ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

「上田地域の周産期医療の展望」~信州大学の先生方による医療講演会~

2010年07月24日 | 地域周産期医療

平成22年7月21日(水曜日)午後2時~5時、上田市の「ひとまちげんき・健康プラザうえだ」で、「上田地域の周産期医療の展望」と題する医療講演会が開催された。この講演会は上田市が主催し、長野県、国立病院機構長野病院、上田地域広域連合が共催し、上田市医師会、小県医師会が後援した。演者は、信州大学医学部産科婦人科学講座:塩沢丹里教授、同麻酔蘇生学講座:川真田樹人教授、同小児医学講座:小池健一教授(信州大学医学部付属病院長)の3教授であった。

まず、塩沢丹里教授は、減少傾向にある産婦人科医の現状説明から入り、その要因として、新臨床研修制度の開始、激務、訴訟リスクの高さ、女性医師の増加に伴う離職・退職の増加などを指摘した。産婦人科医を増やしていくには産婦人科医のQOLや処遇を改善することが不可欠とし、それらの実現には「集約化が最も可能性のある対策」と強調した。「お産難民を出さないことが最重要課題」として、現在県内に9ある「連携強化病院」(北信総合病院、長野赤十字病院、篠ノ井総合病院、佐久総合病院、県立こども病院、信州大学医学部付属病院、諏訪赤十字病院、伊那中央病院、飯田市立病院)へ重点的に若手医師を派遣していることに理解を求めた。

川真田樹人教授は、まず麻酔学の歴史について説明したあと、長野県の麻酔科医養成の展望について語った。約20の県内の関連病院での麻酔科医数を3~4人へ適正化するには、今後15年間で80人養成する必要があるものの、供給源が信州大だけでは20人不足するとの試算を示した。麻酔科医の確保には、出入り自由な教室運営、他大学とのオープンな協力関係の構築、他県からの受け入れ、などの対策が必要とし、「上田でもできる限り知恵を出し合い、麻酔科としてできることができたら」と述べた。

小池健一教授は、御自身が上田市出身であること、上田地域の医療体制の再構築にかける御自身の熱い思いなどを語った。上小医療圏の地域医療再生計画が選ばれたことは「本当に幸せなこと」とする一方で、「失敗は許されないという思い」とも語り、地域医療の再構築への決意を表明した。医療体制の再構築には単なる機能の回復だけでは「10年後にもたない」とし、信州大学、国立病院機構長野病院などのネットワークで「当地域で初期研修をしてもいいという人をリクルートすることを一番望む」と期待を寄せると同時に、国立病院機構長野病院には初期研修医受け入れ態勢の充実などを求めた。

医療講演会「上田地域の周産期医療の展望」(上田市公式ホームページ)

****** 以下、私見 

上田市を中心とした「上小医療圏」(人口約22万人、分娩約1800件)では、国立病院機構長野病院の産婦人科が地域の産科二次施設としての役割を担ってきましたが、2007年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。

現在、同医療圏内で分娩に対応している産科一次施設および助産所は、上田市産院(上田市)、上田原レディース&マタニティークリニック(上田市)、角田産婦人科内科医院(上田市)、東御市立助産所とうみ(東御市)などです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車で医療圏外の高次施設に母体搬送されています。

現在の同医療圏の周産期医療の厳しい状況は、かなり以前より多くの人が予測してました。信州大学産科婦人科学講座・前任教授の小西郁生先生(現・京大教授)は、その根本的な解決策として、上田市産院から信州大学の派遣医師を引き揚げ、国立病院機構長野病院・産婦人科を全面的に支援していくという信州大学・産婦人科の方針を2005年に表明し、多くの人がその方針の実現に向けて努力しましたが、諸事情によりその方針を断念した経緯があります。

今は産科一次施設の先生方が必死に頑張っておられるので何とかなってますが、先生方の年齢構成(五十代~六十代)を考えると、今のままでは、地域内のどの施設も五~十年後には分娩取り扱いの継続が困難となる可能性があります。産科二次医療が存在しない地域では、産科一次施設での分娩の取り扱いの継続が次第に困難となってゆくことが予想されます。また、産婦人科二次医療を提供する研修施設が存在しなければ、産婦人科志望の若手医師を集めることもできません。上小医療圏の地域医療再生計画では、これから何十億円もの貴重な国費が集中的に投入されるわけですから、上小医療圏で産婦人科2次医療が提供されるよう医療提供体制再構築のために最大限の努力をしていく必要があります。将来的に多くの若手医師が集まってくるように、医療提供体制を根本的に変革していく必要があります。今回の信州大学の3教授による周産期医療講演会の中でも、そのことが異口同音に何度も何度も強調されてました。

『今この地域で最も必要とされているものは何なのか?』について、もう一度根本からよく検討し、医療圏全体で一体となって、地域の周産期医療提供体制を再構築するための第一歩を踏み出していく必要があると思われます。


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