ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

臍帯結紮のタイミングについて

2011年01月13日 | 周産期医学

国際蘇生連絡委員会(ILCOR)のコンセンサス2010では、蘇生を必要としない新生児では、少なくとも1分以上、臍帯結紮を遅らせること(臍帯遅延結紮)を推奨しています。

欧米人を対象にした正期産児での報告では、臍帯遅延結紮によって乳児期早期まで鉄貯蔵が改善するが、新生児期の黄疸に対する光線療法の頻度が高いことが判明してます。

わが国では人種的に新生児期のビリルビン値が高く、臍帯遅延結紮を導入した場合、光線療法の頻度の増加とそれに伴う児の入院期間の延長が危惧されます。わが国で臍帯遅延結紮を導入するかどうかは、質の高い臨床研究の結果を待って判断する必要があるので、それまではわが国での採用は保留することになりました。

参照:日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく新生児蘇生法テキスト、98ページ

Cordcut_2

夫による臍帯切断の様子

(患者さんからブログへの写真掲載の承諾を得ました)


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5 コメント

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そもそもいつからどういう根拠で、わが国では早期... (ある一人の勤務医)
2011-01-14 18:20:00
採用は保留する、保留はどういう意味なのでしょうか。反対でもないし、そもそも早期結サツはいつから推奨されているのでしょうか。
この表現は、従来から行なっている慣習を、単に変えたくないとの印象に思います。
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臍帯を早期に結紮するのか?遅れて結紮するのか?... (管理人)
2011-01-15 04:08:02
私がこれまで関わってきたいくつかの病院においても、病院ごと、助産師ごとに臍帯結紮のタイミングはバラバラでした。昔は、「臍帯に拍動を触れるうちは臍帯結紮しない」助産師もいたように記憶してます。中には、「臍帯をしごいて臍帯血管内の血液を全部児側に押し込んでから臍帯結紮する」助産師もいたように記憶してます。

当科においては、出生直後の臍帯動脈採血を全例で実施するようになってからは、臍帯結紮のタイミングが遅れると臍帯動脈内に血液がなくなってしまい採血できなくなってしまうので、自然に臍帯早期結紮に統一された経緯があります。
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管理人様、コメント有難うございます。日本版蘇生... (ある一人の勤務医)
2011-01-15 07:15:25
なお、管理人様の病院で、臍帯血採血の目的で早期結紮をするとの論法は、本末転倒のように思います。(気持ちは分かりますが)
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臍帯結紮のタイミング,すなわちearly clampかlate... (こども病院産科医)
2011-01-31 18:10:58
Early clampとlate clampには臨床的にそれぞれ利点と短所があります. Late clampは管理人がいみじくも指摘されているとおり貧血の減少という利点がありますので,低体重児分娩のときは必須となります. 逆に成熟児では多血傾向となり,溶血による高ビリルビン血症の頻度が有意に高くなります. すなわち新生児黄疸です.

これまで欧米でearly clampが推奨されてきたのは,分娩第3期の出血を少なくするための積極的管理(AMTSL)のプロトコール中に臍帯早期結紮があったためです. しかし2000年代の大規模RCTで,臍帯の結紮時期と分娩第3期の出血量の間には関係のないことが明らかにされています.

コクランレビューでも出血量には差がないこと,late clampで鉄貯蔵量が増加すること,高ビリルビン血症の頻度が増加することを指摘し,一応late clampを推奨しながらも,状況(すなわち児体重や民族的な差)に応じての判断を求めています.

ILCOREがこれらの留保を抜きに新ガイドラインにlate clampを入れたのは,わたしからみれば勇み足に見えます. 新生児黄疸の頻度が高い日本において,NCPR事務局がわが国独自のRCTを行ってその結果を待ちたいとしたのは正しい判断だと思います.

実際に臍帯結紮時期に関する臨床研究が計画されています. EBMの真の姿勢というのはこういうものではないでしょうか.
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こども病院産科医様、コメントありがとうございます。 (管理人)
2011-02-02 07:45:53
日本では、これまで年間分娩件数が300~400程度の比較的小規模な分娩取扱施設がほとんどであったため、産科分野でのRCTの実施は非常に難しい状況にあったと思われます。EBMではなく、個人的な経験に基づいた産科診療を実施している医師や助産師が多いと思われます。現在我々が利用可能なエビデンスのほとんどは、欧米の臨床研究に基づいたものばかりです。今後、日本でも産科集約化が進んで産科の大規模施設が増えれば、わが国独自のRCTも実施可能となるかもしれません。
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