ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その6)

2008年11月03日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

東京都内の場合だと、総合周産期母子医療センターが9病院、地域周産期母子医療センターが13病院指定されていますし、周産期母子医療センター以外にも緊急母体搬送の受け入れが可能な大病院が多く存在します。『この地区であれば、最終的にはこの病院が受け入れる』というようなだいたいの流れは当然決まっていると思われますが、どの病院もぎりぎりのマンパワーで毎日多くの緊急母体搬送を受け入れてますから、病院によっては、例えば、『たまたま直前に他の母体搬送を受け入れたばかりで、これから緊急手術を開始するところなので、誰も手が空いてない』というような場合もあり得ます。そういう場合は救急車が出発する前に、受け入れ可能な施設を数ある候補の中から何とかして探し出す必要があります。そこで、『現時点でどの病院が緊急母体搬送の受け入れが可能な状況なのか?を多くの病院に次々に電話で問い合わせて、搬送先決定までに手間取る』という事態も起こり得るわけです。

周産期医療の搬送システムは、主に胎児疾患や新生児疾患への対応を主軸にして構築されています。母体の偶発合併症の場合は、それぞれの状況に応じて、救命救急医、脳外科医、整形外科医などの一般の救急医療にかかわる専門医達と周産期医療にかかわる専門医達とが一緒に対応しなければならないので、周産期医療の患者搬送システムと救急医療の患者搬送システムの連携も必要となります。多くの選択肢がある中で、受け入れ可能な施設をスムーズに探し出す仕組みを整備する必要があります。11月1日に東京で開催された「わが国のお産のあり方を考える」公開市民フォーラム(主催:日本産科婦人科学会の厚労省研究班)でも、そのことについて熱い議論がありました。

地方の場合は事情が大きく異なります。例えば長野県の場合だと、胎児疾患、新生児疾患を受け入れる3次施設は県内に1カ所(県立こども病院)、母体疾患を受け入れる3次施設は県内に1カ所(信州大病院)のみで、各医療圏の周産期や一般救急の搬送を受け入れる2次施設もほぼ1カ所づつしかありません。他に選択肢がないため、搬送先の病院は自動的に1カ所に絞られ、搬送先の病院を探し出す作業で苦労するということはまず起こり得ません。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

****** 共同通信、2008年11月4日

崩れた『砦』 妊婦受け入れ拒否

こんな大都会でなぜ... 週末は悲劇への"谷間" 

 10月4日、土曜日の夕。東京都江東区にある「五の橋(ごのはし)産婦人科」の院内は、緊迫した雰囲気に包まれていた。

 「痛い、痛い!」

 頭を抱えて七転八倒する妊婦(36)。かかりつけの同医院に自宅から救急車で運ばれて来たが、尋常ではない容体に医師は手に負えないと判断。必死で搬送先を探すが、複数の病院に次々に収容を拒否された。

 二度にわたる要請の末、同医院からわずか1キロ先の都立墨東(ぼくとう)病院に搬送されたのは1時間18分後。当時、産科には当直に入った30代の男性研修医ただ1人。「週末は原則として急患の搬送を受け入れていない」といったんは診察を拒んだ。

 妊婦は脳内出血だった。男児を出産したものの、意識を取り戻すことなく3日後に亡くなった。

 受け入れを拒否したのは8病院。うち墨東病院を含む3施設は24時間態勢で緊急処置が必要な妊婦を受け入れる総合周産期母子医療センター。いわば「最後のとりで」だった。

 それから3週間。厚生労働省で多くの報道陣を前に、夫(36)がやり切れない思いを吐露した。

 「なんで文明や医療の発展した都会で、死にそうに痛がっている人間を誰も助けてくれないのか...」

 地方に比べ医師も多く、医療機関も整備されているはずの首都・東京。医療界からは「背景にあるのは医師不足」との声が続出した。

 産科医らでつくる「周産期医療の崩壊をくい止める会」の事務局長を務める上昌広(かみ・まさひろ)・東京大医科学研究所准教授は言う。「周産期医療のとりでを研修医1人に任せっ放しにした病院や都の責任は重い」

 都内に9施設ある総合周産期母子医療センターの中で、唯一の都立病院である墨東病院の産科医は、5年前から定数割れに陥っていた。数年前に東大の医局が医師を引き揚げてからは、人員確保に四苦八苦していた。

 「医師の間では、激務に見合わない待遇の悪さに不満の声が続出していた。今年6月末に1人が退職して3人となり、いよいよ週末の当直を1人にせざるを得なかった」と関係者。

 都は2月、江戸川区医師会など地元3医師会から産科医を補充するよう要請を受けていたが、なんら対応が取られないまま悲劇が起きた。

 「これはレアケース。万々々が一の事態は想定しにくい」。石原慎太郎(いしはら・しんたろう)知事は記者会見でそう強調した。

 妊婦の受け入れ先探しに当たった五の橋産婦人科の塩野結子(しおの・ゆうこ)医師は「まさに谷間に当たってしまった」と振り返る。その"谷間"でいったい何があったのか、真相は不透明なままだ。

   *   *   

 東京で起きた妊婦受け入れ拒否問題は、産科医療が直面している課題をあらためて浮き彫りにした。背景にある事情を探った。

ほころび次々と 伝達、ネット検索

 墨東(ぼくとう)病院「脳内出血が疑われるとの情報は当直医に伝わらなかった。重症度を認識していれば、お受けした」

五の橋(ごのはし)産婦人科「頭を抱え痛い痛いと言っていることをちゃんと伝えた」

 死亡した妊婦の搬送要請をめぐっては、医療機関同士の対話の不十分さが浮き彫りになった。

 問題が表面化した10月22日、都立墨東病院と妊婦のかかりつけ医院が別々に記者会見して経緯を説明。墨東病院側は妊婦の状態が正確に伝わっていなかったと主張したが、かかりつけの「五の橋産婦人科」は緊急性を訴えたと明言するなど、双方の言い分が大きく食い違う。

 その2日後、舛添要一厚生労働相は自ら墨東病院に足を運び、事態の深刻さをアピール。国として異例の聞き取り調査に乗り出した。

 調査でやり玉に挙がったのが、緊急処置が必要な妊婦の搬送先をインターネットで検索するシステムだ。

 都内には「総合」と「地域」の周産期母子医療センターが計22あり、相互にネットワーク化して病院ごとの受け入れ状態が検索できる。

 墨東病院で当直していた研修医は、最初の要請を断った際、このシステムを使い東京慈恵会医大病院など3病院が「収容可」と確認、五の橋産婦人科側に伝えた。しかし同医院がこれらに電話をすると「新生児集中治療室が満床」などを理由に相次いで拒否された。

 「なぜ画面の更新がなされず、最新の診療態勢が反映されなかったのか。3時間にわたる調査の間、役人の質問はシステムの機能に終始した」

 墨東病院関係者は、厚労相の指示で行われた国の調査の一幕を明かす。「ハード面にしか関心が向かないことに『検索システムなんてナンセンスだ』と声を荒らげる医師もいた」

 今回の背景として、東京特有の"落とし穴"を挙げる人も。

 「東京は(8つに)地区割りされ、それぞれに総合周産期センターが1つ以上ある。各地区内では最終的に総合センターが急患を受け入れるはずだが、駄目な場合はよそ(の地区)に回すことができる。このシステムがうまく機能しているかどうかの実態を今まで誰も評価していなかった」

 墨東病院で2001年まで周産期センター産科医長を務め、地元にある三枝(さいぐさ)産婦人科医院で副院長をしている升田春夫(ますだ・はるお)医師はそう指摘する。

 周辺にセンターがない地域では「最後のとりで」が、「ほか」をあてにすることは許されない。

 升田医師は言う。「東京は(環境が)恵まれているのに、都はシステムを改善しなかったり悪いまま放置して知らん顔をしていた」

問われるERとの連携 役割に理解進まず

 「産科医不足というよりも、ERの機能がうまくいっていなかったのではないか」

 今回の問題について、医療現場ではそんな声が出ている。

 ERは「救急治療室(エマージェンシー・ルーム)」を意味し、24時間、診療科を問わず急患を受け入れ、初期診療に当たる。

 救急医療の充実を目指す東京都の石原慎太郎(いしはら・しんたろう)知事は「東京ER」と銘打ち、これまで3つの都立病院にERを新設。悲劇の現場となった墨東(ぼくとう)病院はその第1号で、救急に関する高度な専門機能を備えていた。

 二度目の要請で墨東病院に妊婦が運ばれた際、総合周産期母子医療センターの当直医はERに連絡、頭部の検査で頭蓋(ずがい)内出血が確認された。院内で当直中の脳外科医も駆けつけ、共同で処置に当たった。

 しかし最初の要請段階では緊急性を認識せず、こうした連携をとらなかったという。

   *   *   

 数カ月前。ERを置く中部地方の総合病院に、救急隊から連絡が入った。

 「ひどい頭痛で、意識がもうろうとしている妊婦を搬送したい」

 緊急の帝王切開も考慮しなくてはならないが、院内の産科医は手術中で対応できない状況。

 「とにかく母体を守る必要がある」。そう考えたER医は要請を受け入れた。診察で脳内出血だと分かった。

 幸い出血は限定的だった。ER医は初期的な措置を取った上で、転送先の病院を探した。なかなか見つからず、手術中の産科医にも協力を要請。産科医はオペを中断、自ら電話をかけて受け入れ先を探した。搬送から数時間が経過していたが、妊婦は転送先で無事に赤ちゃんを産み、一命を取り留めた。

 しかし、この総合病院では「最終的な治療を院内でできない状況での受け入れは、適切だったのか」とER医の対応を疑問視する声が出ている。

 北米をモデルにしたERの機能は、日本ではまだ十分に理解されていないのが実情だ。

 初期診療に特化し、手術などが必要な場合は専門科に送るという役割に「最終的な責任を負わないのはおかしい」「通常業務で忙しい他の診療科に負担をかけるだけ」などと批判が根強いという。

 舛添要一厚生労働相は、ERと周産期医療の連携を充実させる意向を表明。しかし、救急医療の現場で働くある若手医師は懸念を示す。

 「現状ではER医が専門科の医師に遠慮して、患者の受け入れを拒む事態も起こり得る。診療科ごとの縦割り意識も強く、連携は容易ではない」

(共同通信、2008年11月4日)

****** スポーツ報知、2008年11月3日

都の対応間違っていた“妊婦たらい回し”、私を批判した石原都知事は赤っ恥かいた

 先月、脳出血を起こした妊婦が、都立墨東病院など8病院に受け入れを拒否され死亡した。この問題への対応をめぐり、舛添要一厚労相(59)と石原慎太郎東京都知事(76)が対立。互いへの激しい非難合戦に発展した。舛添氏は「都の対応が間違っていたのは、証明されつつある。私を批判した知事は赤っ恥をかいた」と強気な姿勢を崩さず。まだまだ、論戦は続きそうだ。一方で麻生太郎首相(68)の消費税率アップ発言には「議論すべきことで、適切な提案」と期待感をにじませている。

 ―病院施設が充実されていると思われた東京で、妊婦が“たらい回し”されて亡くなった。
  「大変にゆゆしきことだ。墨東病院は今年7月から、週末の当直医は1人きり。しかも、研修医という状態だった。考えられない。根本的な問題は医師不足。過去10年以上にわたり、厚労省は『医師は余っている』と言い続け、歴代大臣も何もしてこなかった。私が大臣になって対策を講じてきたが、医師の育成は10年はかかる。その矢先に、こんな問題が起きてしまった」

 ―石原知事と対立は。
  「私はあくまで都の対応を指摘しただけ。都知事を名指ししてないのに、知事が一人で熱くなって、マスコミがバトルに仕立て上げたんだ」

 ―なるほど。
  「そもそも、墨東病院は『総合周産期母子医療センター』という全国に74か所ある施設の1つで、国が補助金を出している。だが、地元の医師会が墨東の体制がひどいから、改善をするよう東京都に申し入れていたのに、都はずっと放置してきた。さらに、今回の問題が報道で明るみになるまで、厚労省に報告していなかった。だから私は『東京都に任せられない』と言ったんだ」

 ―知事の意見に納得できたのか。
  「国と都のどちらの言い分が正しかったか分かってきて、メディアは都批判に回りつつある。今回の妊婦の遺族が、どこで会見したか? それは厚労省だ。都立病院で起きた問題なのに、都庁ではなかった」

 ―つまりは。
  「遺族は都に抗議の意思を示す意味があったと思う。勝負はついたでしょ。知事はあんな発言をして、今、赤っ恥をかかされている。知事は行政のあらゆる分野に目を向けなければならないが、少なくとも医療分野に関しては、私の方が知識は豊富だ。都の役人の受け売りだけでなく、自らの目で事の本質を見ないと。医師不足に関して、国も改革を進めているのだから、都も都立病院の再編など、できることはあるはずだ」

 ―麻生首相が先月30日に、衆院解散・総選挙を当面見送る方針を示した。
  「最大の問題は世界的な経済情勢にある。100年に一度あるかないかの金融恐慌が起きるかもしれないという時に、経済大国の日本が総選挙をやっている場合か、ということになる」

 ―逆にいつ解散するのがベストなのか。
  「それも大変判断が難しい。公明党との協調関係もあるし。世界経済の情勢がこんなに悪いと…今後の状況を見守るしかない」

 ―麻生首相は3年後の消費税率アップについて言及した。
  「私は厚労相になる前から、社会保障の財源をしっかり議論すべきと主張してきた。首相の発言は適切な提案だ。税率が10%を超えて、2ケタになる場合は、ぜいたく品と日常の必需品に分けて複数税率にすべきだ」

 ―選挙前の増税論はタブー視されてきた。
  「日本は低い負担で中程度の福祉を実現してきたが、限界に来つつある。それ相応の福祉水準を求めるならば、見合った負担は必要。税率が1%上がれば2・5兆円の増収になる。こういう事情を率直に訴えて、選挙を戦う時期に来ているのではないか」

 【石原知事の厚労省批判】妊婦死亡問題の発覚直後に、舛添氏は「妊婦死亡から2週間以上も厚労省に報告が上がってこないのはどういうことか。都に任せていられない」と都批判を展開した。

 舛添発言の翌日に、石原知事は「医者の数を増やすのは国の責任だ。東京に任せてられないんじゃない。国に任せてられないんだ」などと反論。さらに「(舛添氏は)墨東病院を視察して事態を聞いた後で、話がトーンダウンした」「あの人、年金の問題も大見え切るけど、いつも空振り。けしからん役人を代弁しているみたいな印象にしか映らない」と批判した。

(スポーツ報知、2008年11月3日)

****** 読売新聞、2008年10月28日

8病院拒否 妊婦死亡

急患 都市部の盲点
…地域の「責任病院」明確化必要

 脳出血を起こした東京都内の妊婦(36)が、8病院に受け入れを断られ、出産後に死亡した。(医療情報部・館林牧子)

 要約

 ◇都市部では、救急患者受け入れに最終的に責任を持つ病院が決まっていない。

 ◇重症の妊産婦救命のため、産科と一般の救急医療を一体的に整備する必要がある。

 妊婦は今月4日午後7時前、頭痛や吐き気などを訴え、かかりつけの東京都江東区の産婦人科医院に搬送された。緊急事態と判断した医師は、東京都立墨東病院に受け入れを要請したが、「産科当直医が1人しかいない」と断られた。

 その後も7病院に断られ、1時間後、再び墨東病院に要請。同病院は別の産科医を呼び出して帝王切開を行い、脳外科当直医が脳の手術をしたものの、女性は3日後に死亡した。

 受け入れを断った病院のうち、同病院を含む3病院は、最重症の妊産婦の緊急治療に当たる「総合周産期母子医療センター」だった。

 なぜ母子医療の「最後の砦」となるはずの病院が、その役割を果たせなかったのか。

 問題の背景には、医師不足が指摘されている。だが、都市部より産科医不足が深刻な地方で、たらい回しがほとんど起きない地域もある。そうした地域では、責任を持って患者を受け入れる病院が決まっている。

 一方、都市部では、地域の救急医療に最終的な責任を持つ病院が決まっておらず、結果的に“集団無責任体制”に陥っている。地域ごとに、責任を持って患者を受け入れる病院を明確にしておく必要がある。

 もっとも、医師ら人員に限りがあり、一つの病院だけで、すべての患者を受け入れる体制を整えることはできない。本紙の医療改革提言(16日朝刊)でも訴えたように、開業医ら地域の医療機関の協力が欠かせない。

 宮崎県都城市では、産科開業医は、患者の妊婦に緊急の治療が必要になった場合、拠点となる病院に受け入れを要請したうえ、妊婦と共に、開業医がその病院に行き、病院の医師と協力して治療に当たる。別の開業医が応援に駆けつけることもある。

 都市部でも、拠点病院の救急医療に、開業医や他の病院の医師が参加し、地域全体で支える体制を作るべきだ。

 そのためには、行政が主導して、地域ごとに、病院や開業医、住民が参加する協議会を設け、緊急時の連携体制を構築することが必要になる。

 拠点病院に、同時に複数の急患が搬送されるなど対応しきれない場合、さらに広域で協力する仕組みも求められるだろう。

 今回、搬送を断った病院には、44人の産婦人科医を擁する東大病院も含まれている。救急たらい回しは、医師不足から起きていることは間違いないが、医師を増員さえすれば解決するとは言えない。

 同病院が受け入れを断った理由は、赤ちゃんを治療する新生児集中治療室(NICU)が満床だったことだった。NICUを増やすとともに、病床を常に確保するため、容体の落ち着いた患者は他の病院に移すことも必要になる。これには患者側の理解も大切だ。

 重症の妊産婦の救命には、脳外科など他の診療科との連携も重要だ。

 常駐の産婦人科医が1人しかいない岩手県立釜石病院(釜石市)では、多量出血などの緊急時には、産婦人科医と外科系医師が共同で治療に当たることにし、万一に備えた緊急招集訓練も実施している。

 今回のケースでは、墨東病院は24時間、どんな患者も受け入れる救急病院「ER」(救急治療室)でもあった。だが、同院の総合周産期母子医療センターは、ERに打診せず、いったん妊婦の受け入れを断っていた。産科と救急部門の縦割りの問題点が表れた。

 国は、産科救急と一般の救急体制を別々に整備してきたが、今後は産科と一般の救急医療を一体となって実施するべきだ。

受け入れを拒否した病院

病院 場所 拒否理由
慈恵医大 港区 新生児集中治療室が満床
慶応大 新宿区 感染症の疑いがあり、個室が必要と判断したが個室が満室
日赤医療センター 渋谷区 母体胎児集中治療室が満床
日大板橋 板橋区 新生児集中治療室が満床
順天堂大 文京区 2人の産科医が出産対応中のうえ、満床
慈恵医大青戸 葛飾区 脳神経外科の当直体制が取られていなかったため
東京大 文京区 新生児集中治療室が満床

(読売新聞、2008年10月28日)

****** 朝日新聞、2008年11月3日

産科と救急の連携強化、2学会が作業部会

 日本産科婦人科学会(日産婦)と日本救急医学会は、脳出血などの重い病気になった妊婦の救急救命体制を整備するための合同作業部会をつくり、3日初会合を開いた。都内の妊婦が8病院に受け入れを断られて脳出血で死亡した問題を受け、予定を早めて年内に協力の枠組みについて提言をまとめる。

 妊婦の症状に応じて素早く治療するための産科と救急部門の連携のあり方や連絡方法などについて、地域の実情を踏まえて検討する。

 脳出血を起こした奈良の妊婦が複数の病院に受け入れを断られて死亡した問題などを受け、日産婦は今春から、日本救急医学会に連携を強化するための作業部会設置を呼びかけていた。

(朝日新聞、2008年11月3日)

****** 読売新聞、2008年11月2日

周産期医療センター、妊婦搬送大都市ほど拒否…読売全国調査

地方「原則受け入れ」

 先月上旬に脳出血で死亡した東京都内の妊婦が、「総合周産期母子医療センター」のある病院など8病院で受け入れを拒否された問題を受け、読売新聞が全国75か所の同センターを対象に調査した結果、搬送の受け入れを「断る場合がある」というセンターが4割弱に上り、特に大都市部で多いことが分かった。

 逆に地方では大半が「原則すべて受け入れる」としている。産科医不足を背景に、土日などに「当直2人体制」が維持できないセンターは5割近くに上った。

背景に新生児治療室不足

 調査は、各センターからの回答や都道府県への取材により、71か所の状況を把握した。妊産婦の受け入れを要請された場合、「断る場合がある」は26か所(約37%)。内訳は、東京都内の全9か所、神奈川、福岡県の各3か所、大阪府と栃木県の各2か所、埼玉、千葉、茨城、群馬、和歌山、広島県と京都府の各1か所。首都圏の1都3県では回答した15か所のうち14か所(約93%)に上った。断る理由で最も多いのは「新生児集中治療室(NICU)の満床」。都市部でハイリスクのお産に対応するNICUが不足している実態が浮き彫りになった。ほかに「医師不足」「手術中」などもあった。

 大都市部では「拒否率」が5割超のセンターも7か所に上った。ただ、「ハイリスクの妊婦を受け入れるため、軽症の妊婦を断っており、適切な転院搬送の結果」(大阪府立母子保健総合医療センター)といったケースも含まれている。

 「原則すべて受け入れ」は45か所(約63%)で、地方都市で県内唯一というセンターが多かった。

 都立墨東病院がいったんは妊婦受け入れを拒んだのは「土曜日で当直医が1人しかいない」との理由だった。調査で土日や夜間に「1人体制」の時があるとしたのは34か所。その多くは規模が小さい地方のセンターで、待機医師の呼び出しで対応していた。「(大都市部と違い)うちが断れば、ほかに受け入れ先がない」(山口県立総合医療センター)といった声が複数あり、地方で当直体制が厳しいにもかかわらず、受け入れ拒否が少ない背景として、責任体制の問題も関係しているとみられる。

 総合周産期母子医療センター 最重症の妊産婦や新生児の緊急治療を担う施設で、地域の産科医療の「最後の砦(とりで)」とされる。現在、山形、佐賀の2県を除く45都道府県の75病院が指定されている。

(読売新聞、2008年11月2日)

****** 共同通信、2008年11月2日

妊婦死亡問題などを議論 産科医療のフォーラム

 周産期医療の現状や産科医不足を考えるフォーラムが1日、東京都内で開かれ、産科医ら約100人が参加、東京都の妊婦が複数の病院に受け入れを断られ脳内出血で死亡した問題などについて議論した。

 妊婦死亡をめぐり、東京都周産期医療協議会会長の岡井崇(おかい・たかし)昭和大教授が「当直の医師を1人から2人にしたらいいという簡単な問題ではない」と発言。「東京では新生児集中治療室(NICU)を含めベッドが満床のことが多く、対応が困難なケースが多い」と、東京の現状を説明した。

 水上尚典(みなかみ・ひさのり)北海道大教授は札幌市の取り組みを紹介。同市では10月1日から、地域の周産期医療の拠点病院について毎日夕、市のコーディネーターが空きベッドの状況などを確認。夜間の「当番病院」に指定されると、搬送依頼があった時点で満床でも受け入れなければならないという。

 これに対し、東京の医師からは「大きな病院が複数ある東京では、満床で受け入れるより、他の病院でよりよい治療を受けてもらおうと、結果的にほかを探して時間がかかるというケースも多い」との意見が出た。

(共同通信、2008年11月4日)

****** 読売新聞、2008年11月2日

「お産」フォーラムで救急と周産期医療の意見交換

 東京都立墨東病院などの妊婦受け入れ拒否が問題となる中、公開市民フォーラム「わが国のお産のあり方を考える」が1日、都内で開かれた。

 フォーラムでは、産科医ら約150人が、深刻な産科医不足の現状で、救急と周産期医療がどうあるべきか意見交換した。

 受け入れ拒否の解消策としては、札幌市で10月から試行されている取り組みが紹介された。同市では、コーディネーター役の助産師が毎夕、地域の病院に電話して病床の空き状況などを調べ、夜間の受け入れ当番病院を決める仕組みを採用。来年4月からの本格実施を目指しているという。

(読売新聞、2008年11月2日)

****** 朝日新聞、2008年11月2日

お産扱う病院、1年で8%減少 産婦人科医会調査

 お産を取り扱う病院が昨年から今年にかけて全国で8%(104施設)減ったことが1日、日本産婦人科医会の調査でわかった。同医会の中井章人・日本医科大教授が、日本産科婦人科学会(日産婦)と厚生労働省の研究班が東京都内で開いた市民フォーラムで報告した。同医会は、過重な労働などに伴う産科の医師不足が原因とみている。

 同医会が今年7月に実施した調査によると、分娩(ぶんべん)を取り扱う病院は、07年の1281施設から1177施設に減った。常勤の医師数は1施設当たり4.5人から4.9人に増えた。

 厚労省研究班の主任研究者を務める岡村州博・東北大教授は同フォーラムで、「産科医の数を増やすには数年かかる。今はとにかく医師たちが辞めない環境づくりが重要だ」と訴えた。

 吉村泰典・日産婦理事長は、東京都内の妊婦が8病院に受け入れを断られた後に死亡した問題に触れ、「年に約100万件のお産のうち、脳出血で亡くなる妊婦は約20人。欧米でもこのような妊婦を救命する体制はできていないが、日本でまず整備していきたい」と語った。

(朝日新聞、2008年11月2日)

****** 毎日新聞、2008年11月2日

公開市民フォーラム:産科・救急のあり方探る 妊婦死亡踏まえ--東京

 日本のお産のあり方を考える公開市民フォーラム(日本産科婦人科学会など主催)が1日、東京都内で開かれた。都立墨東病院などに受け入れを断られて妊婦が死亡した問題を受け、救急と周産期医療のあり方などについて意見を交わした。

 産科医や市民ら約150人が参加。初めに、厚生労働省の研究班などが、1カ月間の在院時間が340時間を超えるなど大学病院での産科医の厳しい勤務実態のほか、分娩(ぶんべん)施設の集約化、周産期医療の地域連携などの具体例を報告した。

 その後、参加者らが討論。救急と周産期医療の連携について「札幌では妊婦の受け入れ可能な病院の優先順位を毎日確認しているため、すぐに搬送先の病院が決まる」などの事例が紹介された。また、勤務医の労働環境改善には「引退した産科医を再び現場に戻すことを考えてはどうか」「開業医が病院の支援に参加しやすい仕組み作りが必要」などの意見が出た。【河内敏康】

(毎日新聞、2008年11月2日)

****** 時事通信、2008年11月1日

産科医辞めぬ取り組みを=たらい回しと言わないで-医療体制でフォーラム・東京

 産科医不足が深刻化する中、日本産科婦人科学会などは1日、東京都内で「わが国のお産のあり方を考える」と題した公開フォーラムを開いた。勤務医の労働実態に関する調査を踏まえ、医師が辞めずに働き続けられる環境整備などについて活発な議論が交わされた。

 フォーラムには、全国の産科医のほか、他科の医師、一般市民ら約150人が参加。厚生労働省研究班が、産科勤務医の在院時間が月300時間に上るとの調査結果を報告。単純な勤務時間でなく、呼び出し待機を含めた拘束時間で考える必要性を指摘した。

 小阪産病院(東大阪市)の竹村秀雄理事長は、病院が少ない大阪府南部で4市3町が協力した医療連携を紹介。当直回数は変わらないが呼び出しが減り、常勤医の生活の質が上がったという。

 東京都内で8つの病院に救急搬送を断られた妊婦が死亡し問題化したが、札幌市では先月、コーディネーターが各病院の受け入れ状況を毎夕確認し、搬送先を決める体制が始まった。報告した北海道大の水上尚典教授は「医師がいても満床では受けられない。状況把握が必要」とした。

 岡井崇昭和大教授は、妊婦死亡の報道について「『たらい回し』『受け入れ拒否』という言葉は(受け入れるかどうか)自分で決める余地があるようで現状と違う。その病院で働く人のやる気がそがれる言葉を使わないでほしい」と求めた

(時事通信、2008年11月1日)

****** 毎日新聞、2008年11月1日

妊婦受け入れ拒否死亡:墨東病院の当直、可能な限り2人--休日体制

 東京都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題で、都は31日、墨東病院の11月の休日当直を「可能な限り2人体制とする」と発表した。墨東病院は産科医不足から、7月以降は休日当直を原則1人体制とし、妊婦の搬送に対応できていなかった。

 都病院経営本部によると、新たな医師が確保できておらず、緊急避難的な対応。11月は院内の医師をやりくりし、休日当直が1日中1人となる日を3日間に抑えた。1人当直は、常勤医に担当させる。また、新事業として▽都立病院に協力できる地域の医師を対象にした「産科診療協力医師登録制度」の創設▽休日・夜間の中リスク患者の緊急搬送に対応する「周産期連携病院」の指定--を進める。関連の補正予算案を12月議会に提案する。【須山勉】

(毎日新聞、2008年11月1日)

****** 産経新聞、2008年11月1日

【妊婦死亡】墨東病院、可能な限り2人当直体制へ

 東京都内の妊婦が都内8病院で受け入れを断られ、出産後に脳内出血で死亡した問題で、問題が発生した都立墨東病院(墨田区)は、11月の土日祝日の当直体制を、これまでの1人体制から可能な限り、2人体制へと強化するとした。

 都によると同病院の11月の当直が全日2人体制になるのは、土曜日5日間のうち4日間(1、15、22、29日)と、日曜祝日の7日間のうち3日間(2、3、24日)。また、23、30日の日曜日は夜間当直のみ2人体制となる。

 当直が1人体制の日は問題発生時に当直に入っていた研修医は入らず、常勤医師による当直体制をとる。

 今回は、同病院内の当直に入る産科医15人の中で、当直回数を増やしながら2人体制を実現。都は「かなり無理をしており、11月中は緊急対応としてやる」と述べ、今後は他の医療機関からの協力を得ながら当直体制の充実を図りたい意向だ。

(産経新聞、2008年11月1日)

****** 毎日新聞、2008年11月1日

妊婦受け入れ拒否死亡:「産科医月300時間拘束」 学会、厚労相に改善訴え

 妊婦が8病院に受け入れ拒否され死亡した問題で日本産科婦人科学会(吉村泰典理事長)は31日、舛添要一厚生労働相に「周産期医療と救急医療の連携」などを柱とした緊急提言を出した。

 学会は、今回のような母体の救急救命は周産期医療と救急医療の中間的な位置にあるとして「両者の連携が不可欠だが、現行の取り組みは不十分」と指摘。情報交換の迅速化を図るとともに、小児集中治療室の病床不足解消のため重症心身障害児施設の整備などを進めるよう求めた。また、産科医が病院内にいる平均時間が、一般病院で月292時間、大学病院で月341時間にのぼるとの調査結果を示し「過酷な労働の改善と、相応の処遇が必要だ」と訴えた。

 舛添厚労相は「国として長期的な医師不足の処方せんは示しているが、提言を生かして短期的な問題の検討も進めたい」と述べ、週明けにも専門家から意見を聞いて再発防止策をまとめる意向を示した。【清水健二】

(毎日新聞、2008年11月1日)

****** 共同通信、2008年10月31日

産科医、月300時間の拘束  過酷勤務明らか、初の実態調査

 全国の一般病院や大学病院に勤める産婦人科医が、診療や待機などで拘束されている時間は月平均で300時間を超え、中には500時間以上の医師もいることが、日本産科婦人科学会による初の勤務実態調査の中間集計で31日分かった。

 単純に1カ月30日として割ると、300時間の場合は休日なしで毎日10時間、最長の例では同16時間拘束される計算になる。

 学会は「過酷な勤務の一端が数値で示された」とし、厚生労働省に報告。詳しい内容を11月1日に都内で開く公開市民フォーラムで発表する。

 集計は一般病院の221人、大学病院の76人の勤務医からの回答を基にまとめた。一般病院のうち、当直勤務がある一般病院の医師は月平均4・2回の当直をこなし、病院にいる時間は月平均301時間だった。

 当直がない一般病院では、実際に病院にいる時間は平均259時間だったが、お産があると必ず呼び出される「病院外での待機時間」も含めると、拘束時間は平均350時間に上った。

 一方、大学病院の勤務医は、大多数が一般病院でのアルバイトもこなすため拘束時間は平均341時間と長く、当直は月平均5・8回。最長で505時間だった。

(共同通信、2008年10月31日)

****** NHKニュース、2008年10月31日

東京都が産科医不足で新対策

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が都内の8つの医療機関から受け入れを断られたあと死亡した問題を受け、東京都は、拠点病院の受け入れ態勢を確保するため都が費用を負担したうえで地域の産科医を拠点病院に派遣してもらう新たな取り組みを進めていくことになりました。

 この問題は、東京に住む妊娠中の女性が今月4日脳内出血を起こし、都内の8つの医療機関から受け入れを断られたあと死亡したものです。この問題で、最初に受け入れを断った都立墨東病院は緊急の治療が必要な妊娠中の女性を受け入れる拠点病院に指定されていましたが、土日と祝日の産科医の当直が1人しかおらず、原則として救急患者の受け入れを断っている状態でした。東京都内のほかの拠点病院でも産科医の不足で十分な当直態勢がとれないところがあり、都ではこうした状態を少しでも解消していくために新たな取り組みを進めていくことになりました。具体的には、拠点病院の産科医の態勢が手薄になる日に地域の別の総合病院などから産科医を派遣してもらい常に複数の医師が病院内に待機する態勢を確保していく方針です。派遣に伴う費用は東京都が負担することにしていて、都ではこの費用などを盛り込んだ補正予算を12月の都議会に提案することにしています。

(NHKニュース、2008年10月31日


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