国際蘇生連絡委員会(ILCOR)のコンセンサス2010では、蘇生を必要としない新生児では、少なくとも1分以上、臍帯結紮を遅らせること(臍帯遅延結紮)を推奨しています。
欧米人を対象にした正期産児での報告では、臍帯遅延結紮によって乳児期早期まで鉄貯蔵が改善するが、新生児期の黄疸に対する光線療法の頻度が高いことが判明してます。
わが国では人種的に新生児期のビリルビン値が高く、臍帯遅延結紮を導入した場合、光線療法の頻度の増加とそれに伴う児の入院期間の延長が危惧されます。わが国で臍帯遅延結紮を導入するかどうかは、質の高い臨床研究の結果を待って判断する必要があるので、それまではわが国での採用は保留することになりました。
参照:日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく新生児蘇生法テキスト、98ページ
夫による臍帯切断の様子
(患者さんからブログへの写真掲載の承諾を得ました)
この表現は、従来から行なっている慣習を、単に変えたくないとの印象に思います。
当科においては、出生直後の臍帯動脈採血を全例で実施するようになってからは、臍帯結紮のタイミングが遅れると臍帯動脈内に血液がなくなってしまい採血できなくなってしまうので、自然に臍帯早期結紮に統一された経緯があります。
これまで欧米でearly clampが推奨されてきたのは,分娩第3期の出血を少なくするための積極的管理(AMTSL)のプロトコール中に臍帯早期結紮があったためです. しかし2000年代の大規模RCTで,臍帯の結紮時期と分娩第3期の出血量の間には関係のないことが明らかにされています.
コクランレビューでも出血量には差がないこと,late clampで鉄貯蔵量が増加すること,高ビリルビン血症の頻度が増加することを指摘し,一応late clampを推奨しながらも,状況(すなわち児体重や民族的な差)に応じての判断を求めています.
ILCOREがこれらの留保を抜きに新ガイドラインにlate clampを入れたのは,わたしからみれば勇み足に見えます. 新生児黄疸の頻度が高い日本において,NCPR事務局がわが国独自のRCTを行ってその結果を待ちたいとしたのは正しい判断だと思います.
実際に臍帯結紮時期に関する臨床研究が計画されています. EBMの真の姿勢というのはこういうものではないでしょうか.