島原発事故が0.63エクサベクレルの放射性... (津波)
2011-04-16 17:48:43
 チェルノブイリでは事故当初に203人が入院し、内31人が死亡した。しかし当初は予測されていなかったが、その14年後には事故処理交代作業員86万人中の74万人が何らかの病気に罹り、内5万5千人が死亡した。ウクライナ国内の被曝者総数は342万人に上ると言われている。そして25年経った現在も周囲30キロ圏は放射能の為に立ち入り禁止が続いている。
 従って単純計算では、今回は事故作業員の内9万人が病気に罹り、内6千人が死亡し、国内の41万人が被曝すると考えられる。早急に福島原発病院を作り、継続的な被曝計測とガン検診と治療を行なう必要が考えられる。
 また今回は元凶の核燃料を抜く作業に5年、完全な廃炉に10年かかると発表された。同様に長期に渡り立入禁止区域になると考えられる。
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